アプリの危険性
米太郎
アプリの危険性
夏でも夜が涼しい日もある。
食事も済んだので、リビングでのんびり携帯をいじっていた。
なんだっけ、このアプリ。
思い出せないなー……。
「変なサイトでも見てたんでしょ? 危ないから消しておくのよー」
「はーい」
高校生になる時に、携帯を買ってもらった。
中学生まではキッズフォンっていうものを使っていて、アプリダウンロードとかゲームで遊ぶ時間がガチガチに拘束されてたけど、それももうなくなったんだ。
へへへ。
やりたい放題。
そんなことを思っちゃった事もありました。
どこのサイトのせいだろうな。
分からないけど、危ないからこういうのは消しておきましょ。
アプリを長押しして、ゴミ箱へ。
けど、アプリを削除してから思い出した。
これ、
申し訳ないけど、遊んでないし無くてもどうってことないよね。
私には必要なかったのです。
ごめんなさい。
美涼ちゃん。
「明日は登校日でしよ。早く寝なさいよー」
「はーい」
せっかくなら、この機会に色々いらないアプリを整理しようかな。
これは、
可愛いけど、それだけって感じ。
中身をもっと充実させて欲しいな。
こっちは面白かったけど、いつも同じことの繰り返しなんだよね。
飽きちゃったな。
そうやってアプリを消していった。
◇
「お母さん、行ってきまーす」
いつもの登校時間になると、家を出た。
夏休みの途中でも学校へ行くって、休みって何だろうって思うよ。
そんな登校日。
暑い日差しが私を刺してくる。
日傘でもさそう。
日傘から一切手足を出さないように気を付けて。
そんなことばかり気にして、学校へと急いだ。
学校についたら、いつもの教室へと入る。
予鈴には少し早い時間かもしれないけど、人が少ないようだった。
登校日は必ず来るようにって先生から言われていたのになー。
友達が来るのを待っていたけど、来ないまま予鈴が鳴った。
みんな、どうしたんだろうな?
連絡を取ってみようとメッセージを送っても、いっこうに既読がつく様子が無かった。
そう思っていると、先生が教室へと入ってきて、神妙な顔をして話し始めた。
「今日は、残念なお知らせがあります」
なんだろうな?
「先日、宮永さん、滝沢さんが亡くなりました」
……え? どういうこと?
先生の言うことには、二人とも自殺だったらしい。
「私は必要とされていない人間だ」って言って、海へと飛び降り自殺を図ったとの事だった。
そんなの言う子じゃなかったのに……。
「皆さん、悩み事があれば誰かに相談して欲しいです。先生でも良いです」
そんなに悩んでいるなら、私に相談してくれても良かったのにな……。
教室がどんよりと暗いムードになったが、すぐに体育館で講話があるからと言われて、クラス全員で向かった。
◇
体育館につくと、初めて見る講師の人がステージの上に立っていた。
先に着いていたクラスの生徒は、体育館に並べられたパイプ椅子に座っていた。
なんだか、入学式とか、卒業式みたいな雰囲気。
名前順に、決められた席へと座っていくが、私の隣の席は空いたままだった。
入学式の時には、宮永さんがいた席……。
宮永さんが亡くなってしまったのだと、あらためて突きつけられているみたいだった。
全ての生徒が揃ったようだったので、講話が開始された。
壇上の講師が一歩前に出て話し始めた。
「本日は、スマートフォンの危険性についてお話します」
そう言って講話は始まった。
講師の方の話は進んでいくけれど、私は自殺していった子達のことが頭から離れなかった。
こういう話がある時にも、宮永さんと一緒になってちょっとふざけ合ってたな……。
何で自殺なんかしちゃったんだろう……。
「スマートフォンには、色々なアプリというものが入れられます」
そうそう、宮永さんに紹介してもらったアプリで一緒になって遊んでたんだよ。
あんなに楽しかったのにな。
「アプリには、思いが宿ることがあります」
うん。思い入れのあるアプリもある。
滝沢さんに教えてもらったアプリとかも楽しかったな……。
「皆さん、スマートフォンを出して見てみてください」
講師に促されるまま、スマホを取り出す。
宮永さんと一緒になって遊んだアプリ……。
そうか、昨日の夜に消しちゃったんだ。
アプリがあった位置には、今はアイコンが無かった。
「むやみにインストールするのは危険です」
うん、だから昨日も整理してたし。
考えなしに、無暗に入れちゃうのはセキュリティリスクが高まるってやつだよね。
「そして、無暗に削除することも危険です」
……ん? 削除が危険ってどういうこと?
「思いの宿ったアプリを削除してしまうと、思い入れのあった人も一緒に削除されてしまいます」
……削除? そんな話、聞いたこと無い。
なにそれ。削除されるって……。
「いつ何が起こるかわからないので、思い入れのあるアプリは人に教えないことが一番重要です」
教えてもらったアプリを消しちゃったから、宮永さんは削除されちゃったってこと?
削除って、死んじゃうってことなの……?
神妙に話していた講師は、切り替えたように明るくなった。
「けれども、ここまでは誰でも知っていることなので、皆さんは大丈夫だと思います」
どこかのCEOのように歩きながらプレゼンテーションを始めるように、ステージを歩きながら話し始める。
「これでアプリの危険性はわかったかと思います。これと同時に、セキュリティリスクというものもあります。いらないアプリはどんどん消しちゃいましょう」
宮永さんの席とは逆隣の男子が、「へぇー」っていいながら、アプリを消していった。
すると、ガタっと椅子が鳴る音がして、隣のクラスの男子が立ち上がった。
そして、それと同時に体育館の入口に向かって走り出した。
なんだろう、あの人……。
何があったらそんなに急いで走っていくの……?
生徒達は、講師の話通りにそれぞれが思い思いに、自分のスマホからアプリを消していっている。
パイプ椅子の音が次々と鳴って、生徒が立っては体育館の入口へと走っていく。
……なにこれ、なにこれ。
さっきの講師の話だと、みんなこのまま自殺をしに行くの……?
隣の男子は走り出していなくて、席で携帯をいじっていた。
「あーこれ、俺の好きなアプリだったけどな。もうやらないから消しておこうかな」
そう言って男子がスマホを操作した瞬間、その男子も立ち上がって体育館の入口へと走り出した。
講師の人は、うんうんと頷いている。
「それでは皆様。残り少ない夏休みを楽しくお過ごしくださいませ」
そう言って講師は体育館を後にした。
周りを見渡すと、誰一人生徒はいなかった。
いつも一人でいるような子。
いじめっていうわけじゃないけど、なんだかみんなから相手にされない子。
私くらいしか、野宮さんと話したことが無いっていう子。
野宮さんは、スマホを取り出した。
そして、おもむろにしゃべり始めた。
「今日は良い講演だったね」
笑って話す野宮さん。
私は、その異様な光景に返事ができないでいた。
「あなたから教えてもらったアプリ」
そう言って、ニコッて笑う野宮さん。
私の顔は引きつっていたと思う。
それにつられつられてか、野宮さんの笑顔が消える。
「あなたは、私を飽きさせないでね?」
アプリの危険性 米太郎 @tahoshi
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