第6話 「……いい参考資料になりそうだね」

「「……」」



 2度目のキスが終わった俺たちは、しばらく話せなかった。


 小春はどうか分からないが、初めてのキスがこんなにも心地いいものだと思わなかったんだから。



「……颯太、いやじゃ……なかった?」


「嫌じゃないって。むしろ……心地よかった」


「……そっか」



 それからまた、俺たちの間に静寂が訪れた。


 ……正直に言うと、心地いいと思うどころか、もっとキスしていたいと思うくらいだった。


 自分でもこの気持ちをどう説明したらいいのかよく分からない。こんなこと初めてだから当然だ。



「……今度は私がくわえる番だね」


「……うん」



 そうだ。まだこれで終わったわけじゃない。逆のパターンも撮らないといけないんだ。


 そう考えると……少し嬉しくなった。


 小春は小袋からポッキーを1本取り出して、口にくわえた。


 そして、もう片方を俺がくわえる。



「……じゃあ、いくぞ」


「……うん」



 ─サクッ



 俺は一口ポッキーを食べ進めた。


 食べる方になると、今から俺は小春の唇を奪うんだ、という背徳感が凄かった。



 ─サクッ



 ─サクッ



 ─サクッ



 ─サクッ



 ─サクッ



 ─サクッ



 ──サクッ



 俺はさっきより速くポッキーを食べ進め、小春にキスした。


 小春の唇を──奪った。


 その事実が俺の脳内にこびりついて離れなかった。


 そしてさっきと変わらず、柔らかくて、みずみずしくて、心地いいキスだった。



 もうこのままでいたい。



 そんなことが頭によぎった。


 そんなことを考えてしまうほど、俺はポッキーゲームに毒されているのかもしれない。



 俺は小春から唇を離した。

 さっきのキスよりも明らかに長いキスだった。



「「はぁ……はぁ……」」



 長い間息を止めていたせいで、お互い息が切れていた。



「……とりあえず、動画止めるね」


「ああ……お願い」



 小春はベッドに置いていたスマホに手を伸ばし、動画を止めた。



「……」


「……」



 だいぶ息が整ってきた。けど、頭はなんだかふわふわしたような感じだった。




「……ねえ、そうた」


「……なんだ?」


「……キス、していい?」


「……」




 俺もいま小春とキスしたい。そう思っているけど、そんなことをしてしまえば本当にどうにかなってしまいそうだった。



「…………だめ?」


「……いいぞ」



 でもそんなことを言われて、断れるわけがなかった。



「……」


「……」



 そして、小春が何も言わずに俺の顔に近づいてきた。



 俺と小春が目を閉じて、キスしようとしたとき、



 ――ピコン



 小春のスマホの通知音が鳴った。

 それと同時に俺たちは我に返ったかのように、本当にバッという音が聞こえるくらい離れた。



「「……」」



「……どうかしてたね、私たち」


「……ああ」



 本当にどうかしていたと思う。きっとポッキーゲームの空気に当てられておかしくなっていたんだ。



「……動画送らないと」


「……2回目のやつは送れないな」


「……そうだね」



 最後の方は、なんというか完全にカップルのそれだった。少なくとも幼馴染同士だとは思えないほどに。まあただの幼馴染同士でポッキーゲームをするっていうところからおかしいわけだけど。



「……いい参考資料になりそうだね」


「……だな」



 小春は最初と最後のやつの動画を葵に送った。

 ……考えてみれば、この俺たちのポッキーゲームが漫画になるわけだよな。

 そっくりそのままというわけではないだろうが、俺たちはそれを見ることになるのか……。



 ―ピコン



「あ、もう返事きた」


「早いな!?」



 想像以上の返信の速さに俺は驚いた。30秒くらいしか経ってないんじゃないか……?


 そして、葵のスマホにはこう表示されていた。



『これ付き合ってるよね?』


「「……」」


『付き合ってるんだったら今度キスするとこの動画も送って欲しいです』


「「……」」


『まあ付き合っていようがなかろうが、どっちにしろ今度キスするシーンを送ってほしいとは思ってるけど』


「「…………」」



 小春は爆速でタイピングをしだした。



『付き合ってないから!ただの幼馴染だから!てかキスシーンもやるの!?』


『ええ?これでただの幼馴染と言われたら幼馴染の定義わけわかんなくなっちゃうよ?

ぜひキスシーンもお願いします』



 ……いっそのこと動画を撮ったままあのままキスして葵に送りつけてやってもよかったのかもしれない。

 絶対にないけど。



「……思ったんだけど」


「……うん」


「……もしかして颯太、私のこと好き?」


「……それを言うなら小春だって俺のこと好きなんじゃないか?」


「幼馴染として颯太のことは好きだよ?」


「俺だって小春のことは幼馴染として好きだ」


「でもあんなに満更でもなさそうにしてたじゃん」


「小春だってキスして欲しそうにしてただろ」


「それはその……ポッキーゲームでちょっとおかしくなってただけだし……」


「でも本当に俺のことは異性として好きじゃないのか? あんだけ欲しそうにしておいて」


「……そこまで言うなら、証明してみる?」


「どうやって?」



「例えば…………ハグしてみるとか」

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幼馴染の友達に「2人でポッキーゲームしてくれない?」と言われた 【活動休止中】月城 朔 @Saku_Tsukishiro

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