第2話
恐る恐る振り返るとそこには女性が1人。
田舎には不釣り合いな綺麗な人だった。
「こんばんは」
と一応返答する。
ちゃんと人間である事が認識でき正気が戻ってくると、女性の声に聞き覚えがあるような気がしてきた。
うる覚えが確信に変わったのはその女性が髪をかきあげた時の仕草を見た時であった。
「あ、あの、、はづき、さん?」
暫くキョトンとしていた。
しまった、、田んぼに飛び込みたい。
咄嗟に聞いてしまったはいいが、この後のこの気まずい時間を考えていなかった。
咄嗟に聞いてしまった自分が恥ずかしくて仕方ない。
どう切り抜けようか考えていると、
「もしかして、たくやくん?」
やっぱり、はづきさんだった。
「そう、です。」
咄嗟の切り返しに敬語になってしまったが、はづきさんであった事にほっとした。
僕たちが生まれ育った田舎は子供の数が兎に角少ない。
保育園から中学校まで1クラスだし、そのクラスも10〜20人しかいない。そういう環境で10年近く1日の大半を一緒に過ごすわけだから家族みたいなものだ。
「始めは名前当てられて怖かったけど、慌ててる仕草見て、あ、たくやくんだ!って思った」
「えーと、とりあえず、当たってホッとしてる」
2人の空間にワッと賑わいが訪れた。
そこからというもの、どれくらい2人で話していたか分からない。
中学時代までのこと、卒業して、高校、大学、社会人になってからのこと、いろいろ話した。
はづきさんと話してるなんて、学生時代には考えられなかった。
誰にも言うこともなかったのだが、はづきさんとのことが好きであった。結局、片想いで終わっていたが。
あの頃は、自信がなく、声すらかけられなかったから、この時間が本当に尊い。
話題もひと通り終わり、そろそろ帰ろうかという雰囲気になった時であった。
「ねぇ、たくやくん。」
「どうしたの?」
しばらくの沈黙があってから
「私、まだ苗字変わってないんだぁ」
「そー、なんだ」
どう相槌をとれば正解なのか分からず、咄嗟に出た言葉は素っ気ないリアクションであつた。でも、なぜか心がざわついた。
「ごめんね、急に何のこと?だよね。」
変わらない笑顔を見せながら、続けた。
「私さ、ずっと言えなかったことがあったの。私ね、たくやくんのこと好き。あの頃からずっと。」
人間本当に驚くと思考が停止するものだなと感じた瞬間であった。
心臓だけがうるさかった。
はやく何か答えなきゃと絞り出した第一声は、
「あの、はい」
声も裏返っており、情けない返答になった。
これでは伝えてくれた相手にも失礼だと思い、自分の思いも続けた。
「僕もあの頃からはづきさんのこと好きでした。この気持ち、今も変わらないままです。」
はづきさん自身も驚いたようで、一瞬固まっていたが、情報の処理が追いついてきたのか、顔には満面の笑みが溢れた。
2人は家路に着く。祝福するかのように蛍達が煌々と2人を照らしていた。
夏めく 梅嵜すずり @z_omk9
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