クロスプレー

船越麻央

第1話

 カキーン! 

 鋭い金属音を残して打球が上がった。しめたライトフライだ!


 サードランナータッチアップの構え。


 ライトが捕球態勢に入る。浅いフライだ。

 俺はマウンドからバックアップに走る。


 ライトがフライを捕球するのが見えた。


 サードランナースタート!


 ライトからのバックホーム! 大丈夫だ、ヤツの肩なら必ず刺してくれる!


 猛然と突っ込んでくるランナー! ホームを死守するキャッチャー、俺の相棒!

 ライトからいいボールが返ってきた!


 ヘッドスライディングしてくるランナーに腕を伸ばしてタッチ! タイミングは微妙!


 アウトなら試合終了、セーフなら同点。


 審判の判定は……アウトか……セーフか……。


 夏の全国高校野球選手権大会、地区予選決勝。俺たちのチームはここまで勝ち上がった。今日勝てば甲子園! 決勝の相手はいわゆる強豪校。相手にとって不足なし。


 背番号1を背負う俺はこの試合のマウンドを任された。相手のピッチャーはプロ注目の好投手だ。しかも強力打線のチームである。


 しかし投手戦になった。8回の表まで両チームゼロが並んだ。

 その裏ついに相手に1点をとられた。1ー0。


 俺たちに残されたのは9回表の攻撃のみ。このままでは負ける。


 そして9回表、ツーアウトになった。ダメか……。


 俺は思わず下を向いた。3年間苦楽を共にした女子マネージャーの顔が浮かぶ。


 応援席の友人たち、チアリーディング部の皆さん……。


 すまん……俺のせいだ……本当にすまん……。


 歓声が聞こえた。試合終了か……夏が終わってしまったか。

 俺は顔を上げた。


 信じられない光景が目に入った。


 何でもないピッチャーゴロを相手投手が一塁に悪送球したのだ。


 ツーアウト、ランナー二塁となった。


 こうなるともう押せ押せである。あっという間に同点、そして逆転してしまった。2ー1となって9回表が終わった。後は俺が9回裏を抑えれば……。


 その裏、さすがに相手も粘る。先頭打者に三遊間を破られた。盗塁と送りバントでワンアウトランナーサード。


 スクイズでくるか、打ってくるか。犠牲フライでも同点だ。


 スクイズの気配はない。よし勝負してくれるようだ。


 俺はバックスを信じて投げるだけだ。今まで何度もファインプレーで俺を救ってくれた。疲れがないと言えばウソになる。しかしここはバッターに集中して腕を振るのだ。そして甲子園に行く!


 初球ボール、二球目ストライク。三球目ボール。


 さあ打ってこい、打ってこい、打ってこい。俺は相棒のキャッチャーのサインにうなずく。


外角へのストレート。コントロールには自信がある。よし打てるもんなら打ってみろ。


 そして……相手のバットが一閃した……打球はライトへ……。 


 俺たちの夏。俺たちの青春。悔いはない。


            おしまい

            









 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クロスプレー 船越麻央 @funakoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ