かがみの中の君は泣いていた

ごまとまめ

第一章

突然、なんの前触れもなしにその電話はかかってきた。

一声聞いただけで誰だかわかった。

「誰だ?詐欺だったら容赦しないぞ」

とぼけて、ちょっとしたジョークのつもりで言った。

「あ、ごめんなさい。大野です。」

すぐあやまるのが彼女の悪い癖だ。

「ああ、君か」

やっと気づいたとでもいうような大根演技を披露する。

「で、なんで電話してきたんだ?暇なのか?」

「いや、そうじゃなくて…」

「なんだよ、大金が必要だとでも?」

「あって話せる?」

「なんだって?」

あちらから会いたいだって?

もしかしたら別人かもな。

まあいいや。

「今週末しかだめだ」

「…」

「嘘だよ、すごく暇だ」



***



私もかなめも地元は同じ樟葉ってとこだ。

なかなかの田舎で、でも困ることはなかった。

かなめとは4年前まで交際関係にあった。

高校卒業から8年も続いた。

まあ忘れよう、そんなことはどうでもいい。

ほら、そうこうしてる間に彼女がきちゃったじゃないか。

「待った?」

「待ったよ」

皮肉る。

「変わってないな」

「まあね」

沈黙の空気が流れる。


「とりあえず喫茶店にでも入ろう」



***



「で、メインの話は?」

「これよ」

そう言いながら彼女が出してきたのは3枚の写真。

「かなり小さい頃の…普通の写真じゃないか」

「それが…違うのよ」

「へえ…どこが?」

「これしかなかったのよ」

なんだって?

これしかない?写真が?

確かに2ショットなんか取った記憶はないが…

「家に写真がこれしかないのか?」

コクリとうなずいた。

「たしかに変だな…」

「あとこれ」

出してきたのは地図だった。

「ふうん…」

まあ、これがセットで見つかるならばここに書かれた場所で

撮影されたと考えるのが妥当だろうな。

「で、これがどうしたんだ?」

「ついてきてほしいの」

「ついていく?そりゃ無理だ。仕事ってもんが…」

「暇って言ってなかったっけ?」

「…」

「…」

「わかったよ、でもなんでそんなに行こうとするんだ?」

「私、幼少期の記憶が全くないの。」

「えぇ?」

「記憶がない」

そりゃ変だ。

人間、流石にちょっとくらいは覚えてるもんだろう。

「それを見てると頭が痛くなるとか?」

「ビンゴ」

ため息。

「明日でいいか?」



***



「メカニカルエンジニア?」

名刺を渡した。

「天才ってつけといてくれ」

家の前まで帰ってから、私はポケットから黒い立方体のようなものを取り出した。

「なにそれ?」

地面に置くとそれは一瞬で車と化した。

「ナノテクだ、いいだろう?」

唖然としている。

「…現代科学でこんなことできるの?」

「企業秘密だ、乗れ」



「…曲かけてもいい?」

「どうぞ」

曲がなり始める。

「お、Escape from the city」

「好きだったでしょ?」

「undefeatableのほうが好きかな」



***



「そこを右」

「嘘だろ?」

道がない。

「地図にはそう書いてある」

「…一旦降りるか」

道なき道を歩む。

「…ジェットブーツを持ってくればよかった…」

「ジェットブーツ⁉」

目を輝かせている。

「…何も言ってない」




「ここか」

一枚目の写真とぴったり合う地点まできた。

「なにこれ?」

『汝、もう一つの世界を知る』

「メモっとこうぜ」

さらさらとメモ帳に書く。

「この調子で行けばもっとあるかもしれない」




***



『汝、もう一つの世界を知る』

『鏡の向こう』

『元のまま帰れはしない』

なんだこれ。

「家じゃん」

「家だね」

地図のバツ印が書かれていたところには、

洋風の一軒の家が立っていた。

「鍵は?」

「持ってない」

「そうか」

また別の黒い立方体を取り出し、こんどはドアに付ける。

「後ろ向いとけ」

小さな爆発が起こり、ドアが開く。

「スタートラインってとこか…」

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