キリギリスとアリ
@kozakuramomone
ないものねだり
働きたくない。僕の国では家は自分で土地を確保し、自分で家をつくらなければならない。皆が皆のために喜んで働く。これがこの国の、この社会のスローガンだ。働き手はかなり多いはずなのに、休みもほとんどなく24時間働き続けなければならない。この劣悪な環境にプラスし、常に死と隣り合わせである。働いている最中になくなることは多々ある。死に様はひどく、面影すらない。また、ある家では家を埋められ、ある家では玄関にごみを詰められ外に出ることができなくなったりと。こんなブラックな環境だからといって、給料はもちろん最低賃金以下である。食料がなくならない程度ものしかもらえない。娯楽なんてあるわけもない。人生辛。こんな僕でも昔は労働に喜びを感じていた。あの隣の国を見るまでは。
働きたい。みんな将来のことを考えずに遊んでばかりだ。食料もあまりないのに。心配が尽きない。働きたいけど働けない。こんな空気の中で働こうなんて言ったら、俺の居場所がなくなってしまう。ノリが命だから。こうやってみんなで笑って1日を過ごしていと、じりじりと心がすり減っていく。本当にこのままでいいのだろうか。今の生活は正直不満なんてない。みんなのことは好きだし、一緒にいて楽しい。ずっとこのままでいたい。だからこそ、みんなを失わないために働きたい。そんなことを考えていると無限ループに陥る。
少し前のある夜、眠れず、なんとなく国境付近まで歩きに行った。俺の国はあまり大きな国ではなく、1日で国1周できるサイズだ。国境には大きな柵が立っている。隣の国は見えたことがない。だが、その日は違った。柵に少しだけ穴が開いていた。覗いてみると、全身に衝撃が走った。隣の国では、深夜にもかかわらず、みんなで働いていた。1列になり、食料を運んでいたのだ。運んだ先はよく見えないが、おそらく食料の山だった。なんであんなに食料があるのに、みんなで働いているのだろう。不思議でしかなかった。それに比べて、俺の国は食料が底をつきそうなのに。そこで初めて働くということを知った。
隣の国を見なければ俺はこんなことを考えずに楽しく笑っていられたのに。
キリギリスとアリ @kozakuramomone
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます