陽射し


 建物脇のパーゴラの下に座る。つる性の植物を絡ませ、木材で組んだ棚。ここに腰掛けて隙間から碧色の空を拝む度、この場所がこの世で最も美しい日陰だと感じる。細かい白い花を付けた蔦は、少し離れた煉瓦造りの壁にまで伸びて絡んでいる。空いた扉から病院の空気、薬の匂いが外まで流れ出している。水の入った透明なガラスを傾けて透かして見ていると、誰かから声をかけられたような気がした。辺りを見渡してみれば、いつの間にか青年が一人、目の前に立っている。彼は「やあ、探したよ」と言いながら、まるで知り合いといった風に気安い態度で私の隣に腰掛けた。「どちら様?私に何か御用でしょうか」「いいや?まるで誰かを待っているみたいに見えたから、もしかしたら俺の事じゃないかと思ってね」「いえ、私、誰のことも待ってはいませんの。」「そう?けれど君、とても寂しそうな顔をしている様に見えたよ。俺の勘違いだったかな」「ええ、きっとそうですわ。他の方を当たって下さいませ」「それは残念。でも俺、君にとても興味が湧いてしまったんだよね。美しい人、お暇であるならもう少しだけ俺と話をしてくれないかな」男は食い下がる。間近でその瞬きを見ると、珍しい琥珀色の目をしている。綺麗だと思った。「飴色の瞳が綺麗ですね」「あれ、もしかして、今度は俺が口説かれてる?」「いえ、ふと思った事をそのままお伝えしたまでですわ」「はは、珍しいでしょう。俺、サディカの出身なんだよね。ここら辺じゃあまり見かけないでしょ」「まあ。随分遠くからいらっしゃったのですね。」「数ヶ月前の王国の招集、君も手紙を受け取ったでしょ?郊外からも大勢人が呼び寄せられてるんだよ。戦争はもう終わったってのに、魔術政府は一体何を企んでるんだか」「近頃は物騒になりましたものね、」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オルカ 七春そよよ @nanaharu_40

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る