白昼


 雨が窓を叩く。微かに鳴るベルの音に耳を澄ませる。何処かの魔法使いが箒に垂らして鳴らしているのだろう。紅茶に角砂糖を入れて、一口飲む。もう一つ投下する。店内に流れる穏やかな楽器の音に耳を傾ける。鞄から手帳とペンを取り出す。ぱらぱらと捲るが、何も書かれていない。一昔前はよく文章を書いていた。けれど彼の研究室へ住むようになって以来、なんだか頭がそればかりになってしまって、まるで何も書いてはいけないような気がしていた。最初の気持ちを思い出すべきなんじゃないかしら。故郷の遠い草原の色に思いを馳せるみたいに、小さい頃昼下がりに寝そべった枕の肌触りを思い返すみたいに。私は何が好きだったのだろう。本を読むのが好きだった。遠くに出掛けた時の、新鮮な気持ちが好きだった。日常から離れて新しい風を肌で感じるのだ。そんな時は次々とアイデアが湧き出てきて、いつも新しい物語を書きたくなったものだ。昔のように、そんな淡い喜びを感じられる場所へ行くべきなんじゃないかしら。もっと、自由に羽ばたいていけるんじゃないかしら。誰に止められている訳でもないのだから、

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