第5話 金が欲しいかっ、苦労しろ!1
時の流れは速く、転生してから七年目に突入していた。
あれから幾つか金策を考えたが、どれもこれも子供の身で行うにはあまりにも無謀なものばかりだと結論づけ、ならば何ができるかと模索した結果……。
「はぁ~、疲れるわ~」
俺は畑を耕していた。
五歳で出来ることには限りがある。その中で一番効率的なものが作物を作り、行商人に売ることだった。
個人的にはもっと手軽に稼げればよかったが、そう簡単に行く話もなく。一番手堅い所に行き着くのは必然とも言えた。
しかし、そんな手堅い手段である畑仕事は、俺が想像した以上に大変だった。
まず始めに俺が行ったのは両親に自分の畑を作る許可を念のためにとる事だった。
と、言うのも。この村では畑を作るのに特にこれと言った許可を貰う必要は無く、個人が開拓した場所はその者の物になると言うのだ。
正直、最初俺にはこれがどう言うことなのか理解できなかった。だって、この村を含めた領地を任されている者が居る筈なのに、その領主だか王様だかに許可を貰うのが普通じゃないのか?
幾らこの村が辺境にあるとしても、勝手に土地を切り拓いて良いとは思えない。
前世の知識から考えてもあり得ないことだ。
だから俺は素直に大人に聞いてみたのだ。
「かってなことしておこられないの?」
両親を含め複数の大人に問いかけたが、全員似たような答えが返ってきた。
「大丈夫。何せ、境界付近は何時、誰かに奪われるか分からないから。一々管理してられない」
皆、同じ様な答えをしていたが。これはつまり、言い換えれば俺の住む村は明日にでも侵略される可能性があるって事じゃないのか?
どうやら俺は危険な最前線に生まれ落ちてしまったらしい。
何て震えていたら、それに気が付いた大人達は続け様にこう言った。
「安心しな。今は領主間で争い事は無い。それに他国との仲も良好だからこの村が戦いに巻き込まれる事は無いだろう」
なるほど、それなら安心だな!
って、言える程お馬鹿じゃないよ、俺は。
戦争なんて何時起きるか分かったものじゃない。前世でも他国の話だが、唐突に戦争を始めた国があった。
争いの火種はそこら中にあって、只それが平和に過ごす人々に見えてないだけなんだ。だから安心は出来ない。
しかし、それで常日頃から震えて怯えて暮らす訳にもいかないのが人生ってやつで。
何も出来ないガキだけれども、頭の片隅で常に覚悟だけは持っていることにしようと思った。
さて、そんな明日にも戦場となりかねない村だが、その様な背景がある為に半ば無責任放置、半ばラッキー徴収できる、領主か王様にしてみれば特に管理せず、責任を負わずに済む、ボーナスステージ的な場所と認識されてるのかもしれない。
逆に言えばそんな土地だからこそ、両親を含めた村人達はここで自由に住んでいられるのだ。
安全性を考えるなら最悪な場所だが、規律の緩さで見るなら自由で良いところなのだろう。危なくなっても誰も助けてくれないだろうけど。
と、少し長々と経緯を回想してしまっていたが。つまり、管理人が居ない土地なので、拓いた場所の個人的な所有権を得られると言うことだ。
まあ、所有権とは言ったが国や偉い人の保証があるわけじゃないので、子供がよく言うような『こっからここまでぼくのばしょ』みたいな感じだ。
村の中だけで通じるローカルルールだな。
そんなこんなで、五歳から家の手伝いの合間、家から近い場所に畑を拓いた。
と、言っても五歳児に出来る範囲では精々、家庭菜園を少し大きくした程度だ。
まあ、それでもこの小さな身では結構な重労働になったけどね。
地面を大きな鍬で耕し、地面から出てきた小石など除去、雑草類の根も抜き捨てていった。
正直、鍬が殆ど木製だったのは助かった。鉄の割合が多かったら絶対に振るうことさえ出来なかった筈だ。木製の鍬でさえフラフラしながら使えたレベルだからな。
耕すのもそこそこにして、次ぎに必要なのは当然植えるための種だ。
これは前以て両親に用意して貰ったのだが……今にして思えば騙されていたんだろうな。
謎の種を貰った俺はそれを植えて育て始めた。
素人的な考えで『地面に種を埋めて水やれば十分だろ!』と子供ながらにワクワクしながら育成を二ヶ月程待った。
しかし芽が出る気配が無い。野菜の成長ってこんなにも遅いのだろうかと考えだが、流石に俺も馬鹿じゃないから理解していた。
「(いやいや、おかしいぞ。普通、芽が出るのって一~二週間くらいだろ?)」
異世界だからと理由をこじつけていたが、幼馴染みの両親が育ててる葉野菜は、同時期に植えたのに結構育ってるんだよね。
純粋に両親を信じていたがこれは騙されて、種じゃないゴミを渡されたのかもしれないと思った。
五歳児を謀るクソッタレな両親め
! この怒れるきかん坊な俺がバーニングして家庭暴力反抗期しちゃうぞー!!
憤慨しながら両親の元へ突撃する俺。怒れる五歳児を前に二人は落ち着いた様子でこう諭した。
「あの種は特別で、育つのに時間が掛かるのさ」
「え!? そうなの?」
「そうだよー」
あまりにもサラッとした返答だったので無垢な俺はその言葉を信じてしまった。
信じてしまった五歳の俺はそれから更に半年もの間、甲斐甲斐しく畑の世話を続けたのだった。
するとどうであろうか、畑から肉厚の芽が出たではないか。当然俺は喜び両親に報告した。
その頃、既に第二子を腹には携えていたお腹の少し出た母と父が『え! 嘘だろ!?』と何故か驚愕し、二人は走り出して俺の畑に向かった。
俺も追いかけて着いて行き、二人は俺の畑を前に『まさか、そんな』って狼狽えていた。
この時の俺はこの言葉は『子供が芽が出るまで世話ができるなんて』と言う意味で捉えていたが、あれから二年(正確には一年と少し)も経った今なら分かる……あの時渡された奴は絶対に野菜の種じゃなかったのだろうな。
現に、それから育った肉厚の芽は立派な低木に育ったからだ。高さは二十センチくらいだが、今年から花が開花し、おそらく実を付けると植物に詳しい村のおじさんが言っていた。
ちなみにおじさんにこの低木の事を更に聞いてみたら『こいつは青粒の木だな』と名前が判明し、その実は小さいが食べられるとの事。
実はそれなりに森に群生しているみたいだが、誰も持ち帰らないのは潰れた時に果汁の色が付くからだ。その汁が付くと中々衣類から色が落ちないらしい。
まあ、それなら仕方無いよな、理解できる。
前世とは違い、今の時代は洗剤とか無い。基本的に水で洗うのが一般で、懐に余裕がある家は高級な石鹸を使うレベル。しかも、あまり品質は良くない。
加えて衣類とか結構なお値段で取引されており、古着でも気軽に買うような金額じゃない。
そんな村人にとって衣服の汚れで二の足を踏んでしまうのも仕方無いことなのだ。
だから村の男勢は畑仕事をする際に、上半身裸で仕事をする奴が多い。
女性では年老いた人が同じことしてるけど、その時は自分の目を指で刺して物理的に視界から消去、忘れるようにしている。
と少し話を戻して低木に関してだが、結果的にこれが収入源になるかと言うと微妙である。
まず、今年実を付けないと話にならず、行商人にしてもさして珍しい物では無いので、買い取るつもりはないらしい。
代わりにヨメの家が僅かな金銭で買ってくれるかもしれない。これはまだ決まってないが、ヨメが自分の両親にねだってくれたようだ。
青粒は森では珍しくないが村では食べれない物なので、彼女はその味に興味があるみたい。
微妙と称したのはヨメが気に入らなければ定期購入されないからだ。
収入源にするにはあまりにも心許ない。
なので俺はもう一つの方に期待している。それは少し前から更に増やした畑である。
これは低木によって潰れた畑の代わりに耕したやつだ。元々金銭を得るために始めたのだから、金に成らなければ本末転倒である。
途中まで低木である青粒に期待をしていたけど、買う人が居ないと分かり早急に計画を変更せざるをえなかった。
今度はちゃんとした種を、青粒を教えてくれたおじさんに貰い、育て方を聞いてから始めた。
え? 両親はって? ははは、彼等に対する信頼なら五歳のあの時から消え去りましたが、何か。
異世界成り上がり五十年記 西海之和月 @watuki
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