第4話 愉快な幼馴染み達2
連続で投稿するつもりでしたが、少し寝込んでました。夏風邪は長引きますからご注意を……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから三人で金策について考えたが、残念なことに二人は幼児なのだ。三人寄れば文殊の知恵なんて言うが、内二人が幼児なら話は別だ。
三人でも答えが出せなかった俺達は、更にあらたなる同年代の幼児を呼び出した。
「わたし、キター!!」
呼ばれたのは元気溌剌を体現したような、女の子のアイだ。
アーモンド型の碧眼、赤くウェーブの軽く掛かった髪が特徴的な幼児だ。
ちなみに体格は俺より少し大きい程度。巨漢巨体ではない。
「ジンもつれて、キター!!」
アイはそう言うと、傍らに居た男の子の腕を引いて前に押し出す。
彼はアイの双子の兄で名前はジン。同じ風貌の二人を見分けるには髪の長さだけで、アイは肩口程の長さで、ジンは短髪である。
というか、村の男の子供は全員短髪だ。ちなみに俺も短髪。灰色の髪と碧眼。両親の特徴を半々で受け継いでいる。
「やあ、みんな、げんきかぃ」
元気溌剌のアイとは対照的にジンはダウナー系で、口から出る言葉も心なしか気力が感じられない。
「げんきげんきげんき!」
空かさずアイが応えるが、ジンは君には聞いてないと思うぞ。
「んー、ボクはげんきだよー」
「わたしはげんきだよ」
「ボクもげんき。うん、ぜんいんげんきだね」
「そっか、そいつは、よかったよ、しぬにはいいひだ」
いや、いきなりコイツは何を言ってるんだ。
「うんうん! いいひだねー!」
そしてアイは分かってないのに頷きながら肯定するな。
「で、なんで、ボクたちは、よばれたんだぃ」
「おままごとするためだね!!」
アイはおままごとが好きでよく付き合わされるけど、違うよ? おままごとの為に呼んでないからな。
「ちがうよ? ナルがね、おかねほしーねっていってるのー」
「おかね~? おかねってな~に?」
「おかね、か。しぬにはいいひだ」
間違えを直ぐに正すヨメの内助の功は流石と言わざるを得ない。
アイとジンはお金に関して理解してない様だが、ジンはその『しぬには~~』ってセリフが気に入ってるのか?
「うーんとね、おかねはやばいやばいだよー。にくたべほーだいなんだよー」
「おかね、にくたべほーだい!? ジンにぃ、おかねはどこなの!」
「おかね、か。ボクのはかのなかさ」
「わたしのいえにいっぱいあるよ?」
「……」
場が混沌とし始めたな。ビグは食い気、アイも肉に釣られ、ジンは厨二か? 患うにしても早すぎないか。
それとヨメは家にある発言は止めなさい。ドロボーが来ちゃいますよ。
「うーん、おにくをかんがえてたらなんだかおなかへったーなー。ボクかえるねー」
と、唐突にビグが言い出し帰った。いやいや、お前さっきカエル食べてたやん。足りなかったのかよ。
「あー! わたしもおなかへったー!」
「ボクも」
更にさっき来たばかりの二人まで帰りそうだ。いやまあ、帰った所で特に問題はないんだけど。折角集まったのに何だか勿体無いなー。
「わたしきのみもってるよ。たべる?」
「「たべるー!」」
空腹を訴える二人の前に赤い小さな木の実が差し出される。流石はヨメだ。できる女である。
「ナルも、はい」
「ありがとー。んむ、あまずぱ~」
「あまあまずぱ~!」
「む、しぬにはいいひだ」
木の実は小さいが、固めの皮を噛み破ると果汁が弾けるように溢れる。
この実は村の近くにある森の木でよく採れるやつだ。狩りに行った父親がよく採って帰ってくるので、高頻度で食べている。
甘さにあまり縁の無い村なので、こう言う甘味は幾ら食べても飽きは来ない。
「あまあま、うまうま。ねぇ、これどうしたの?」
「おとーさんが、きのうい~ぱっいくれたのー!」
俺が聞くとヨメは両手を大きく振り回していっぱい加減を表現してくれた。その際に手に乗せた木の実をボロボロ落としたが、よいよい。子供はそれくらい元気があってよいのだよ。
あと、落ちた木の実を拾い食いする双子。フーフーして汚れを落とすのはいいけど、ちょっと行儀が悪いぞ。
っは、そうだ! この木の実は売れないだろうか?
「(いや、無理か……)」
名案かと思ったが即座に駄目だと思った。
先ず、これは森でしか取れない。幼児である俺には行けない場所なんだよな。
更に言うなら木の実の消費期限が短いと言うことだ。この村の周辺に他の村があるかは分からないが、それでも数日は離れた場所になる筈だ。
たまに両親や他の村人、行商人やその護衛の人の話を聞く限り、どうやらこの村は辺境に分類される場所にあるらしい。
正確に言うなら、この村のある領地の端って事になるが。
つまり、辺境って言われるくらいだから周辺に村があるとは思えない。
そして、この木の実は収穫から三日程しか食べれそうに無いのだ。シワシワになる上に色合いが黒くなっていく。味も酸味が増していくから食べれたものじゃない。
こんなんじゃ金策に使えないな。やっぱり日保ちするような物でないと行商人も買い取ってくれないだろう。
あまあまうまうまと木の実に食らいつく幼児達を他所に、俺は他に何か無いかと思考を巡らせていると、更に新たなる幼児が一人やって来た。
「おまえらなにしてんだよ」
ぶっきらぼうな言い方をするのは、蒼い髪と蒼い眼をした生意気そうな顔のライと言う幼児だ。
「いまね、きのみたべてるの。たべる?」
そんな生意気なライに心優しいヨメは木の実を差し出す。
「んげ、それキライなんだよな!」
しかし、そんな善意を否定するかのように大声で拒否するライ。ちょっとコイツをぶん殴ってやろうかな?
「えー! こんなにおいし~のにー! ねー」
「ん、うまい」
ライの発言にアイとジンが幼児らしく反論する。
「べ、べつにたべないっていってねーし! よこせよ!」
そう言うとライは、ヨメの手から木の実を数粒簒奪するかの様に奪い、一気に口の中に放りこんだ。
「う、すっぺー!」
「でも、あまあまだよー。ねー」
「ん、あまい」
「おいしいよねー」
酸っぱそうに顔を歪めるライとは対極に、アイは幸せそうな顔をし、ジンもほぼ無表情だが旨そうな顔をしている。そんな三人を見ながらヨメもニコニコと子を見守る母親の様な顔をしていた。
「あー、すっぺー。で、なんであつまってんだよ」
「ん? それはね、おままごとするためだよ!」
僅かに顔を歪めながら聞くライにアイが即座に返すが、違うぞ。全然違うぞ、アイさんよ!
「ん、さんげきままごと、する」
はい、流れに乗ったのかジンも意味不明な事を言い出した。さんげきままごとって何だよ!?
いや、この二人……甘い木の実を食べた嬉しさからここに集った理由を忘れてやがるな。
「じゃあ、わたしはおかあさん役ね」
「!?」
ちょ、ヨメさん!? 君までもそちら側に回るのかっ!
くっ、やはりまだ五歳程度じゃ直ぐに忘れて新たな事に思考がシフトしてしまうか。
「げぇ、おままごとっておんなくせぇーことできるかよ」
「なんでなんで? おままごとはたのしいんだよー?」
「ああ、さんげきの、まくあけだ」
おままごとに忌避感を示すライに、心外そうにアイとジンが口を尖らせながら反論する。……いや、ジンは何か違うかな。
「じゃ、わたしおままごとのどうぐもってくるね。ナルもいっしょにきて」
「え? おままごと、おれもするの?」
「うん」
傍観者でいた俺にヨメは当たり前とばかりに答える。
まあ、何となく流れ的におままごとすることになるだろうな~と思っていたから、こっそり集団から抜けて逃げる算段をしていたんだが、ヨメに言われると断れないんだよな。
何と言うか、溢れる母性に敵わないと言うか……バブミには逆らうことが出来ないんだよ。
五歳にしてこれだ。将来が怖い女になるぜ、コイツはよ。
「おい! おれはおままごとなんてしないからな!」
「えー? せっかくゆうしゃのやくをよういしてあげるのに」
「え!! ……ふっ、ゆうしゃならやってやるよ」
ライの奴チョレ~な。それにしてもアイの奴は誘い方が上手い。ヨメとは別方向で怖い女になりそうだ。
「いこ、ナル」
「あー、はいはい」
「ボクも、てつだうよ」
ライを誘うのに成功したのを見届けると、ヨメと俺はおままごと用の道具を取りに自宅へと向かう。
するとジンも運ぶ手伝いに名乗りを上げた。言動は色々おかしいが、基本的には良い奴だ。
それから俺達は楽しく惨劇の勇者のおままごとに興じた。肉体が若いからか精神的にも若返ってしまい、三十過ぎたおっさんは全力で楽しんでしまった。
おままごとが終わる頃には夕日が沈みつつあり、暗くなる前に解散した。
解散後は自宅へと帰り、貧しいながら腹には貯まる夕飯を食べた後、貧相な固い木のベッド(布団は無い、薄い毛布……いや掛け布有り)に横になった所で気が付いた。
「あれ? 全然金策の案を思い付いてないぞ」
当初の目的を忘れ、全力でおままごとを楽しんでしまった。どうやら俺もまだ幼児らしい。興味が簡単に移ろいでいくようだ。
まあ、過ぎた事だ仕方無い。また明日考えればいいだろう。
ギシギシと聞こえる音を背景に暗い部屋で目を瞑り、睡魔が来るのを待った。
そして今日も気まずい夜を過ごしながら夜は更けていく。兄妹を迎えるのも遠くはないかもしれないな~。
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