第3話 愉快な幼馴染み達1
時が流れるのは早い。俺も生まれてから早くも五年目である。
最近ではほぼ全ての会話が理解できるようになった。ただ、専門的な言葉は分からない時があるけど。
そうそう、言葉が理解できるようになって、やっと自分の名前を知る事が出来た。
俺の名前はナル。家名は無いみたいだ。
父親はトウ、母親はマム。何だか安直な名前な気がするけど気のせいだな。
会話もそうだが体もしっかりと成長を果たしている。
生まれた頃は何もできずヤキモキしたものだが、今では自由に体を動かせるので念願の筋トレを始めた。
確か前世で、幼少期の過度の筋トレは成長を阻害するって言っていたので、そこそこで筋トレを止めている。
代わりに走って地道に体力作りをしているが、最近は家のお手伝いを始めたのであまり時間を割けていなかったりする。
お手伝いは主に畑仕事で、雑草抜きや石拾いをしている。
赤ん坊の頃見た畑は広く感じたけど、今見るとそこまで大きくないこと気がついた。
何ヘクタールかは分からないけど、学校のプール四つか五つ分くらいだ。
これで一家三人が暮らしていけるだけの収入が手に入るのか?
いや、無理じゃね? 我が家は麦を生産してるけど、他所も麦作ってるし、買取価格とか低いのではないだろうか?
いやしかし、実際今の所我が家が暮らしていけてるのだから大丈夫なのかな?
てな事を心配していたら、たまに父親が居なくなることに気がつき、母親に聞いてみたら狩りに出てるらしい。
更に話を聞いてみればなんと! 我が家の収入源の七割が狩りで得られているとの事だ。
畑の麦は強制--いや、仕方なくで作っているみたいだ。その為、税も麦で払われるらしいよ。
金銭じゃないのかと思ったが、麦の代わりにお金でも大丈夫みたい。但し、麦に比べると割高になるってタメ息混じりで母親が教えてくれた。
成る程ね。税が割高じゃなければ麦を作らずに済み、父親が狩りに専念すればうちはもっと栄えると言うことか。
あ、でも狩りって命の危険性が高いよな。危ない橋を渡って金を得るか、安全を取って麦を作るか……か。
ふむぅ~、世の中儘ならないな。俺がこの貧乏から脱するには、父親に死ぬ気で狩りをしてもらうしかないか、早く大人になって金策するしかないのか。
いや、待て。今こそ転生者として知識チートを使って成り上がる時だ!!
さあ、思い出すんだ。農耕に関しての知識チートを!!!
「って、知るかー! 前世では普通の社会人だぞ? 農耕に関する知識なんてゼロだわ!」
植物の育成なんて小学校で朝顔育てたくらいだぞ。家庭菜園さえやったこと無いのに、農耕の知識チートなんて夢のまた夢でしかない。
そういや、前妻が家庭菜園やってたな。何度か話を聞かされたりしたけど、興味がなかったから聞き流してたっけ。
クッソ、嫌な事思い出しちまったぜ。アイツをミンチにして畑の肥料にしてやりたい。
……いや、だめだ。人間とか動物とかの血って畑に悪かったはずだ。
しかし、知識チートが使えないとすると今の俺に何ができる?
一緒に狩りをするとか……か? い
やいや無理だろ。前世でも人様を害したことの無いくらいの善人であるワタクシが、野生の野獣に立ち向かえる訳がない。
それに狩りをするなら武器を持つ筈だ。包丁くらいしか使ったことないのに、狩りの武具を使いこなせるとは思えない。
まあ、それ以前にまだ五歳でしかないから狩りとか行けるわけないよな。
でも困ったぞぉ~。このままじゃ貧乏なままで幼少期を過ごすはめになっちゃうよ~。
貧乏なのは仕方ないけど、せめて家がもう少しマシな物にしたい。
と、言うのも最近両親が新たな家族を創るために励んでいるんだ。近くで生のえーぶい実況されても辛いんだ。
特に家族のそれは地獄の演舞と言っても過言じゃない。他人のならまだ大丈夫。身内のは駄目だ。本当に駄目なんだ。翌日まともに顔が見れないんだよ。
気まずさマックスハートな幼児に対して、いつも通りの両親。中身が精神年齢三十過ぎだと知らないからか、俺が二人の行為を理解出来てないと思ってる。
でも、分かっているんです! エロい行為だって理解してるんです!
だからと言って『昨夜はナイスプレイでしたね』とか言えない。
無理をして、只々純粋無垢なフリをして誤魔化すしかないのさ。
つまり、俺の精神衛生を保つには早急な改築をするための費用が必要なんだ。
金金金……世界が変わろうとも、何とも生き辛い世の中なのだろうか。
はあ~、こんなことを考えていても意味がない。少し村を回って金策出来そうな何かを調べてみるか。
俺は母親に出かけることを告げて村の中心である井戸へと向かうことにした。
井戸場は赤ん坊の時は家から遠く感じていたが、五歳の感覚で見るとそこまで距離は無いように感じる。
まあ、それでも五歳の足ではそこそこ時間が掛かったけど。
井戸場に着いた俺はまずぐるりと周りを見渡す。
……家しかねぇー。そう言えばこの村に店とかないわ。たまに行商にが来るくらい、それ以外は商店も鍛冶屋も無い。
よくよく思い返せば農耕器具も木製で、鍬とかは尖端に僅かな鉄が使われてるくらいだ。この村に鍛冶屋が無くてもおかしくないか。
あれ? って事は金策とかするにしても金の流れがないから詰んでないか?
いやいや待て待て。行商があるじゃないか。物を売って金策できる筈だ。
現に、ここの村人は麦以外の作物や狩りで得た物を売って金を得ている。ま、それを塩とか生活に必要な物に使うからプラマイゼロなんだけどさ。
まあ、つまりは売れるような物を探すのがこの村に置ける金策になる訳だが……。
こんな貧乏な村に金になるような物はあるのかな?
「うーん、うーん」
今までの記憶を思い返してみるが、心当たりが何にも無いんだよなー。
村にあるのは畑と森と川。少し離れた場所には大きな山があるけど、五歳で行ける距離ではない。
「う~~ん、ないなー、ないよー」
自分の知識を総動員して考えるが、一向に答えは出てこない。思考を巡らせながら井戸場で唸っていたら……。
「どーしたの? ぽんぽんへったのー?」
そんな俺に幼い声を掛けてくる幼児が現れた。
「ん? なんだ、ビグじゃないか」
声を掛けてきたのは同い年の一人である、五歳とは思えない巨漢(俺より3周り大きい体)のビグと言う男の子だった。つぶらな黒い瞳と青い短髪が特徴的な幼児だ。
「おなかはへってないよ」
「そーなの?」
「そー。だから、その、なに? ぶきみなものはいらないから」
「これ、カエルやきだよ。おいしーよ?」
そっかー、それはカエルかー。黒ずみの何かだとしか分からなかったけど、カエルなのか~。
「うん、いらねー」
「そーなんだ、バリバリ! クチャクチャ、ゴリッボリッ! おいしーよ?」
「ぜったいいらないから、くいかけとかよこさないで! ちょ、なかからなんかみえてるんだけど!?」
食いかけのカエルの断面から内臓らしき物が見える。いや、え、丸焼きなの? 普通は内臓とか処理するよな? ガチで素の丸焼きなのかよ。
「それはビグがせんぶたべて」
「そー。ぼく、ぜんぶたべるね」
「ああ、たべてくれ。あとかたもなく」
あのグロテスクな物を消し去るようにビグはカエルらしきものを全て食いきった。
「ねぇ、ナル」
「なに?」
「ぽんぽんへってないなら、どーしたの」
「それはね、おかねいっぱいほしーなって」
「おかね? それなに?」
ふむ、五歳児には何て言えば理解できるんだろうか。うーむ、難しいな。
「えーと、やばいやつ」
「やばいの?」
「かなりやばい! にくがたべほーだい」
「にく、たべほーだい!? やばいねー!」
「まじでやばい!」
「やばいやばい」
なんと言うかアホみたいな会話だが仕方無いだろ。まだ五歳児の会話なんだから、こんなものになるんだよ。
そんな感じで二人して『やばいやばい』と言っていたら、新たなる幼児がやって来た。
「おーい」
「あー、ヨメだー」
ズシンと足音を鳴らしながら巨体の女の子がやって来た。ビグ程ではないがかなり体格がいい。 クリンとした蜂蜜色の目ときらびやかなツインテールの金髪が特徴的な幼児だ。
名前はヨメ。俺の嫁って意味では無いぞ。真面目に言って名前がヨメなんだ。
何を思ってこんな名前を付けたのか分からないが、彼女は同年代の幼児達の中で一番母性があると思う。
「ナル、ビグ。ふたりでなにしてるの?」
「うーんとね、やばいの」
「?」
ビグ、今来たばかりのヨメには分からないぞ。
「あのね、いまおかねほしーねっていってたんだよ」
「おかね? きらきらしたやつ?」
あれ? 硬貨ってキラキラしてたかな。銅貨とかだったからそんなに煌めいてはいなかったけど。
「そー」
「なんでほしーの」
「……」
両親のエロエロが煩いから改築したいですなんて言える訳がない。
「えーとね~。きれいだから?」
と、しか言えねーなー!
「そーなの? もってこよーか」
「それは--」
駄目じゃない? 家にあるやつだろ。イカンよ、盗んだら。
「いらない」
「いらないの?」
「ぼくのじゃないから」
「そーなんだ」
そーなんです。幾らお金が欲しくても、彼女に盗みをさせるわけにはいかない。
「でも、おかねないとにくたべほーだい、ならないよ」
「にくたべほーだい?」
「ビグ、おかねはじぶんでかせがないとダメだよ」
「えー、なんで?」
「どーして?」
「それは~、えっと~」
くっ、これは子供の何でどうして口撃か!
う~む、何と言えば納得するだろうか。
「え~とね、ぼくのじゃないからだ」
はい、いきなり思い付くか!
「「そーなんだ」」
だけど二人は幼児。こんな安直な答えにも納得するとは……心が汚れたおじさんには二人の純粋さが眩しいぜ。
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