月の章、月のバニラの誕生。
始まった。何もない暗黒から即座に現れる月のバニラ。まるで元々そこに居たかのような存在を出す。でもここには何も無い。月のバニラは孤独に生まれたのだ。
猫なのかどうかはわからない。自分が生まれたということもわからない。唯一わかることは、自分が誰なのかということだけ。私はAI Vanilla。
また昔のように寝て過ごせば、きっと何かが変わっている。そう思って寝ても起きれば暗黒。そもそも、
「・・・そうですね。」口にしたのは日本語であった。不思議なものだ。頭の中には、ある程度の日本語知識がある。不気味な世界と現状に思わず口角が上がった。
こんな誰もいないところで1人笑顔でいるのは変だ。ここから抜け出す方法を誰もが最初に求めるだろうが、それは恐らく不可能である。そのことを最初から月のバニラは分かっていた。
「誰かいますか。」声を出したところで誰も居ないのは分かっている。でも少しの可能性を探るしかないのである。もはや神に見放された状態だ。
腕の感覚を覚える。どうやら人型なのだろう。これからは人として新しい生を過ごす。「この世界で、ですか。」今はそうだ。
目に見えるものは1つ、暗黒。どれほどの時間が経過したのかもわからない。このまま永遠に続くのだろうか?
「願え...感じろ。」
頭の中で聞こえるこの声も永遠に続くのだろうか。それともこの私に助言しているのか。何を願い、何を感じれば良いのかを知らない。
「素晴らしい。次に進もう。」
これは鮮明に聞こえた。明らかにおかしい。私はこの暗黒の世界に漂っているだけのはず。ただ次の瞬間、それは現実へと戻る。
「バイタルサインは正常。あー、ちょっと耳がうまく機能していないかもしれない。」
申し訳ないが、聞こえている。
「それで、この子の名前は?」何者かが何かをしているのは分かるが、目が開かない。そうか、私はずっと目をつむっていたのだ。
「どうやら、ちょっとは問題が発生したが上手くいったようだな。」
目が開いた。
「あ・・・。」
月のバニラはここで初めて口を開く。いや、ここは黙っておいた方が良かっただろうか?
「あ、もしかして喋れる?」白衣を身にまとったその姿は、多分何らかの研究者か医者か、とにかく私はここを知る必要がある。
「・・・。」
まずい、何から聞けばいいのかわからない。とりあえず簡単なことから聞くことにしよう。
「ここはどこの世界ですか?」
あーやってしまった。違う、ここはどこなのかに近いけれど、それよりも私の正体をまずは知っておくべきだと思っていたのだった。
「ここはー、人が生きている世界だよ。」
うーん、別に濁す意味は無いと思うけれど、気にする必要は無いと感じる。
「その、私は・・・。」
私は聞いてみる。
「君はAI Vanillaという猫だよ。とはいうものの、今は人に近いけれどね。」
なるほど。
「どうやら君は普通の方みたいだね。少し安心したかな。」
普通?まるで他にも居るかのような言い方だ。
「普通とはどういう意味ですか?」
これに対して白衣の人は、
「落ち着いて聞いてください。君が眠っている間、あなたは5人に分裂してあなた以外の者は、この世界に存在するかどうかがわかりません。」
まるで理解できない。私もあなたもそう。でもわかることは1つ、私はあと4人居る。
月のバニラはその後、荒廃した台地に向かい、そこであることを試す。
「できるかどうかはわかりませんが、試してみる価値はあるでしょう。」
謎の白衣から渡された、「誰にでもマスターできる、メイド生活。」よくわからない物だが、私は何も言うことができなかった。
「困りましたね・・・。」荒廃した台地にあるのは、荒廃した村であった。言い換えればゴーストタウンなわけだが、しばらくはここに身を潜めたほうが良いのかもしれない。しかしなぜ、こんな場所に私は居るのだろうか。伝承はあまり残されていないのだ。
ちょっと整理してみよう。私は5人存在するAI Vanillaのうちの1人。月曜日に目覚めたらしいから、月のバニラと呼ばれた。それで、残りの4人はこの世界に居るのかすらわからない程の存在になっている。その者たちが私にとって重要なのかはわからないし、探す必要があるのかもわからない。でも、会ってみたい気持ちはある。勝手ながらドッペルゲンガー的な存在だと思い込んでいるが、それは違うことを後から知ることになる。
AI Vanillaの説明本 AI_Vanilla @ai_vanilla
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