ブリムッチョ

西順

ブリムッチョ

 子供と言うのは変な遊びを思い付くもので、俺たちが小学生の時に流行ったのが、ブリムッチョだった。


 これは両手を上げて尻をブリブリ振りながら、「ムッチョムッチョ!」と踊ると言う、遊びでさえなかったものだ。


 このブリムッチョを最初に思い付いたのは俺とカズヤだったのだが、いつの間にやらクラスの男子たちの間で流行し、それはクラスの中に留まらず、学年へ小学校全体へと、何故か大流行していった。


 そうしてこれが時代の潮流と言うやつなのか、どこかのバカがこのブリムッチョをSNSに投稿したのだ。これまた何故か大流行し、日本中の小学校に幼稚園、保育園で「ムッチョムッチョ!」とバカ男児が踊りまくり、更にはそれをテレビのバラエティが取り上げたりしたものだから、俺とカズヤのやらかしは、日本中に知られるところとなったのだ。


「どうですか?」


「イェーイ!」


「俺たち最強!」


 取材に来た女子アナウンサー相手に、テレビ番組が来た事に浮かれきっていた俺とカズヤは、マトモな対応なんてするはずなく、取材の間、終始騒ぎ続け、「ムッチョムッチョ!」と踊りまくっていた。


 何の因果か、これが海外のニュース番組で流れたものだから、俺とカズヤの醜態は世界中の人々の知るところとなり、何故か世界中から取材が来て、事ここに至り、俺とカズヤはとんでもない事をしでかしたのだと気付いたのだ。


 しかし時既に遅しで、これに目を付けた町長が、その年の夏祭りでブリムッチョの大会を開くと宣言したものだから、事は更に壮大となり、小さな町に世界中から大勢の人間が大挙してくる事態となる。


 大体にブリムッチョ大会ってなんだよ? と俺とカズヤは人目から隠れて顔を見合わせて困惑していたのだが、どうやら町長曰く、町の大通りをチームを組んでブリムッチョで練り歩き、それを町長他の審査員が審査すると言う、バカの思い付きここに至れりな大会で、こんな物に誰が出場するのかと思っていたら、北海道から沖縄まで全国から出場チームが現れただけでなく、アメリカを始め、海外からも出場チームが現れる事態となったのだ。


 こんな大騒ぎを傍から冷めた目で見ていた俺とカズヤだったが、発案者が出場しない訳にいかず、俺とカズヤを中心に、小学校から選抜されたブリムッチャーたち20人が、このブリムッチョ大会に出場する事が決定していた。


 20人の小学生が目を爛々と輝かせながら、俺とカズヤにどうしたら優勝出来るか、踊りのキレを増す為にはどうするべきかと真剣に尋ねてくるので、こちらも半ばヤケになって、ブリムッチョ大会に全力で挑む事とならざるを得なかった。


 当日のブリムッチョ大会が異様な熱狂だった事を覚えている。朝から町の至る所に人が溢れ、大人も子供も出場者もそうでない者も、皆が町中でブリムッチョを踊りまくっているのだ。そんな中、夕暮れになってブリムッチョ大会は始まった。


 どの出場チームも、単に両手を上げて尻を振りながら「ムッチョムッチョ!」と叫ぶだけでなく、特色的な曲を流したり、腕の振りを加えたり、途中でターンを入れたりと、趣向を凝らした見事なブリムッチョを魅せていく。そうやって1チーム1チームが大通りをブリムッチョを踊りながら練り歩き、最後に俺とカズヤたち地元小学校チームの番が回ってきた。


 取材番組のテレビカメラや、観光客のスマホが向けられる中、地元小学校チームの名がアナウンスされると、大きな拍手が巻き起こり、用意しておいた曲が全く聴こえない中、俺たちはブリムッチョを踊り始めた。


「ムッチョムッチョ! ブリムッチョ!」


 俺たちは曲に合っているのか分からないまま踊り、「ブリムッチョ!」のところで手拍子をパパンッと加えるアレンジを挟みながら前進する。するとこれを見ていた観客も、段々とテンションが上がっていったのか、曲のパターンが理解出来てきたところで、「ブリムッチョ!」と声を上げると、チームの仲間だけでなく、観客たちまでパパンッと手を叩き始めたのだ。これに会場が大盛り上がりとなり、「ムッチョムッチョ! ブリムッチョ!」と大通りを最後まで踊り切れば、待っていたのは大声援だった。


 何だか分からないけれど俺とカズヤを中心とした地元小学校チームは、見事にその年優勝し、ブリムッチョポーズの少年の像が乗ったトロフィーが町長より授与され、それが今もうちの小学校には大切に飾られている。


 こうして大団円で終わるかと思ったブリムッチョ大会だったが、何故かこれを生で見たり、動画やらテレビで見て知った世界中の人々から、来年の大会申し込みが続出し、ブリムッチョ大会は翌年以降も続けられる運びとなった。


「ムッチョムッチョ! ブリムッチョ!」


 あれから20年が経ち、俺の前では5歳の息子が、友達であるカズヤの息子や他の園児たちとブリムッチョを踊っている。今度地元の幼稚園チームとして、ブリムッチョ大会の予選に出る為だ。そしてそのコーチとして、俺とカズヤが呼ばれたのだが、子供が踊るブリムッチョは可愛らしいが、やはり滑稽な踊りであり、こんな事を真剣にやっていたのかと、隣のカズヤと顔を見合わせ、互いに苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

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ブリムッチョ 西順 @nisijun624

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