第13話 現世に寄り道をする者達へ



 姉さんと別れた後、僕は鉤島さんに送られ探偵事務所に戻った。

 だが、疲れた顔をしていたらしい僕を気遣って、カズヤに早退するよう指示された。


「後の事はこっちでやっとくからよ。色々あって本調子じゃねえだろ? 今日は帰っとけ」


 別に言うほど疲れてはいないのだけれど。

 せっかくだからと、僕はお言葉に甘える事にした。






 快晴で気温も丁度良く、清々しい空だ。

 こういう日は公共交通機関など使わず徒歩で町を徘徊するに限る。

 と、散歩しながら僕は考えるのだ。


 今回毒嶋さんの件は非常に稀な犯行動機だったけど。

 人は誰しも邪悪な面を持っていて。

 そこに妄想が加わり肥大し、気持ちを制御出来ずに実行してしまった。

 モラルがバグって好奇心が勝ってしまった。

 被害者からしたら大変迷惑な話だと思う。


 事件解決後、ミウさんに事の顛末を伝えた際、彼女は毒嶋さんをこう評価した。


 彼は人形愛好家ペディオフィリアであり、死体性愛者ネクロフィリアであり、霊体愛好家スペクトロフィリアであると。


 無自覚に、お得な特殊性癖三点セットをお買い上げした、稀有な人物なのだ。


 自分の中に鬼を飼っている人物は。

 この世界に、あとどれ程いるのだろう。


 生まれながらに住み着いている先天的な者と。

 育った環境から生み出してしまった後天的な者。

 人とのつながりが、良くも悪くも心を変えてしまう。


 だから僕は、未だに幽霊よりも生きた人間のほうが恐怖を感じるのだ。

 心霊現象も、怪談話も、都市伝説も……。

 それらを生み出すのは、いつだって人間なのだから。







 家の近くまで来ると、ふと目の前の公園で一人、男の子が泣いていた。

 ちなみに生者ではない。

 おそらくは行先を見失った迷子の霊だろう。


「放っておくのも忍びない、か」


 そう思いながら、その子の元へ近づこうとした時。

 何処からともなくもう一人の霊が男の子の元へ近寄ってきた。


 それはうちの同居人、白ちゃんだった。

 彼女は蹲る男の子の頭を撫でながらじっと見つめている。


『大丈夫だから、もう泣かないで』と、そう言っているようで。


 その光景を微笑ましく思い。

 同時に、僕がここで生きる理由を再確認出来た。


 現世に寄り道をする者達を、帰るべき場所へ導いてあげること。

 彼らを見つけて、真実を明るみにしてあげること。

 それがきっと、僕が探偵業を続ける理由なのだ。


 僕は二人の元へ歩み寄る。

 僕の仕事を果たす為に。



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現世に寄り道をする者達へ 若取キエフ @kiefufuu8

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