7. やめて!もう感謝しないで!
「疲れた……」
連日の感謝の嵐にボクのメンタルはガリガリと削られてしまった。
配信が良い気分転換になっているけれど、配信内でも良く弄られてメンタル削られるので、結局休まる時が無い。
家に居てもおねえちゃんが構いすぎてきて疲れちゃうんだよね……
友達と遊んでいる時が一番リフレッシュ出来るけれど、友達も忙しいから中々会える機会が無いんだ。
ということで今日はこっそりとダンジョンにやってきた。
別にダンジョンにもう二度と入らないなんて言ってないもんね。
場所はボクが一番慣れ親しんだ奥多摩ダンジョン最深部。
そのセーフティーゾーンで、以前使っていた生活用品一式をアイテムボックスから取り出して配置した。このベッドを使うのも久しぶりだな。
「えい!」
思いっきりベッドにダイブすると柔らかなマットが受け止めてくれて気持ち良い。
そのまま体を反転させて仰向けになると、鮮やかな夜空が目に飛び込んでくる。
幼い頃から何年も眺め続けたこの景色。
しばらく見ていなかったからか、もう懐かしいって感じがするや。
「はぁ~~」
思いっきり息を吐くと体内の澱んだ感覚が全部外に出てしまうような感じがしてリフレッシュされる。
今日はこのままここでお泊りしようかな。
久しぶりにボスの火竜さんとか深層の魔物を狩って気分転換して、この夜空の下でご飯食べてたっぷり寝るんだ。考えるだけでニヤニヤしちゃう。
ボクがまだダンジョン中毒から脱しきれてないってことなのかもしれないけれど、少しくらいは良いよね。
「み・つ・け・た」
「ぷぎゃ!」
驚いて起き上がったら、すぐそばに京香さんが居た。
「どうしてここに!? 探索者さんを鍛えてて忙しいんじゃ!」
「たまには休もうかなって思って救ちゃんに会いに行こうと思ったら誰も行先知らないって言うんだもん。これはこっそりダンジョンに潜ってるなって思って」
「うっ……」
完全にボクの思考が読まれてた。
でもよりにもよって今日だなんて運が悪すぎる。
「あの……京香さん怒ってる?」
「怒っているように見える?」
「うん」
ボクがダンジョンに入る時は誰かに必ず伝えるルールがあるんだ。
これは別に皆がボクの行動を制限しているわけじゃなくて、ボクから皆にお願いしたこと。
ボクがダンジョンに入り浸らないように協力して欲しいって。
それで頻繁にダンジョンに入るようだったら止めてもらいたかった。
外の世界で真っ当に生きるために。
じゃないとまた学校を抜け出してダンジョンに入っちゃったりしそうなんだもん。
でもまたここに来て泊まりたいだなんて言ったら絶対に止められると思って、一回くらいならってこっそり来たら見事にバレちゃった。自分からお願いしておいてルール破ったらそりゃあ怒られるよね。
「ぷぎゃあ……ごめんなさい……」
「別に怒って無いよ?」
「え?」
「救ちゃんが言いにくい気持ちも分かるし、たまには一人で羽を伸ばしたいよね」
「京香さん……」
笑顔の京香さんが女神に見える。
ボクの考えが読まれているってことはボクの気持ちも察してくれているってことなんだね。
でもやっぱりちゃんと反省しなきゃ。
ルールを破ったボクが悪いし、皆を心配させちゃうからね。
「よし、やっぱりボクここを出るよ」
「救ちゃん?」
「せっかくボクに会いに来てくれたんだから外で一緒に遊ぼう」
「……うん、ありがとう」
きっとそれが正しい事だと思うから。
ここはボクにとって想い出の場所だけれど、ボクがこれから生きて行くところは別の場所なんだ。
今回は精神的に疲れたからここに逃げてきちゃったけれど、外の世界で休める場所を見つけなきゃね。
「でもね、救ちゃん。その前にやらなきゃならないことがあるの」
「え?」
あれ、おかしいな。
さっきまで女神のように見えた京香さんが、突然悪魔のような禍々しい笑みに変貌したように見えるぞ。
嫌な予感でゾクゾクしちゃうんだけど。
「おいで、かのん」
「おしおきのじかんなの!」
「ぷぎゃ!」
今回はかのんを置いて来たのにつれてきちゃった!
待って、かのんがいるってことはもしかして……
「くうちゅうにとうえいするなの」
ダンジョン配信の時に使う空中ディスプレイ。
普段そこには配信リスナーのコメントが表示されている。
配信していない時は空のはずのその場所には、びっしりと文字が表示されていた。
¥50000
"ルールはちゃんと守らなきゃ"
「ぷぎゃああああああああ!」
やっぱり京香さん怒ってたんじゃないか!
こんなお仕置きするなんて酷すぎる!
¥50000
"お仕置きのお礼"
¥50000
"ぷぎゃ村運営費にどうぞ"
¥50000
"たっぷり使っちゃったもんね"
¥50000
"補充しなきゃ"
「せっかく使ったのに!」
またどこかの土地を買えってことなの!?
本当に国になっちゃいそうで怖いよ!
¥50000
"ダンジョンに入る度にスパチャ解禁にしよう"
¥50000
"それ良いな"
¥50000
"一番の抑止力になりそう"
¥50000
"最高のわからせ"
「もう外に出るから! 京香さん離して! うわ、いつの間にこんなに強く……」
ガシっと肩を掴まれて動けない。
限界突破しなきゃ。
あれ、それでも動けない!?
¥50000
"永遠にお礼を言い続けたい"
¥50000
"何度言っても言い足りないんだよなぁ"
¥50000
"心の底から俺達の気持ちを分かってもらえるまで何度でも殴る(札束で)"
¥500
"うちの子(小一)から『たすけてくれてありがとうございます』"
「うう……結局いつもの流れになっちゃった……」
こうなったらかのんは絶対に止めてくれないし、今回はボクが悪いから強く言えないし、最悪の状況だ。勝手にダンジョンに入るのは絶対に止めよう。
¥50000
"[キング・シーカー] 相変らず大変そうだな"
¥50000
"[キョーシャ] お金の使い道ならいつでも相談にのるよ"
¥50000
"[カマセ] やっとあんたに一泡吹かせられるわ"
¥50000
"[セオイスギール] 救ちゃまにぷれぜんと"
¥50000
"[パッド] あらあら、お金より良い物あげましょうか"
¥50000
"[ミタ] うふふ、人の親切は素直に受け取るものよ"
¥50000
"[ギル] 子供達から"
¥50000
"[スイーパー] 僕も似たような目に遭ってます。助けて!"
「ぷぎゃああああああああ! 世界中の皆まで! スイーパーさんはどうしてその内容でお金まで送って来るの!」
ボクの気持ちが分かるならコメントだけで良いのに。ぐすん。
¥50000
"[ぴなこ] がんばって、としか言えません"
¥50000
"[双剣] 救様のおかげで結婚出来ました。ありがとうございます"
¥50000
"[双剣嫁] 救様ありがと~!"
¥50000
"[鞭女] 救様のおかげでまともな男性にようやく出会えました! ありがとうございます!"
¥50000
"[大盾] 鞭女が騙されそうなのでフォローしておく"
¥50000
"[シル〇ニアファ〇リー一同] 救様のおかげで今幸せです"
「待って待って待って待って。ボク何かした覚えないんだけど。それと鞭女さんは本当に気を付けて!」
双剣さん達の結婚もシル〇ニアファ〇リーの皆も自分で幸せになっただけなのに。ボクはただ普通に探索者としてサポートしただけなのにどうしてそんなにお礼を言うのさ!
¥50000
"[シルバー友1] あとでおはなしがあります"
¥50000
"[シルバー友2] あはは、勝手にもぐったのはダメだよね~"
¥50000
"[シルバー友3] まったくしょうがないな"
¥50000
"[シルバー友4] ぐへへへ。おしおきおしおき~"
¥50000
"[シルバー姉] おねえちゃんは怒ってます"
¥50000
"[シルバー父] 会議準備しておく"
¥50000
"[シルバー母] あらあらうふふ"
¥50000
"[シルバー親戚一同] 参加します"
¥50000
"[温水] 約束は守らなきゃダメよ"
¥50000
"[かのん] ますたあはもっとかんしゃされるべきなの"
¥50000
"[二心京香] 救くんちゃんはすはす"
「ぷぎゃああああああああ! 会議は嫌ああああああああ! 京香さん目の前にいるのにどうして投稿してるのさ!しかもどうでも良い内容!」
京香さんはもしかしてこれをやるためにボクが勝手にダンジョンに潜るのを待ってたのではないだろうか。
だって手際が良すぎるんだもん。
¥50000
"[ソーディアス] ご祝儀のお返し"
¥50000
"[ガムイ] はっはっはっ、お前は相変わらずだな"
「ぷぎゃ!? ガムイ見てるの!? もうこの世界に戻って来ないと思ってたのに!」
ガムイがいるってことはまさか……
¥50000
"[ハーピア] 懲りないですね。また我らも会議をしましょうか"
¥50000
"[ゲームマスター] やりすぎだ、と言った傍から……まったく"
「やっぱり来ちゃった! 見てるにしてもこっそり見ていてよ! どうしてこんな時ばかり出てきちゃうの!」
知り合いが勢ぞろいして札束で殴ってくるだなんてあんまりだ!
で、でもこれで終わったよね。
ほら、もう帰って外で遊ぼうよ京香さん。
¥50000
"[二心京香] それじゃあ二週目いこうか"
「ぷぎゃああああああああ!止めて!もう感謝しないで!」
――――――――
あとがき
これにて完結になります。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
コミュ障ダンジョン探索者、人助けしまくってたことがバレて感謝されすぎる ~やめて! もう感謝しないで!~ マノイ @aimon36
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