ウェブ会議のジュンコさん
米太郎
ウェブ会議のジュンコさん
働き方の改革により、最近では在宅勤務も多くなっているけれども、いつまで経っても会社の体質というものは変わらなかったりする。
在宅勤務だろうと、勤務時間は変わらない。
むしろ終電が無いので、もっと長い時間働かされる日もある。
大きな原因は優柔不断な会議。
無駄な話し合いをした結果、結論が出ない会議。
どうにか結論が出たとしても、次の会議の時には全てが覆っているということもざらにある。
毎週水曜日の会議は憂鬱だ。
カメラで自分の顔を映しるように調整する。
これから何時間もPCの前に座りっぱなしになるのだ。
現代の拷問。
ウェブ会議が始まる時間になった。
「本日も会議を始めさせて頂きます」
淡々と始まる会議。
いつも会議を進行する人じゃない気がする?
いつもだったら、参加者が集まるまでにも五分くらい時間を要する。
そして、先にウェブ会議に入った人は、全員が揃うまで待つのが常だ。
それが、今日はスムーズに始まった。
「この会議は録画されておりますので、今いない方は後からご覧ください」
そう宣言して、会議は始められた。
「本日の会議時間は1時間です。内容は、今画面に見えているレジュメ通りです。それぞれの議題に時間設定をしておりますので、その時間をお守りください」
何だろうこの人。
すごくテキパキとしてる。
「そうは言っても重要な方がまだ参加されていないようなので少し雑談でも。お盆時期ですけれども、皆様ご苦労様です。中村さんは、お暑そうですけど大丈夫でしょうか?」
ちょっとした雑談でも、名指しで意見を求めてくる。
「え、あ、私でしょうか? 私は家のクーラーの温度を下げさせてもらってます。あとサーキュレータを併用させて頂いてまして」
そうやってあたふたと答えるスーツ姿の中村さん。
「在宅勤務の時にはスーツでは無くて、もう少しラフな格好でも大丈夫ですよ?」
「あ、ありがとうございます」
「それでは、そろそろ初めの議題から」
何だろう。
少し雑談をしつつ場を和ませて、それでいて会議に集まっていない人を待つ。
それを不自然に感じさせないで、スムーズに進行していく。
画面の切替でも、もたつかない。
とても良い。
「本日一つ目の議題ですが、先週の議事録がこちらです」
画面の右側に議事録を出した。
そんな議事録どこから取り出したんだろう。
初めて見るフォーマットだったが、いつもよりも見やすかった。
決定事項、宿題事項がまとめられている。
それぞれ、担当者も書いてあった。
「それでは、宿題事項の確認から石川さん、いかがでしょうか?」
「え、と……。それがまだ資料が完成していなくて」
「途中でも構いません。会議のフォルダにある資料ですね。映します」
問答無用に作りかけの資料を映し出す。
確かに言い訳とか聞いている時間って無駄だもんね。
「石川さん、資料の作成は優先でお願いします。あと、クオリティはそこまで求めないので、意識合わせができれば良いです。最悪手書きでも構いませんよ」
「あ、はい」
「それでは、この部分について説明をお願いします」
この司会の人が質問する形で、担当の人はそれに端的に答えるだけで会議がスムーズに流れている。
この司会の人は誰なんだろう……?
「はい。この議題に決められている時間が残りわずかなため、まとめます。決定事項としては……」
司会の人が、まとめ始めた。
いつもだったら、ここまで話を進めるにも一時間以上かかっているところなのに。
今は十分も経っていない。
軽快に進めて、それでいてきちんと頭に内容が入ってくる。
議論もきちんと進んでいる。
「課長。これでどうでしょうか?」
「ああ、それで構わない」
あの鬼の課長にも堂々として対応している。
「そうしましたら、この部分は課長が担当でお願いします。期限は来週までにお願いします」
課長にまで、毅然と振る舞ってる。
「わかった」
すごい。話がまとまった。
「そうしましたら、二件目の議題です 」
◇
司会の人がテキパキと進めて、最後の議題も終わってしまった。
「こちらに議事録を置いております。それと課題票を置いております各自来週までに回答を記載お願いします。スケジュールにつきましても、会議にありました通りに更新しております。質問事項等ありましたら、会議のチャットにお願いします。本日は会議お疲れ様でした」
そう言って、きっちりと一時間以内に会議が終わった。
怒涛の時間が終わった。
さっきのって誰だったんだろう。
ログを見ても、誰なのかわからない。
会議を開始した人として、ジュンコという名前だけが残っていた。
気になったので、先輩にチャットをして聞いてみた。
「先輩、さっきの司会の人ってご存知ですか?」
「おそらく、さっきのは火消しのジュンコだよ」
「誰ですかそれ?」
「炎上している案件に
その後、ジュンコさんについて先輩に詳しく聞いた。
先輩の話では、この会社で昔過労死してしまったと噂されているらしい。
過労死するくらい大変だったのに、会社を祟るわけでも誰かを呪い殺すわけでもなく、己のスキルを磨いているという噂。
自分みたいに過労死してしまう人がいなくなるようにと、炎上案件に参画しては火消しをしていく妖怪。
名前はジュンコさん。
彼女のおかげで私は救われた気がした。
ありがとう、ジュンコさん。
ウェブ会議のジュンコさん 米太郎 @tahoshi
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