第27話 魔道具姫は師匠を落としたい

 昼食後、私は正座させらていた。


「で? なんであんなことをした?」


 師匠が怖い。そりゃあもう怖い。

 苛立たげにテーブルを指で叩いてるし、私の見下ろす目なんて冷たいを通り越して凍ってるようだ。

 そんな師匠に怯えた私が黙っていると、師匠がもう一度口を開く。


「もう一度言う。なんであんなことをした?」


「………………師匠を振り向かせたくて」


「はぁ……毒ではないのは分かっていたが、惚れ薬か……だからあんな所にいたんだな」


「まあ、そうなんですけど……というか、何で師匠には効いてないんですか!?」


 効果は私自身の目で確認してるのに。

 まあ、実際に飲んで試してるわけじゃないのはたしかだけど……それにしても一口は食べたんだから効果ぐらいあってもいいはずなのに。


「俺はある程度毒には耐性を付けてるからな」


「そんなの卑怯だぁ!」


「お前、今の立場を理解してるのか……?」


「ごめんなさい……」


 うう……師匠にたしなめられるとしゅんとなっちゃう。

 私が顔を下に向けて肩を落としていると、頭の上からもう何度目かも分からないため息が落ちてきた。


「はぁ……まあ、別にそこまで怒ってるわけじゃない。俺に薬を盛ろうとするという事は、ある意味俺に勝とうとしてるわけだからな……やり方は最悪だが」


「うう……」


「向上心がある奴は嫌いじゃない。それに今回はどうともならなかったわけだからな。許してやろうとは思っている」


「ううう……」


「お前には俺の頼みを聞いてもらわないといけないからな……俺もそこまで狭量じゃないし、お前がやりたいことは出来るだけやらしてやりたいとも思ってる」


「う?」


 何かがおかしい?

 いや、師匠は普段は無口だし、まあ優しいところもあるけど訓練の時は鬼のようだし……こんな時はものすごく怖いはずなんだけど……?


 あれ? なんか耳が赤くない?


 見間違いかなとも思ったけど、明らかにいつもより耳が赤い。


 ……もしかして、本当は薬が効いてる?


 さっきからおかしいとは思っていたのだ。

 薬が効いてないか確認しようと師匠を視ようしたけど、遮られたように何も見えなかったし。


「……実は師匠、薬効いてます?」


「そんなわけないだろう。俺の体はもともと毒に耐性を付けた上に魔法で対策を施している。あんな一口食べたところで効きはしない」


「つまり、いっぱい食べると効くと……?」


「……何を考えてる?」


 そりゃあ……ねぇ……。


「いや、いい……その顔を見るに予想通りみたいだな」


「そ、そんなことないですよー」


「はぁ……ふむ、もう材料は使い切ったみたいだな。それに、薬自体もほとんど残っていない」


「あっ、師匠魔法で見ましたね!? スケベ!」


「何とでも言え、自分の身を守るためだ。それよりも……」


「え?」


「サボるなと伝えていたはずなのに、ずいぶんの訓練をサボっていたみたいだな?」


「え゛……」


 今それを言う?

 突然の言葉に私が愕然としていると、不意に私の手を師匠が取った。


「元気がある余ってるみたいだからな。これから訓練をしてやる……こんな薬を作る余裕が生まれないようにな」


「ちょ!? それ絶対最後のが本音ですよね!?」


「言い訳は聞かない」


「ちょっと!? いや、師匠力強い……!」


 こうして、私は地獄の訓練を受けることとなった。

 そしてその夜、私はこれ以上地獄の訓練を受けないために誓うのだ。


「絶対師匠を落としてやるぅぅぅ!!!」




 ☆   ☆   ☆




 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 以上で、『魔道具姫は師匠を落としたい』は終了となります。

 コンテスト用の中編ですので、中途半端かもしれませんがお許しください(汗)

 


 

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魔道具姫は師匠を落としたい 〜振り向かれないので薬に頼ります〜 かみさん @koh-6486

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