カタギではないからこそ結ぶことが出来る男たちの絆が、そこにはある──

※章ごとに主人公が変わるので、第一章に当たる「イチの物語」のレビューになります!

 ひょんなことからその裏社会へと足を突っ込んでしまった19歳の若者が主人公。居場所がなかった彼に裏社会は新たな絆と居場所を作る。しかし、ある日の失態を境に、主人公は自身が置かれていた“現実”を知ることになる。その時にはもう、あらゆる物事が手遅れで…。

 そうして半ば自棄になっていた主人公だったが、彼の再起を促したのもまた裏社会との繋がりだった。新天地での新たな出会いは、主人公に何をもたらすのか──。



 確かな筆致のもと、描かれるのは裏の世界。男と男の絆、人と人のつながり。まさにヒューマンドラマです。

 序盤から緊張感のあるシーンが続き、一気に裏稼業を描く本作の物語に引き込まれる思いです。何度も何度も辛い目に遭い、どん底を味わう主人公。彼の人生には同情せざるを得ず、どうにか立ち直って、彼なりの幸せを見つけて欲しい。そう願わずには居られません。

 それは物語への興味そのもので、ついつい“次”を求めてしまう自分がいました。しかし、そんな読者の私とは裏腹に、犯した罪が、過去が、前に進もうとする主人公を引き止める。そのじれったさがどこかリアルで、裏の世界に生きる1人の男の生き様がまざまざと感じられました。

 その1本筋の通った主人公の姿こそ、まさに、本作の魅力です。自分を信じてくれる人を信じ、助けてくれる人物には義理を通す。それでいて自分なりの考えや正義感も持っていて、必要なときには裏社会の圧にも屈することなく物申す。それも全て、義理立てしている相手を思うがゆえ…。そんな主人公の姿は、素直に格好良いと思えました。

 個人的には、ザマァ要素といった大きな「スッキリ」が無かったのも嬉しかったです。ファンタジーなどとは違って、私は、現代ドラマにはある程度リアリティを求めてしまいます。その点、本作はどれも有り得そうだと思える物事が多く、登場人物たちにも重みというか、過去というかが感じられて、少なくとも私の求めているリアリティがあったように思います。

 描かれる内容は裏社会の日常に過ぎません。しかし、物語の最初にどん底が描かれているからでしょうか。そうして描かれる義理と人情のある日々が、主人公にとってかけがえのない、大切なものだということがわかるのです。大きなスッキリなどなくても、人と人との日常を見ながら、じわじわと来るぬくもりが感じられる。これこそが、ヒューマンドラマの魅力の1つだと思い知らされた気分でした。


 金、欲、打算にまみれた裏社会の、重く荒んだ物々しい雰囲気。一方で、時に血の繋がった家族をも超える人の想い…義理と人情が感じられる、そんな作品です。

 1本筋の通った人物が好きだったり、それこそ「ヤクザモノ」が好きな方は間違いなくお気に召すのではないでしょうか。カタギではないからこそ築く事のできる絆を描いた、素敵な作品です!