第28話 勇者とは
「なに?」
「何って、何だ?それは有名な物なのか?」
佐藤は、サナティオについて全く知らなかった。その後、サナティオやガイレアス教について説明をしながら、いくつか質問をしてみた。しかし何も知らないようだった。
コプティラ王国のペラムパイのように、名前だけ変えて存在している訳でもなさそうだし、どうやら本当に知らないようだ。
サナティオはまだ、ここへは来ていないらしい。
「で、そのヤバい果実を配ってるヤバい集団を止める為に先回りしたと?」
「そういう事だ。この様子だと、先回りには成功したみたいだね」
まだガイレアス教よりも先に居る。
先回り出来ている。ガイレアス教がどこまで進んでいるのかは分からないが、このまま南へ進むんで行けばぶつかる事になるだろう。
まだ大丈夫だ。まだ、世界中全てにサナティオが広まった訳じゃない。
これ以上は、ガイレアス教には進ませない。
「知らないんじゃしょうがない。俺じゃ力になれねぇな。で、これで話は終わりか?」
早く話を切り上げたい佐藤。
まぁ確かに。知らないのでは、これ以上情報の聞きようも無いな。
「そうだな......じゃあ、君はここで何をしているんだい?
如月は佐藤自身の事を聞き始めた。
俺も気にならない事は無い。
俺達意外のクラスメイトなんて、滅多に会うことは無いし、生きているのか死んでいるのかすらも分からないような世界だ。
こうして会えたのも何かの縁。どんな事をしていたのか、是非話を聞きたいと思う。
「さぁ......もう目的も忘れた。何でここに居るんだろうな、俺」
佐藤は遠くを見つめる。
悲しそうにも見えるが、疲れたようにも見える。
自分自身、何をしたいのか......何をしたかったのか、よく分からなくなってしまったのだろう。
長いことここに居すぎた。
そんな所だろうか。
「勇者パーティーに入れないと分かってから、しばらくこの世界を彷徨っていた。自分の居場所を見つける為、自分を活かすことが出来る場所を探していた。で、その結果辿り着いた場所がここって事だ」
俺と似ているが、少し違う。
俺は自分の居場所を決めていた。自分が活きる場所ではなく、自分を活かしたい場所を求めていた。
それが、佐藤の言いたかった事なのだろう。
「居場所が見つかったんだね」
「いいや。ここは俺を優しく受け入れてくれただけだ。俺が『なりたかったもの』じゃない」
「お前の『なりたかったもの』って?」
「......」
自分で言っておいて、黙り込む。
言いたくないのなら質問されそうな事を言うな。
面倒臭い奴だな。
「勇者だ」
佐藤は俯きながらそう答えた。
勇者になりたかったのか......。
それは、笑ってしまいそうなくらい不可能に思える事だと思ったが、佐藤の本当に悲しそうな表情を見て、その真剣さが伝わって来た。
勇者。
それは、魔王を倒す事が出来る力を持つ最強の者に与えられる称号だ。
「だが、俺の固有魔法じゃ到底不可能だ」
「お前の固有魔法って......さっき使わなかったのか?」
俺達のような転移人には、それぞれ固有魔法がある。
その力が強いか弱いかという事には関係なく、漏れなく全員が持っていた。それが転移者というもので、この世界の人々と違う、優遇された所だ。
その固有魔法の強さによって決められたのが、勇者パーティーだ。
「......使った」
え......?
「気付かなかっただろうな......地味な魔法だ。最早、魔法と呼べるのかも怪しい」
転移したクラスメイト達の固有魔法の有無は知っている。だが、具体的にどういう魔法を持っているのかまでは知らずにいた。
他人に自分の魔法は明かさない。
それがこの世界の基本であり、上手く生き抜くコツらしいのだ。
「俺の固有魔法は『ブーメラン』だ」
「ブーメラン......?」
ブーメランって、あの......?
投げたら戻って来るやつの事か?
「流石に限度はあるが、大体の物ならどんな投げ方をしても必ず戻って来るというものだ」
戻って来る間に障害物に当たらなければ......と、佐藤は付け足した。
そう言えば、確かにさっきの戦闘で使っていた気がする。
短剣を取り出して適当に投げたかと思えば、当適用のものじゃないにも関わらず、綺麗に戻って来ていた。結果としては反射されて終わりだったが、詠唱もせずに不自然な動きだった。
「ははっ、こんな魔法でどうしろってんだ......」
佐藤は自虐的に笑った。
反射、高速移動、追加の打撃、召喚魔法。
それらに比べれば、ブーメランなどお遊びでしかない。
俺の回復魔法も、まだ当たりだと言えるだろう。
「どんな魔法も使い道さ」
「最強の固有魔法を持ったお前らには分からねぇよ」
ごもっとも。
固有魔法は、言わば才能だ。
努力で手に入れるようなものではなく、産まれた時から何も頑張りもせずに持っているものだ。
まぁ本来なら固有魔法を持っているだけでも、珍しい存在なのだがな。
「この村に初めて来た時、俺は『勇者様』だとして歓迎された」
『勇者』とは、正確に言えば如月の事だが、転移して来た俺達の事をまとめて『勇者』と呼ぶ人もいる。
勇者パーティーそのものを、『勇者が集まったパーティー』だと思っている人もいるだろう。
俺も、落ちこぼれの勇者だと言われた事がある。勇者の定義は、この世界でも曖昧なものだ。
「悪い気はしなかった。勇者パーティーに入れなかった事を悔しんでいた俺が、勇者と呼ばれるなんてな。本物の勇者ほどでは無いにしろ、俺だって固有魔法は持っていたし、他人よりも少しだけ魔法のセンスも優れていた。嘘をついている事にはならないと思ったんだ」
多分、これが本音だ。
本当の気持ち。ずっと強気だった佐藤が、まるで懺悔するように話し始めた。
「魔王なんて見たことすらないのに......羨ましかったんだ......お前らが。多くの人を救って、勇者だとしてチヤホヤされているお前らがッ!」
分かるさ。その気持ちは。
とてもよく分かる。
俺も勇者パーティーに憧れて、勇者パーティーに入りたかった。
勇者になりたかった。
だからこそ、俺と同じように矛盾している事も分かる。
「佐藤。お前、俺と似ていると言ったよな」
「そうだな」
「なら、駄目な所も分かっているはずだ。それに気付いているのに、なぜ俺と同じことをしているんだ?」
「......」
佐藤は黙る。
こいつはさっき、俺の事を否定した。
『役に立てる場所を選んでいる』と。認めよう。佐藤の言う通り、俺は役に立ちたいだけという単純な思いではないと。
「確かに俺は、人の役に立ちたいだなんて言っている割にはその場所を選んでいる。だが、結果的に望みは叶った」
「運が良かっただけだ」
「運のせいにして、自分にも幸運が来るのを待っている。それがお前だ」
「......」
「実力で俺よりもデカい活躍をして、ドヤ顔でもしてみろ。偉そうにしてるのはお前の方だろ」
勇者パーティーを追放されて以来、自分の弱さを知った。
どれだけ俺が弱いのか。
どれだけ足を引っ張っているのか。
だから特訓した。
回復魔法を練習し、少しづつだが強くなっていった。
「だから!それは固有魔法が......」
「この世界のほとんどの人は、固有魔法を持っていない。その人達よりも、お前は強くなったのか?努力しているのか?勇者パーティーでなくとも、勇者パーティーのように活躍する事ができる場は沢山あるはずだ」
冒険者に王国騎士団。
少しでも望みに近付きたいのなら、目指す所にそう迷いは無いはずだ。
「だがお前はここで、ぬくぬくと過ごしている。自分よりも弱い者達に囲まれて、チヤホヤされる事に居心地の良さを感じている。違うか?」
「......」
「そんな奴に、自分は不遇だからとか才能がないからとか、そんな事を言う資格は無い!」
席を立ち、家を出て行った。
これ以上あいつと話すことなど無い。聞いていてイライラする。
まるで自分ばかりが不幸であるかのような、あの態度に腹が立つ。
──────────
「良いのか?せっかくの、クラスメイト?ってやつなんだろ?」
俺は、佐藤の部屋を出たその足で自分の部屋へと戻った。
そのまま、その勢いで帰る支度をしていると、ミッシェルが部屋に入って来た。
確かに鍵は掛けていなかったが、まさかノックも無く入って来るとは......ミッシェルらしい。
「あぁ。前の自分を見ているようで、イライラする」
「にゃはは!そんなに似てたのか」
「それに、ここに長く居座る理由も無い。新しい情報も無かった訳だし、早く出発した方が良いだろう」
「でもまだ外は暗いぜ?」
「俺達は勇者パーティーだぞ?そこら辺の魔物なんて、気にする程のものでもない」
少しくらい疲れていようが、こっちには魔王を倒した勇者がいる。
ちょっとぐらい無理に進んだって死ぬことは無いだろう。
その為に俺がいる。多少怪我をしたって、魔法で治せばいいじゃないか。
「そうか......まぁあまり悠長な事も言ってられないかもな」
ミッシェルも同意見のようだった。
何か違和感を感じる。
俺に対してという訳ではなく、ミッシェル自身にだ。
「なぁミッシェル。最近、元気無くないか?アスティラ大陸に来てから口数が少ない気がするが」
ミッシェルは、少しだけビクッと体を震わせた。隠し事をしている時の反応だ。何かあるな......?
ミッシェルとは、それなりに長い付き合いだ。いつもと様子が違う事ぐらい分かる。
「......別に。何も無いぜ」
「本当か?でも......」
「ちょっと疲れてるだけだ。何も問題はない」
にゃははと笑うミッシェル。
疲れてるとか言う割には、ほぼ常に何かを食べている気がする。
片手間で食べられるものを、おやつ感覚で食べているのだ。そんな食いしん坊キャラだったっけ?
「出発するなら、皆にそう伝えた方がいい。まずはキサラギの所に行って来いよ」
「......そうだな。ミッシェルは他の奴に伝えてくれるか?」
「嫌」
「......」
まぁいいだろう。
ミッシェルには他にやりたい事があるようだし、俺が全員に声をかけて回ろう。
......面倒だがな。
取り敢えず、まずは如月からだ。
帰る支度もそれほど時間がかかるようなものではなく、出て行ってすぐに戻るのは癪だったが、再び佐藤の元へと戻った。
如月はまだ佐藤と話しているようだ。
「何をそんなに話す事があるんだ......」
如月は、熱心に何かを佐藤へと訴えかけている。
心做しか、佐藤の表情がどことなく寂しげになっているような気がする。悲しいような。今までの、人を憎んでいるという嫌悪的な顔では無くなっている。
「君なら大丈夫だ。その気持ちさえあれば、勇者にだってなれる」
また如月は適当なことを言っている。
悪いやつでは無いんだが、自分が出来ることを他人も出来ると思い込んでいる節がある。
最強の存在である勇者になんて、なれやしない。
「勇者とは、強い者の事を言うんじゃない。『勇気ある者』の事を言うんだ。君も勇気を出して挑戦してみるといい。それが、勇者への第一歩だ」
勇気ある者ね......それだけでは駄目だ。勇者には足りない。
勇者とは常に最強であり、人々の平和を支えるような無敵の存在でなければならない。
そんな俺の気持ちと同じように、不満そうな顔を浮かべる佐藤は、やはり不満そうに如月へと質問を投げかけた。
「お前は勇者になってどう思った?やっぱり、周りに認められるというのは良い気分なんだろうな」
皮肉まじりのその言葉も、如月には通用しない。佐藤の意図を、分かっているのか分かっていないのか。
如月は単純な質問として受け取り、答えるだけだ。
「どうかな......気にしたことが無いな。俺は認められようが認められなかろうが、人を救う。困っている人達を助けたい。ただそれだけの思いで、日々生きている」
「力が無くてもか?」
「力が無くてもだ。関係ない。俺は俺に出来ることを、やるだけだよ」
「......」
如月の言うことはとても綺麗だ。
美し過ぎて、自己嫌悪に陥る程に。
如月なんかと比べても、仕方がないと分かっていはいる。だが、どうしても思ってしまうのだ。
こいつは勇者に、あまりにも適している。
「あぁ明来君、帰ってたのか」
「お、おう。なぁ如月、もう出ないか?こんな所で道草を食ってる余裕は無いだろう?」
「そうかもしれないが、森で夜に行動するのは危険だ。勇者パーティーとて、暗い中不意を突かれれば簡単にやられてしまう。ましてや、疲労しているとなれば尚更だ。だから、もう少しだけ休んでから出発でもいいかな?」
「あ、あぁ。そうだな......その方が良さそうだ」
「ありがとう」
下手に急いで進んでも、万全で無ければ殺られる。それがこの世界の厳しい所だ。
いくら強くなっても、体力だけは人族のそれなのが痛いな。
魔力や身体の使い方が他の種族より劣る分、無理矢理行動するという事が出来ない。
しかし、勇者パーティーもただの人だというのが如月の言い分であるのだが......如月自身を見ていると、どうもそうは思えない。
まぁ本人が夜明けまではここで過ごすというので、そうするしか無い。
パーンヴィヴリオについても考えなくてはならないしな。
この後の旅で、次にいつ休憩出来るのかも分からない。ゆっくりとまではいかないが、少しくらい休んでおいた方が良いかもしれない。
「......」
「......」
如月と話していた佐藤と、一瞬だけ目が合う。すぐに他所を見て誤魔化した。
お互いに何も言わず、何もしない。
もう話す必要も無い。
俺は部屋に戻り、ふて寝するように横になった。
──────────
人というのは不思議な生き物だ。
どれだけ怒っていようが、どれだけ悲しんでいようが、たった一日眠るだけである程度緩和されてしまう。
かく言う俺も、佐藤に対してあんなに怒っていたのに既に収まってしまっている。
むしろ、なぜあんなにキレていたのか恥ずかしくなるくらいだ。
「......悪かったな佐藤。頭に血が上ってしまった」
気付けば、素直に謝っていた。
まるで魔法にでもかけられたかのように、朝起きて身支度をしてから佐藤へと自らの足で会いに行っていた。
そして、謝る。こうするのが一番良いと思っていたし、せっかくの数少ないクラスメイトだ。
それに似たような思いも持っている。
仲良くしていこうじゃないか。
「いや、俺の方こそ......俺はきっと、自分の弱さを人のせいにしたかったんだろうな。すまん」
佐藤も謝って来た。
どうやら同じ気持ちのようだ。いや、実は昨日から反省していたのかもしれない。如月に説教されている時から、表情が暗かった。もしかしたら自分を見つめ直していたのかもな。
悪い奴ではない。
ただ、お互いに不満をぶつけてしまっただけ。
「まぁ、仲良くやろうぜ。俺達は似た者同士なんだからよ」
「そうだな......似た者同士だ」
お互いに少し笑いながら握手を交わした。
勇者パーティーに不満を持った者同士、劣等感を常に味わいながら生きている者同士、仲良くやっていこう。
「なぁ、俺の固有魔法ばかり説明しただろ?お前のも教えてくれよ。ここら辺は固有魔法を持ってるやつが居ないからさ......応用方法で参考に出来るやつがいないんだ」
佐藤はそう言いながら片手剣を手に取った。
軽く振り回し、投げる素振りを見せる。
確かにフェアじゃないな。
まぁこいつが勝手に闘って勝手に教えて来ただけだから、俺の固有魔法を教える義理は無い訳だが......仲直り記念だ。少しくらい良いだろう。
「いいぜ。それぐらい、いくらでも教えてやる」
俺達は武器を持って外へ出た。
武器と言っても、木の剣と木の盾だ。
訓練用の攻撃力が低い物で、怪我をする事もあまり無いだろう。
だが今回は俺の固有魔法の説明だ。俺は一本だけ普通の剣を持って行った。
「まず、俺の固有魔法は回復系だ」
もう何度したかも分からない俺の魔法の説明を、佐藤に細かく説明した。
メリットもデメリットも......そして、成長していることも伝えた。
初めは、佐藤の顔も少し不機嫌そうだった。理由は分かる。申し訳ないが、俺の固有魔法の方がブーメランに比べて優れているからだ。
実用性もあり、性能も良い。
しかし、デメリットを聞くとその態度は少し和らいだ。
お前が言えと言ったんだろう?
「おはよう。あれ、もう仲直りしたのかい?」
俺達がお互いに固有魔法の深掘りをしていると、佐藤がやって来た。
もうそんな時間だったのか。
実は、朝からここを出る予定だった。俺は集合時間よりもずっと早くにここへ来て、先に佐藤と会っていたのだ。皆がいる前で謝るのも恥ずかしいしな。だが流石は如月。集合時間の三十分前に到着している。
「もう行くのか?」
「うん。世話になったね、ありがとう」
「そうか......色々と悪かったな。如月、お前はやっぱり勇者だ」
「気にしないでくれ。このジョブは何かとヘイトを買いやすいんだ。俺の事を憎んでいる人なんて、わんさかいる。まぁ嬉しくは、無いけどね」
話しているうちに、皆もぞろぞろと集まって来た。
俺と佐藤との間にあったことや、如月が佐藤と話した事なんて俺達三人以外は誰も知らず、呑気に欠伸なんてしている。
まぁ急いで共有するような事でも無いだろう。
そのうち話すさ。
勇者パーティーに続いて、村の住人達も集まって来てくれた。
俺はあまり話す機会が無かったが、代わりに他のメンバーが仲良くしてくれていたみたいだ。
それぞれに別れの挨拶をしている。
中には、泣き出して高津に抱き着く子供もいた。あいつ......やっぱり面倒見は良いんだな。
「それじゃあ俺達は行くよ。また会える日まで、どうか生きていて欲しい」
「任せろ。こう見えて、ここら辺じゃ俺が一番強いんだからな」
佐藤は、皮肉に笑った。
俺も最後に佐藤と固い握手を交わした。
自分自身を見つめ直す良い機会となった。何だかんだ、こいつのお陰で成長出来た気がするな。
「またパーティーを追放されたら、今度は俺を入れてくれ。激遅回復よりは役に立つ」
「そんな機会があればな」
ふと、視界に入ったミッシェルがやれやれと首を横に振った。
その顔は、呆れているような予想通りだったと言うような、まるで佐藤と仲直りすることを分かっていたかのように思える。
流石はミッシェル。俺の事をよく分かっているようだな。
「そうそう、最後に聞き忘れてた事が。パーンヴィヴリオって知ってる?すぐそこにある塔の事なんだけど」
別れの前に、如月が思い出した事を聞いた。
サナティオの情報が無さ過ぎて、パーンヴィヴリオの事をすっかり忘れていた。
恐らくパーンヴィヴリオに一番近い村はここだろうし、近い場所からの情報の方が信用出来る。
「あぁ、あれか。なんか伝説がどうとか聞いた事はあるな。まぁ噂程度だが」
「入り方が分からないんだ。何か知らないかい?」
「入り方?あれって入れるのか?村長、どうなんだ?」
佐藤は、いかにも色々知っていそうな老人に話を振った。
村長か。色んな村の村長を見て来たが、この人は比較的若く見える。目をはっきりと開いているし、動きもシャキシャキしている。
「ん。あーもう覚えてないよ」
記憶力は並のようだ。
すると、全然頼りにならなかった村長を他所に、若い女性が声を上げた。
「私、聞いた事あります。あの塔に入るには特別な鍵が必要で、『遺跡の奥に封印されている』と」
「何!?それは本当か!」
「う、噂......ですけど」
噂でもなんでもいい。何かしらの情報が手に入れば、それが手がかりになる。
それにこの世界での噂は、本当の事が多い。伝説も、本当にあった話だから語られ続けるのだ。それが、魔法の存在する世界の特徴なのだろう。
「なるほど......」
どうやらパーンヴィヴリオに入るには鍵が必要だそうだ。
鍵ってのがどんなものなのかは分からないが遺跡の奥に封印されていると言われているらしい。
「遺跡......か」
一人呟く獣人。
何やら心当たりがあるような言い方だ。
「何だミッシェル。知ってるのか?」
「いや......私の故郷の近くに、一つあるんだ」
「故郷?」
「実はこの近くにあるんだ」
ほう......だから、様子がおかしかったのか。
そう言えばアスティラ大陸出身だと言っていたような気がする。
なぜ故郷を出たのかまでは知らないが。普段元気なミッシェルが、静かに思えるほど考え込んでしまうのなら、何かしら良くない事があったに違いない。
「帰りたくはないのか?」
「あぁ。正直気まずい」
やはりか......。
しかしパーンヴィヴリオに入るには鍵が必要だ。
可能性が少しでもあるなら、見過ごす訳にもいかない。ミッシェルには悪いが、何とか説得してその故郷へと連れて行ってもらおう。
「構わないさ。鍵があるかどうかだけでも、見に行こうぜ」
「......何?」
驚いた。良いのか?
てっきり、嫌がるものかと思っていた。
どう言いくるめようか考えていたところだったのに、こいつは意外だな。
「本当に良いのか?」
「にゃはは!逆に逃げて欲しいのか?アクルが頑張って立ち向かってるのに、私が逃げてどうする」
「......そうか。ありがとう」
ミッシェルは、やはり良い奴だ
俺は、お前のそういう所にずっと助けられて来た。
これまでも、そしてこれからも。
「遺跡の場所は?」
「南だ。道を大きく外れることは無いから、ガイレアス教を見逃す事も無いだろう」
「決まりだな。次の目的地はミッシェルの故郷にあるという遺跡だ。そこでパーンヴィヴリオの鍵を探す!」
村の人達、そして佐藤と別れの挨拶をした。
特別な訓練をした訳でもないのに、何だか少し成長したような気分だ。
俺達は再び南下する。
目的地はミッシェルの故郷。
そして、そこにある遺跡だ。
遺跡と聞いてファンタジーを思い出した。長らく忘れていた異世界要素。
ほんの少しだけ、ワクワクした。
勇者パーティーを追放され、辺境の地で魔法の練習していただけなのに〜回復の実が最強過ぎて異世界無双〜 切見 @Kirimi1031
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