第27話 佐藤 貴士
「
如月は村長への挨拶を済ませた後、久しぶりに会ったクラスメイトへと気さくに話しかけた。
何か飲み物を飲んでいてこちらに気付いていない様子だった
「あ?」
佐藤は、俺達を見た瞬間すぐに気づいたようだ。
椅子から転げ落ちるくらいに驚き、机の足に頭を打ってしまった。
まるで怯えているような......そんなに驚く事か?
「お、おい、大丈夫か?」
「お前ら......まさか、勇者パーティーか?」
震える手で指さしながら聞いてくる。
外に出ていたからフル装備とは言え、顔は見えるくらいに出ているし、何より後ろ姿で誰か分かるのは俺達くらいだろう。
変わっていないな。服装は流石に制服では無くなっているが、髪型も雰囲気もそのまんまだ。
学校ではそんなに喋った事は無かったけど、俺の前の席だったから後ろ姿はよく見覚えがある。
「一応そうだよ。知り合いに言われると、何かちょっと恥ずかしいね」
如月が苦笑いをするも、佐藤の方はニコリともしない。
折角久しぶりに会ったというのに、佐藤の態度は冷たいものだ。
「そうか............最悪だ」
そう言うと、俺達と一切目も合わせずにこの場を離れてしまった。
誰が見ても分かる。明らかに不機嫌だ。
だが、元々不機嫌だった訳では無いだろう。
おそらくは俺達が原因だ。
「明来君。ちょっとついて来て欲しい」
「......?」
如月は、俺だけを指名した。
何なのかと思ったが、答えはすぐに分かった。
佐藤。
出て行った佐藤は、どうやら自室へと籠ってしまったらしい。
まぁ自室というか、家というか。小屋のように小さな家だ。
「なぁ、もういいんじゃねぇか?そんなにアイツにこだわること無いだろ」
「いいや。もしかしたら、気付かない内に俺が何かしてしまったかもしれない。もしそうなら謝りたい。悪いね、付き合わせてしまって」
別にいいけどよ......。
他の人達は、村の人と仲良くするみたいだ。
まぁこの村では勇者パーティーが人気のようだから問題は無いだろう。
俺は勇者パーティーの中でも悪い意味で有名な訳だし、ここで如月の手伝いをしている方が似合っているかもしれない。
試しに、佐藤が入っていった家のドアを軽くノックし、呼んでみる。
「佐藤君!俺だ、如月だ。久しぶりに会えた事だし、少し話でもしないかい?」
「......」
返事は無い。
やはり何かあるな。
佐藤は、俺達に間違いなく嫌悪を感じてた。
その理由は詳しくは分からないが、何となく察しはつく。
「佐藤君。もし俺が何かしてしまったのなら、謝る。だから、話だけでも......」
「......謝るだと?」
ドアの向こうから声がした。
やっと反応があったかと思えば、今度はドアが開き、佐藤が顔を出した。
俺と如月を交互に睨みつけて来る。
「や、やぁ。同じクラスだったよね。覚えてる?」
「よくもそんなヘラヘラと......自分が何をしているのかも分からない癖に!!」
ドンッと重い音がした。
佐藤が如月を吹き飛ばしたのだ。
衝撃波によって玄関ごと破壊された。
数メートル飛ばされ、地面に転がる如月。
魔法を使ったのか......?いやそれより、こんな風になる如月は初めてだ。
まさか、固有魔法を解除していたのか......!?
なんて不用心な奴だ。
もし罠だったりしたら、どうしたのだろう。
今回は吹っ飛ばされたから良かったものの、刺されたり撃たれたりしたら死んでいたかもしれないんだぞ。
相手が何であれ、フルリフレクターは常にオンにしておけよ。
「
威勢よく叫ぶ佐藤。
一体どうしたと言うんだ。
そんな戦闘狂なキャラだったとは。
あまり話した覚えは無いが、もっと落ち着いた性格だった気がする。
「......分かった。それで気が済むのなら」
闘うのか......。
如月は、気乗りしていないが仕方なく付き合うらしい。
少なくとも自分のせいで、佐藤が怒っていると分かっているのだろう。
今は言う通りにしてみるようだ。
少し開けた場所に出る。村の中では、迷惑がかかってしまうからな。
「その代わり、俺が勝ったら話をしたい。色々と聞きたい事があるんだ」
「まぁ......良いだろう。負けたらさっさと出て行けよ」
「分かった」
如月は条件を付けた。
聞きたいことは沢山ある。
個人的な事も、サナティオやパーンヴィヴリオの事も。
如月と佐藤は、一定の距離を空けたままお互いに見合っている。佐藤は少し構えるが、如月は相変わらず棒立ちだ。
本当に闘うつもりなのか......?
こんな無意味な闘いがあるだろうか。佐藤がいきなりバトルを吹っかけるのも意味が分からないし、相手が相手だ。
闘わなくとも結果は見えている。
「シューティングボルト!!」
最初に攻撃を仕掛けたのは、やはり佐藤だ。
手で銃の形を作り、指先から電撃を放つ。
威力としては低い方だ。まずは様子見といった所だろう。
如月の方も一歩も動かない。体のど真ん中に命中していたが、固有魔法のフルリフレクターによって反射された。
その反射された魔法は、普段は相手まで返っているのだが今回は地面へと弾かれている。
相手が相手だ。殺し合いでもないバトルで、本気を出す訳が無い。
「ファイアバレット!」
続いても佐藤の攻撃。
手から連続で炎を発射する魔法だ。
一発の威力は低いが、その弾速や連射力はファイアーボールとは比較にならないほど上だ。
ただし手から発射しているため、遠中距離ではほとんど使い物にならない程に命中精度が落ちる。
しかし佐藤は、中距離でも命中させられるほどの腕を持っているようだ。
「チッ!」
舌打ち。
弾が当たらなかったのでは無い。
当たった上で、弾き返されたからだ。
単発だろうが連発だろうが、如月には関係無い。如月の魔法は、全てを弾き返す。
そしてついに如月が、一歩一歩、少しづつ歩き始めた。
「アイスニードル!」
針のように先の尖った氷を作り出す魔法。
それを三つ程作り出し、全て如月へ発射する。
もちろん如月がダメージを受けることは無く、何事も無かったかのようにゆっくりと歩きながら佐藤へ向かって進んでいる。
「くっ、ストーンショット!」
手のひらサイズの石を生成し、銃のように撃ち放つ。
シンプルだが、銃弾よりも大きな物を正確に撃つことの出来る魔法だ。
人よりも体の大きな魔物などに有効だが、アイスニードルが防がれている時点で通用しない事は明白のはずだ。
一切止まる事無く近付いてくる如月を前に、佐藤の焦りが見える。
「チッ」
今度は、腰から短剣を取り出した。
まだ近接武器を取り出すほど距離が近いとは思えないが。短剣となると尚更だ。
だが、佐藤はその剣の持ち方を変え、如月に向かって投げた。
「ふんっ!」
投擲だ。
正確性も低く、速度も出ない。
案の定、反射するでもなく、頭の横を掠めて飛んで行ってしまった。
如月は首を傾けて躱す。
しかし投げた剣と同時に、佐藤本人が走った。
そんな距離から走ったところで、投げた剣に追いつく訳もなく、ただヤケになって走り出しただけのようにも見える。
だが佐藤の間合いが届く直前に、投げた短剣が戻って来た。
まるでブーメランのように、回転しながら如月の背後へと向かった。
もちろん、如月はそれを見ることもせずに反射する。意識してか無意識か、如月は全方位の攻撃を全て反射するのだ。
走って近づく隙をブーメランで誤魔化した佐藤は、そのまま攻撃を続ける。
「ガイアハンマー!!」
右手の拳に岩が集まる。
岩の塊は佐藤の体よりも大きくなり、それをハンマーのように振り回した。
もちろんこれも避ける事はなく、如月は側面から受けた。
岩は弾け、四方に散る。しかし佐藤へ返るのは小石だけだ。
如月はビクともしない。
よろける事も、仰け反ることも無い。
「フレイム────」
ドンッ!という衝撃。
ついに如月が攻撃をした。佐藤の詠唱の途中で、腹に向かって掌底打ちを食らわせた。
反射を使ったのか魔力のみなのかは分からないが、佐藤は自分の背後へ勢いよく吹っ飛び、そのまま地面を転がって木にぶつかり、止まった。
「......がはっ」
一撃。
たった一撃で、決まってしまった。
恐らく、佐藤は防御魔法を何一つ使っていなかったのだろう。
今まで攻撃の意思が無かった如月に対して、防御をする事を考えていなかったようだ。
それには如月も驚いていた。
思っていたよりも吹っ飛んでしまった佐藤に、如月は少しだけ心配そうな表情を浮かべるも、すぐにキリッとした真面目な顔に戻る。
「どうだろう。これで満足かな」
佐藤はもう、動けないようだ。
地面に大の字で仰向けになり、苦しそうに呼吸をしている。
生意気な奴だ。
態度は気に入らないが、治してやるか。
「はは......そうだよな......そんな訳ないよな」
佐藤は笑う。
気味の悪い自虐的な笑いだ。
「無能だと追放されたやつが実は最強だったなんて......そんな都合の良い話が、ある訳無いよな」
「......」
何だ?こいつ。
まさか、自分が最強だとでも思っていたのか?
無能だと言われていた人が実は一番強かった。最強無双系なんて、異世界ものでは当たり前のように良くあることだ。
だがそれは漫画やアニメの話。
信じられない事に、ここはファンタジーだが現実なんだ。
すっかり闘う気力の無くなった佐藤は、話を続ける。
「俺だって努力はしたさ......これでも強くなった。でも、まだまだ届かなかった。いつの間にか魔王は倒され、この世界でやる事も無くなった。ここに居ても、元の世界に帰っても、どこにも俺の居場所なんて無い」
「......」
正直、その気持ちはよく分かる。
勇者パーティーに対する嫌悪。
同じだ。
パーティーに入る前の俺と、同じなのだ。
「俺も最初はそう思っていたよ。勇者パーティーから追放され、自分の実力不足を思い知った。人の役に立つというのが、こんなにも難しいものなのだと......けど、今は違う」
ミッシェルに出会い、勇者パーティーに再加入し、サナティオを追って行く中で成長した。
様々な場所で様々な人達と出会い、俺はわれた。
少しづつだが、人の役に立つ事が出来ている。
「自分の出来ることを見つけ、自分の出来る事で人を助けている。勇者パーティーには実力は程遠いけど、俺に出来る範囲で役立てていると思っている」
俺一人に、世界を救う力は無いかもしれない。
だが、世界を救う人の力になる事くらいは出来ると思っている。
勇者は最強だ。だが、如月には欠点もある。
それを補うためにパーティーがあるのだ。
パーティーにはそれぞれ役割があり、俺は俺の得意な事がある。
居場所というのは、そうやって決まっていくのだろう。
「居場所が欲しいのなら、人の役に立てることをしろ。どんな小さな事でもいい。何でもやってみるんだ。その為の力だろう?」
俺にしては、らしく無いかもしれない事を言った。
これも勇者パーティーの影響かな。
こうして昔の俺に似ている人に出会ったことで、やっと成長を実感出来た気がする。
「お前......それをお前が言うのか?回復魔法を使えるくせに冒険者パーティーに入らず、医療系のジョブにも就いてないだろ。一体今まで何してたんだ?」
......ッ!
佐藤は、寝ている体勢から座りに変えながら言った。
不満をぶつける相手は如月から俺へと変わり、こちらを睨み付けて来る。
「それは......」
「まさか、復讐心からずっと一人で山篭りだなんて言わないだろうな」
「......」
「図星か。お前が一人で引きこもってるお陰で、一体どれだけの人を救えたのか。俺に教えてくれよ」
......何も言えない。
言い返す言葉が無い。
確かに俺は、人助けよりも勇者パーティーを見返す為に森の奥へ篭った。ずっと特訓をし、少しづつだが日々成長していった。
しかし、本当に人の役に立ちたいのならすぐにでも固有魔法を活かしてヒーラーになるべきだった。
それをしなかったのは......。
「何も言い返せないか?
「......」
「お前は目立ちたいんだ。人を助けることで、自分がヒーローだと思われたい。だから、人目に付く所で活躍したい。違うか?」
「......」
「明来君?」
「......そ」
そんなはずは無い。
そう言い返すつもりだった。
だが、確かに佐藤の言う通りかもしれない。
「それは......どうかな」
考える程、自分の心が分からなくなる。
俺はどうしたかったのか。
俺の目的......。
俺は、本当に人の役に立ちたいのか......?
「ふん。まぁ、お前がどんな考えを持っていようが、俺が強くなる訳でもない。腹が立つだけだ。で、聞きたい事があるんだろ?さっさとしろよ」
「場所を移さないかい?ここじゃなんだし、ゆっくり話したい」
佐藤は、チッと舌打ちをして立ち上がった。
体に付いている土を軽く払うと、何も言わずに歩き出した。
一体どこへ向かうのかと思ったが、どうやら家に戻るだけらしい。
佐藤の家は、佐藤自身のせいで(物理的に)開放感のある場所となってしまっている。
そんな事に構う様子も無く、佐藤はまだ残っていたソファーに腰掛けた。
「ふぅ......それで、何の話をするんだ?」
「サナティオについて」
向いに座るようジェスチャーされ、傷だらけのソファーへと腰掛けた。
サナティオについて。
そう聞いても、佐藤は特に反応を示さない。
もう聞き飽きたか......それとも、サナティオについて聞かれることは分かっていたのか。
しかし佐藤から出て来た言葉は、意外なものだった。
「サナティオ......ってのは、何だ?」
「......なに?」
勇者パーティーを追放され、辺境の地で魔法の練習していただけなのに〜回復の実が最強過ぎて異世界無双〜 切見 @Kirimi1031
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