第26話 パーンヴィヴリオ

「島だ!やっとゴールが見えた!!」


長い長い船旅も終わり、ようやく目的地へと辿り着けた。

船着場の町、デウテレス。

アスティラ大陸南部の最北端にある港町だ。

再び丸一日かかった為に空は暗く、せっかくの町を見ることが出来ない。

ゴールなどと高津は言っているが、ここからが本番。

本格的にガイレアス教と戦うのだ。


「乗組員の方々、ありがとうございました!お陰でここまで難なく海を渡ることが出来て、とても助かりました」

「いえいえ、勇者様がまた我々を救ってくださるのだと思うと、お役に立てただけでも光栄です」

「勇者様方、どうかこの世の中を救ってください。あの平和な、魔王が居なくなった幸せな日々を取り戻してください!」

「どうか、よろしくお願いします」

「ええ、任せてください。我々は最強の勇者パーティーなのですから」


意外にも、海での旅にトラブルは発生しなかった。

巨大なタコやイカに襲われる事もなければ、魚型の魔物に襲われることもなかった。

残念という訳では無いが、もっと困難なものかと思っていたが為に案外あっさりとしているなと感じただけだ。

まぁ考えてみれば、海の巨大生物などこんな浅瀬に居られては困る。もっと深海になら、存在するかもしれない。いや、この世界の事だからきっと超巨大生物でも潜んでいるのだろう。

今回は会わなくて良かったな。

結局、一番苦しめられたのは船酔いだったとは。


「それではまた」


デウテレスの港。

船を降りると、大歓迎というムードでも無かった。まぁ夜という事で人が少ないのもあるがまさか勇者パーティーが海から来るなどとは誰も思ってもみなかったのだろう。

殆どの人が通り過ぎて行く中、数人が気付いて大声を上げた。


「ゆ、勇者様っ!?」

「勇者様だ!!」

「勇者?ほ、本物だァ!?」


あっという間にその声は広まり、俺達の周りに人集りが出来てしまった。

だが如月が皆を制止させ、興奮する人々を抑えた。


「突然すみません皆さん。ですが実は、我々は現在秘密裏に行動しておりまして。夜も遅いので、どうかお静かに願います」


その言葉が届いたのか、完全にとはいかないが周りは少し静かになった。

秘密裏という程でもないと思うが、ガイレアス教の隙を突こうとしている訳だし、内緒にしてもらう方が都合が良いか。

ふむ......見た感じだと、この港はガイレアス教によって潰されているという訳でも無さそうだ。

まだここまで手が回っていないのか、それともこれも罠なのか。

どちらにせよ俺達のやる事は変わらない。

まずは情報収集だ。



──────────



俺達は、船で長時間揺られていたにも関わらずまだ動く事が出来た。意外にも、後半の船旅は皆割と眠っていたのだ。

慣れというのは怖いものだな。

まずは町を見て回り、サナティオの存在を確かめた。

ガイレアス教の手がどれ程届いているのか、最悪を想定していた訳だが......幸いここへはまだ来ていないようだった。

取り敢えずは作戦が失敗していないというだけ嬉しいものだ。

見立てでは、ガイレアス教は南の方から来ると予想出来る。俺達を迎え撃つつもりか、そのまま進行するのかは分からないが、どちらにせよ挟み撃ちの形には出来る。


「皆、出発する準備は良いかな?」


朝。もう出発だ。

町を見て、再び計画を確認すると後はもう休息を取った。ゆっくり出来るのは、本当にこれで最後かもしれない。

折角のアスティラ大陸初上陸だが、そんな事はお構い無しにすぐ町を出る。

ここから、いつガイレアス教と接触することになるのか分からない。

出来れば早く南下し、被害を最小限に抑えたいというのが如月の考えだ。


「まずはパーンヴィヴリオへ向かう!」


船旅を終え、翌日の朝にはもうすぐに出発した。

目標はパーンヴィヴリオ。

最大の魔法図書館だ。

そこでサナティオが何の植物なのか、どうしたら中毒を治せるのかを調べる。


「しかし、変な話だよな。図書館に情報があるのなら、一人くらい知ってる人が居ても、おかしくないんじゃないか?」


パーンヴィヴリオは、伝説の魔導師が造った魔法図書館。そこでなら、世界の殆どを知ることが出来ると言われている。

そんなに有名なら行ったことがある人なんて、ごまんと居るはずだ。

図書館が実在するのなら尚の事。


「確かにね。そうだな......例えば、情報を探すことが難しいとか。世界の殆どを知ることが出来ると言われている訳だし、あまりにも本が多いんじゃないかな?」


それもそうか。

如月の言う通り、探すのが大変という説は有り得るな。

どれだけ大きい場所なのかは知らないが、きっととてつもない数の本が置いてある事だろう。

その中からたった一つの植物について探すなんて、気の遠くなるような話だ。

まぁ、流石にそんな事は無いだろうと思いたいが......。


「パーンヴィヴリオについての情報が少なすぎるってのも気になるね。行ったことがあるって人をまだ見た事がない。もしかして、やっぱり存在しないんじゃ......」

「どちらにせよ進むべき方向は同じなんだ。その真偽は、この目で確かめて見ることにしよう」


パーンヴィヴリオについて聞くと、誰もが口を揃えて言う。

『ただの図書館』だと。

世界の半分も分かりやしないし、そこら辺の図書館よりも情報が少ないと聞く。

だが、フラディアさんは言った。あそこなら、サナティオの事が分かるかもしれないと。

それが例えただの噂だったとしても、もう頼るしかないのだ。今は、フラディアさんを信じる。

俺達は再び馬車で、パーンヴィヴリオへと向かった。

町から馬車を利用できるが、ほとんどの場合は北へ向かうらしい。

パーンヴィヴリオへ行く人など誰も居ないのだそう。


「魔物が居ないな......」


道中、一つの違和感に気付いた。

『魔物が居ない』。

この世界では、この上ない程不可解な出来事だった。外に出れば、どこに行っても魔物が居るような世界でこんなに現れないとは驚きだ。

森の中、辛うじて残っている道を辿って進む。

そこそこ長い道程で、馬車でも数時間かかるような場所だ。戦闘は避けられないと思っていたのだが......魔物が居ないに越したことはないが、これでは寧ろ不気味で仕方ない。


「パーンヴィヴリオの影響なのか......?」


そこそこ長い森を越え、何やら建造物が見えて来た。

筒状の長い塔になっている建物。森の木々も中々大きなものが多いが、そのどれよりも背が高くて一際目立っている。


「見えました。あれが、パーンヴィヴリオです」


馬車の運転手がそう言った。

港町からここまでずっと草原や森を通って来た。そんな中、生い茂る森林内で堂々と聳え立つ塔。違和感を覚えた。

あれが......パーンヴィヴリオなのか。

俺が想像していた図書館とは全く違った。

大図書館と言われているからには、てっきりもっと大きな建造物かと思っていた。

それがまさか、あんなに縦長とは。


「到着です」


およそ一時間ちょっとで、パーンヴィヴリオに着いた。

ここから更に南下するとなるとミディアムテリトリーを通らなくてはならなく、馬車は入る事が出来ない。

俺達は馬車の馬と運転手に礼を言うと、パーンヴィヴリオへと向き直った。

そびえ立つ大きな塔。

まるで灯台のようだ。


「これがパーンヴィヴリオか......」


近くで見るとより一層、その大きさが分かる。

こんな森の奥なのに、ツタまみれにはなっていない。きちんと手入れが行き届いているのか。

正面には扉が一つ。人以外にも入れるようにと配慮したのか、扉がやけに巨大だ。

外部を一周して見る。特に隠しスイッチとかは無さそうだ。


「よし、入るよ。皆準備しておいて」


如月が先頭になって、巨大な扉を開けてみる。

もうこの時点で、とても図書館には見えない。まるでダンジョンへの入口だ。

扉には取っ手が付いておらず、押し戸になっているようだった。

ガンッ。

......おや?


「どうした?」

「いや......開かない」


如月は、フンッと力を入れている。

しかし扉は微動だにせず。

取っ手も無いし、引き戸でもスライド式でも無いはずだ。


「おい嘘だろ!?折角ここまで来たってのにかァ!?」

「まぁ待て、落ち着け。何か方法があるはず......」


痺れを切らした高津を落ち着かせ、少し考える。最後の手段だとか言ってドアを破壊するとか、こいつならやりかねない。

ドアだけなら良いが、塔まで壊してしまったら冗談では済まない。


「何か隠しスイッチがあるとか?」

「ここはドアじゃないとか?」

「実はパーンヴィヴリオは図書館じゃないとか......」

「じゃあ何なんだよ」

「......オブジェ?」


結構探し回ったが、結局何も見つからなかった。

隠し扉もスイッチも別の入口も。なんにも無かった。

なるほどな。地元の人達すら興味が無い理由が分かった気がする。

これだけ堂々と存在しているのに、誰も利用しようとしない。その理由は、利用出来ないからだったのか。

伝説のようになっているのも、過去に入れなかった人達が興味を無くし、現代までただのオブジェとして思われるようになってしまったからなのかもしれない。


「ま、そう簡単に解決する訳が無いよな」


フラディアさんはエルフ族だったから、この塔が図書館だと知っていたのだろう。そして、いつからかは知らないがエルフ族の村にずっと居た為に、これがただのオブジェとなってしまった事を知らなかったのだろう。


「一体何の為に鍵なんてかけてるんだろうかねぇ......」


ここに来て勇者パーティーの弱点が出て来たな。ズバリ、繊細なことが出来ない。

硬いドアを破壊するとか、それだけなら難しくは無い。だが、ドアを破壊するが建物は破壊しないというパワーの調整が出来ないのだ。

古い建物だし、割と簡単に壊れてしまうかもしれない。

何せパワー担当が信用ならないからな......高津にやらせるのだけはちょっと待ってほしい。


「............仕方ないか。取り敢えずここは後回しにしよう。恐らく鍵か何か、特別な開け方があるはずなのは確かだ」

「そうだな。こんな所で時間を食うより、先に進んだ方が良い」


パーンヴィヴリオは一旦諦める事にした。

随分あっさりと諦める如月。まぁ開かないんじゃどうしようも無い。

時間さえあればいくらでも方法を試すが、今はまだガイレアス教も動いている。

優先順位的に、動いている敵の方を食い止めるのが先だ。

俺達は、南に向かって歩き始めた。

ここから行き当たりばったりになってしまうが、ガイレアス教がどこまで進行しているのか分からない。

慎重に行った方が良いだろう。


「問題は、ガイレアス教のボスが何処に居るのかって事だな」


チームにはリーダーがいるのと同じように、宗教にも主導者がいる。

しかし、ガイレアス教の教祖は既に如月達によって倒されたと聞いている。


「なぁ、今のガイレアス教のリーダーって検討もつかないのか?」

「......」


如月は黙り込んだ。

触れてはいけないような話題だったのか?

これから闘う相手だと言うのに、触れない訳にはいかないだろう。


「テレオラス=ストラテム」

「?」

「それが、ガイレアス教の教祖だ」


テレオラス......何だか覚えにくい名前だ。

まるで偉人のような、何かを発明した人みたいな響きを感じる。

俺もミッシェルも、辺境の地に居たせいでその名前を知らない。


「ガイレアス教が、植物を崇拝し生物を嫌っている事はもう知っているよな?」

「あぁ」


言うなれば逆ヴィーガン。

植物の神を信仰する過激派の宗教団体。

植物を食べる動物を絶滅させようと企んでいたらしいな。


「魔王が生きていた頃、森を荒らす魔物を嫌っていたガイレアス教は一時的に冒険者ギルドと手を組んだ事があるんだ」

「ほう?話が通じるような奴らだとは思わなかったな」

「敵の敵は味方ってやつだ」


なるほど。

魔王が倒される前までは、魔物が暴れ回っていたからな。生きるために食らう動物と違い、魔物によっては他の生物を無意味に殺すようなやつもいたらしい。

そんな奴らを倒す為なら、人類と協力してもいいと考えたのか。


「ちょっと待ってくれ。味方になるくらいの考えが出来るのなら、同じく森を大切にしている......その、エルフ族とは仲良かったりしなかったのか?」


あまり口にしたくない種族名だ。

早瀬さんには聞こえにくいくらいの小声で言った。

つもりだが、これくらい聞こえているだろう。


「大切にするのと崇拝するのは違う。エルフ族は植物や動物に対して強い感謝の気持ちを持って命を頂いているが、ガイレアス教はこの世に植物以外を存在させたくないんだ」

「例え自分達も含まれていてもか?」

「そうだ。ガイレアス教のやり口を見ると分かるだろう?まるで自殺するかのような戦い方だ。全てが終わった時、自分達も植物の一部になろうと考えているのだろう」


肥料として......と、如月は言った。

確かに、メリアス=スレッツも猛毒の実で自殺をした。

船で魔物を暴れさせたのも、一歩間違えれば自分達も巻き込まれていたかもしれないような状況だろう。

はっきり言って脅威だ。

自らの命を顧みないやつほど怖いものは無い。


「一時的に協力関係にあったガイレアス教だが、俺達が魔王を倒した事によって魔物が減少。共通の敵が居なくなったガイレアス教は、矛先を我々へと向けて来たんだ」


それが、ガイレアス教が勇者パーティーと闘った経緯か。

魔王程では無いにしても、十分に世界を揺るがす存在となっている宗教だな。


「で、教祖は捕まったはずなのに、再び猛威を振るっている訳だ」

「あぁ。それで話を戻すが、教祖の代わりになり得る人物だったよな。一人だけいる」

「誰だ?」

「ルーティア=ストラテム。脱獄したという話を聞かないのであれば恐らく......今のガイレアス教のリーダーは、ルーティアだろう」


ルーティア......また新しい名前が出て来たな。

テレオラスとかいう奴は、確かガイレアス教の教祖として他に居ないほど相応しい人物だと言っていたが。


「待て、ストラテムって言ったか?」

「そう。ルーティア=ストラテムは、テレオラスの娘だ」


娘!?

女だったというのにも驚いたが、まさか娘と来たか。

小さい頃から影響を受けていれば、思想が過激になるのも無理はないか。


「ルーティアは本当の娘ではなく、養子だ。詳しい経緯や理由は分からないけど、孤児だったようだ」


孤児を養子に......?

植物を崇拝し、生物を絶滅させようとしている宗教の教祖が?

しかも、肥料にする訳でもなく。

分からない......。

どういう人物なのか、全然掴めない。


「何を考えているのか分からんな......」

「全くその通りだ。彼自身についてはこのくらいにして、後は固有魔法について詳しく説明しようか」

「あぁ。確か、テレオラスの固有魔法は植物を操る能力だったか?」

「うん。植物の成長速度や動きを操れる。まるで自分の手足みたいにね」


植物崇拝の宗教としては、うってつけの固有魔法だな。

植物を操るだなんて、まるで植物に愛されているかのような見た目になるじゃないか。

例えそれが魔法だと分かっていても、見る人にそう意識させられる。


「でも植物だったら、可哀想だが炎魔法でいいんじゃないのか?」

「それで解決するなら、勇者パーティーが出る幕は無かったよ」


だよな。

強敵とは、普通では対処困難だから強敵と言うのだ。


「で、娘の方は?」

「それがさっぱりなんだ。前に闘った時は、後方から魔法で闘っていたような気がする。もしかしたら支援系の魔法が得意なのかもしれないね」

「という事は、テレオラスよりも強い魔法を持った奴が現れたか......もしくは、相当頭の切れる奴が居るかだな」


どちらにせよ脅威だ。

だが一つだけ確かな事がある。

植物を崇拝しているという事は、植物を食べることは無いということだ。

生物を絶滅させる理由として、自然破壊や植物の摂取という事が挙げられる。

なら、自分達はサナティオを使用しないという事だ。

メリアス=スレッツが使っていた猛毒の実は、そのまま死骸から栄養を摂取して植物が育つという仕組みだったし、魔物化も自衛手段としてドーピングをしたと考えれば虐待にはならない。

だが、サナティオの場合はそのような特性を持たない。

崇拝しているのが弱点となる場合もあるという事だ。

勝てない敵では無い。なんなら、一度勇者パーティーが倒しているんだ。

さっさと倒して、サナティオを何とかしなければ。


「あ」


早瀬さんが何かを見つけて立ち止まった。

俺達は早瀬さんの指さす方向を見る。

魔物は少ないが、全く居ない訳じゃない。森は深く、夜に迷ったら出て来れないような暗い場所。足場にもゴツゴツとした岩が転がっていたりと、人が住むにはあまり向かなそうな場所。


「人だ」


木の隙間から人が見えたという早瀬さん。

俺には見えなかったが、別に変な毒に犯されているとかそういう訳じゃないよな?

少し早瀬さんが心配になりながらも、恐る恐る指さす方へと歩いて行った。

すると、森がざっくりと切り抜かれたように無くなっており、その中心にいくつも家が建っていた。

村だ。

本当に人が住んでいた。


「こんな所に村があったのか」

「幻覚じゃないよな?」

「如月が見えてるんなら、本物だろう」


まぁそうだな。

物理攻撃も魔法も、全て跳ね返す如月が見えているのなら本物だろう。

だが警戒はする。

勇者パーティーだからって、どこにでも受け入れてもらえる訳じゃない。

それにここはパーンヴィヴリオ近くの、人里離れた場所だ。

人喰いの住む村だったりしても、何らおかしくは無い。


「行こう」

「行くのか?」

「ずっと歩き続ける気?もう暗くなるし、足痛いし疲れたし」


休めると思って安心したのか、急に喋り始めた小森さん。

そう思ったら、俺も急に疲れを思い出した。

明確な目的地がある訳でもないし、ここで休みたい。


「今日はあの村にお邪魔しよう。でも警戒は怠らないでくれ。何があるか分からない」


道なんて元から無かった訳だが、歩いていた場所を外れ、森を抜ける。

村へと向かって歩いて行くと、人が数人見えた。子供だろうか。洗濯物を取り込んで、家へ持って行く途中のようだ。

こちらに気付いて少し警戒した様子を見せるも、すぐにその内の一人が走って来た。


「はぁ、はぁ、もしかして、勇者様ですか!?」


結論から言うと、ここは何の変哲もないただの小さな村だった。

トラップとか、幻覚とか、呪われた村だとか。

そんなことを考えていたのが失礼だと言うくらいに、明るくて元気な人の住む場所だった。


「まさか!まさかお会いすることが出来るなんて!」


久しぶりにファンからの熱烈な歓迎を受け、少し圧倒されている如月を見ることが出来た。

しかし固有魔法の関係上、向こうからの握手は断っている。

反射で怪我をさせてしまっては申し訳ないからな。


「どうぞこちらへ!何も無い村ですが、出来る限りのおもてなしをさせてください!」


村人達は、勇者パーティーをどう扱えばいいのか戸惑いながらも、一番大きな家へ案内してくれた。

流れ的に、村長か誰かに会わせてくれるのだろう。


「こんにちは。すみません、まずは急に押しかけてしまった無礼をお許しください」


中に入るなり早々、如月が謝罪の言葉を口にする。

目の前に座っている体の小さなご老人。おそらく村長だろう。

しかし俺達は、他に意識を奪われるものがあった。

部屋は広く、まるで何かイベントの会場のよう。テーブルや椅子が置いてあり、何人か食事をしている人もいる。

その奥の席に座っている男。

一瞬で分かった。

三年も顔を合わせていなくても分かる。

脳が覚えている。


貴士たかし......?」


そこに居たのは、俺達のクラスメイト。

佐藤さとう 貴士たかしだった。

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