『リハビリ生活とは何か』

小田舵木

『リハビリ生活とは何か』

 うつの男の朝は早い。

 午前3時。起床。とりあえず寝起きの煙草を吸う。

 煙草を吸いききると、朝食。冷凍食品とご飯。味気ない朝食。こんなもので俺の身体は作られているのか、と思う。しかし、料理をするのは面倒くさいのだ。

 朝食を食べきると、また煙草。いい加減かげん煙草の吸い過ぎで肺気腫にでもなりそうである。


 煙草を吸いきった俺は支度を整える。身支度を整える、と言っても歯を磨いて顔を洗うくらいである。

 身支度を整えた俺はパソコンの電源を入れる。随分ずいぶん古いパソコンだから起動には時間がかかる。いい加減かげん買い替えたい。OSが古いからとLinuxを入れて無理やり使うのはどうかと思う。

 

 やっとこパソコンが立ち上がる。しかし。ここからも時間はかかるのだ。

 デスクトップ画面からテキストエディタとブラウザを起動するが、この2つが起動しきるのに2分はかかる。その間はライティングデスクの前で呆然としておくしかない。

 

 テキストエディタとブラウザが起動しきると、俺は『X』と『カクヨム』にアクセス。

 まずは巡回の時間なのだ。スマホに『X』のアプリを入れてないので『X』を確認するのはこの時間に限られる。ま、通知はそんなに溜まらないが。

 『カクヨム』のダッシュボードもこの時間帯にしか確認しない。昨日あげた作品の反応を確認する。ウケていれば喜ぶし、ウケてなければ凹む。

 ついでに通知欄を開けて他の作者様の動向をチェック。ノートや新作を軽く読んでいく。この時間帯はジェラシーが湧きやすい時間でもある。皆、巧いのだ。俺よりも。


 ここでインターバル。キッチンへと舞い戻り、煙草を吸う。ここで今日書く作品の事を考え出す。いつもプロットなしで挑む俺だが。たまにはプロットらしきモノを考えている時もある。

 

 ライティングデスクへと戻る。パソコンのテキストエディタと向き合う。ここでさくっと書き出せる時もあれば、小一時間以上かけなくて煩悶することもある。

 パタパタと作品を書き出す。未だにキーボードのブラインドタッチが出来ない。なんとも情けない話である。

 ここから数時間作品さくひんと向き合う。軽く書けてしまう作品もあれば、絞り出すようにしか書けない作品もある。

 基本5000〜10000字程度に作品を纏めるようにしている。それは。まだ、長編を書くだけの気力がないからである。それにネタもない。もし長編を書くなら資料も相当数あつめなくてはならない。考えるだけでやる気をなくす。

 作品を書く途中ではタバコ休憩を挟む。これは外せない時間なのだ。ニコチン中毒者にとって。

 大体4〜6時間で作品は仕上がる…と言うか仕上げてしまう。あまり明日に持ち越したくはないのだ。基本一発勝負なのだ。短編を書くというのは。

 

 

                   ◆


 小説を書き上げると。俺はそれを『カクヨム』の小説執筆ページにコピペする。

 コピペした文章を頭から読み返す。その際にルビを振ってしまう。これは癖だ。文章を流し読みしない為につけた癖。

 文章を読み返すと、私は小説の設定ページを開く。キャッチコピーとあらすじを書くのだ。これが一番苦手だ。要約しやすい作品なら良いが。要約しにくい作品もある。そういう時は諦めて適当なキャプションをつけてごまかす。

 小説の設定を終えると、また煙草を吸いにいく。ここで頭を切り替えたいのだ。

 紫煙しえんを眺めながら、適当に頭を文章から引き剥がす。なんならどうでも良いような妄想をして過ごす。

 煙草を吸い終えると、また文章本体の確認。さっき振ったルビの効果を確認するために、プレヴューモードにしておく。この時に読者様にどう見えるかを確認する。まあ、それが十全なチェックになってないのは日々の作品が証明しているが。

  

 チェックを二、三度してしまうと、俺は文章をポストする。

 昔はもっとチェックを重くしていたが、最近はお気楽にやっている。自分だけのチェックは5回くらいやっとけば十分なのだ。

 

 文章をポストしてしまうと―何かから開放された気分になる。

 どうしてだろう?俺は好きで文章を書いているはずなのに。

 何かに縛られているような感覚がするのだ。

 それは―俺自身なのかも知れない。書け、書くんだ、俺。

 

                   ◆

 

 文章を書き終えた俺は―暇である。

 ニートと言うのはそういうものなのだ。

 時刻はその日、書き上げた作品にもよるが7〜10時。そろそろ社会が動き出す時間である。

 この時間帯は腹が減る。とりあえず買い置きのカップ麺をすする。


 時間が早ければ、ここでハローワークの偵察に向かう。

 俺の地域の管轄のハローワークは遠い。5キロ強はなれてる。運動がてらそこに歩いていくのだ。

 ハローワークまでは幹線道路をひたすらまっすぐ歩く。この季節だと猛烈に暑い。持ってきたタオルが2本はびちょ濡れになる。途中でコンビニに寄って炭酸水を買う。コイツが美味いのだ。


 ハローワークに着くのは1時間半後。大体朝の9時くらいには着く。

 ハローワークに入ると、入口のところにある新着求人をチェック。どの求人も要普通免許で凹む。社会人になる時、大阪に居た俺は免許を取らなかったのだ。

 新着求人をチェックし終わると、俺は受付に行き、求人検索のパソコンの席を取る。

 朝早くのハローワークは…意外に混んでいる。何でだろうかと考えたが―この時期は賞与をもらった後だ。そこから退職する人間はたくさんいるらしい。

 

 パソコンで求人情報を検索。この時間はとにかく辛い。

 どの求人もいまいちピンと来ないのだ。贅沢は言ってないはずだが。

 求人検索パソコンの利用は30分までと決まっている。だから俺はその時間をフルに使って近隣の地域の求人を眺めまくる。だが、家の近くで時給1000円以上の仕事は案外見つからない。うつブランク持ちの癖に贅沢言い過ぎだろうか。

 

 30分後。俺は今日も収穫なしでハローワークを去る。

 エアコンの効いた空間から出るのが惜しい。


 またもや炎天下の道を5キロ歩く。行きとはルートを変える。じゃないと飽きてうんざりしてくるからだ。

 帰り道は妙に思索向きだ。行きと違って音楽を聞いていないからかも知れない。

 ああ、俺は言い訳して今日も求人に応募しなかったなあ…

 こういう事を考えてしまう。本当はここで明日の文章のネタでも考えれば良いのだが。

 帰り道には普段行かないスーパーがある。そこに寄るのが帰り道の唯一の楽しみだ。そこのスーパーは弁当が美味いのだ。

 

 10時〜11時。家に帰り着く。この頃には全身が汗で塗れている。

 とりあえず服を脱ぎ去って、エアコンを点ける。でも1時間だけ。貧乏人はできるだけエアコンを使いたくないのだ。

 

                  ◆


 さて。昼の時間なのだが。本格的にすることがなくなる。

 スマホを眺めても暇は潰せない。とりあえず洗濯物をしてしまう。

 洗濯物を干すと俺は唯一持っているゲームコンソールを起動する。

 もう何回もやったゲームを繰り返す。この時間は最高にもったいない。

 

 ゲームをしている内に夕方。とりあえず、ハローワークの帰りに買った弁当を食べる。

 そして風呂を沸かす。風呂を沸かしたら、文庫本片手に湯船へ。

 最近は集中して文章を読める場は少ない。その一つが湯船の中なのだ。

 風呂と言うのは―うつにとって大敵だ。風呂に入るというプロセス自体が面倒くさくてサボりがち。だが、最近リハビリを始めた事で、風呂に入る習慣を取り戻した。


 風呂で文庫本をちょうどいいとこまで読んだら、身体と髪を洗って。

 上がる。風呂上がりの身体は熱い。扇風機に直行。その前の床に寝転んでスマホをいじる。

  

                   ◆


 夕方も深まり。俺は睡眠薬を飲んでしまう。

 まだまだ夜はこれからなのだが。起きていてもしたいことはないのだ。

 ベットに寝転がる。そこではいろんな思いが去来する。


 俺いつまで無職なんだろう?―お前がやる気を出すまで。

 俺いつまで文章書いてられるんだろう?―お前のやる気が続く限り。

 俺いつまでうつのまんまなんだろう?―それは一生そのまま。

 

 いやあ。寝る瞬間が一番くるのだ。嫌な感情が。

 まあ?その嫌な感情も俺が頑張れば解消できるものばかりなのだが。


 俺は頑張っていない。

 びっくりするほど、のらりくらりと人生をやり過ごしてる。

 世の真面目な人たちをみるとコンプレックスが刺激される。皆、どうやって頑張っているんだろう?

 

                   ◆


 睡眠薬では夢を見れない。何でだろ?楽しい夢でも見れた方が気が楽なのだが。

 まあ、悪夢を見てうなされる可能性もあるから…良いっちゃ良いのかもしれないが。

 暗い眠りが俺を包み込む―


                   ◆


 また今日も目覚めた。

 …文章書くかな。


                   ◆

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『リハビリ生活とは何か』 小田舵木 @odakajiki

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