第一頁
最後の検査が終わり、それから数日後のこと。
ついに、私の退院の日が来ました。
退院後のことについて、お医者様からいくつかの説明を受けました。
今はまだ、「私」の病気について具体的なことは何もわかっていないそうです。
それでも、人生を急に失った人間が今まで通りに生きていく、それが難しいことは、なんとか広まっているようで、ある程度の支援が用意されているようです。
それで足りるかは不明ですが、幸い、サンプリングに協力して得た資金もそれなりにあります。
しばらくは、それを頼って生きていくことになりそうです。
これから、どう生きていけばいいか。
依然としてその指針は不明瞭なままです。
過去の「私」が、ノートに託した想い。それを遂げることも考えました。
どうやったって私と「私」は、側から見れば一直線上の存在で、これから先、「私」のことは、どうやったっていつかは向き合わなければならないものなのですから。
けれど、例え「私」であろうとしたって、今の私ではただの真似にしかならない、ということ、それを私はすでに知っています。
だから私は、私のまま生きていくしかないのだ、と、
今は、そう思っています。
カンナさん、と、私を呼ぶ声がしました。どうやら時間のようです。
ほとんど無いような荷物をまとめて部屋を出ると、そこにはあの看護師さんが迎えに来ていました。
お世話になりました、と私は頭を下げます。
すると、看護師さんは、いいのよ、と言って、それから両手で私の手を包み込むようにしながら、何かを渡します。
それは、メモ帳でした。連絡先だ、といいます。
「何かあったら連絡してね」と、そう言ってくれる彼女に、その優しさに。
つい、言葉が出てしまいます。
「何か、なくても、連絡してもいいですか」
彼女は、にっこりと笑ってくれました。
見送ってくれる彼女に手を振りながら、私は病院を発ちます。
そして考えます。これからのこと。
今までの「私」と同じように、再び私は生きていくこととなります。
再び生きていく、と書いて、「再生」。されど、私は「私」には、どうやったって戻れません。
それでも。
不思議なことに、再び生まれる、と書いて、これもまた「再生」となります。
私、として再び生まれた私は今、確かにこうして一歩を踏み出しました。
ひとまずは、夏。いつか、頭上の太陽がその勢いを増す頃、満天の光の下で、カンナの花を見よう。
それまではどうにか、生きていこう。そのように思うのでした。
再び生きると書いて 九十九 那月 @997
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