第50話 大魔王、ことわざを作る





 俺、アリア、グルムンド、アルテナティアのパーティーはヤムートに上陸した。


 帝国の軍艦は四隻を残し、その他の軍艦は事のあらましをヴェインに伝えるべく帰還するそうだ。


 上陸早々、トラブルが発生した。



「やい、てめぇら!! 皇都へ行きたければオレたちを倒して行け!!」



 港町の漁師たちがやる気満々で俺たちを迎え撃とうと立ちはだかった。


 上陸した途端にこれかよ。


 いや、想像はしてたけどさ。いくら何でも仕掛けてくるのが早すぎるって。マジで蛮族かよ。



「そこを通してもらえないか? 我々は必要以上に貴殿らを傷つけたくない」


「おいおい、ビビってんのかあ?」



 アリアが説得を試みるも、漁師たちはカットラスをブンブン振り回している。


 俺の見立てでは、強いのが一人。


 アリアを挑発している漁師以外は大したこと無さそうだった。



「どうしても、そこを通してもらえないのか?」


「何度も言わせるな!! こちとらてめぇらをボコしたら帝様からたんまりと報酬をもらえんだ。それに……グヘヘ」



 漁師がアリア、グルムンド、アルテナティアを下卑た目で見つめる。


 どうやら三人を倒した後の楽しみを想像しているようだ。


 ああ、無知って怖いよな。



「三人は手出し無用。私一人でやる」



 アリアが聖剣を鞘から抜いて構える。


 俺たちは一歩後ろに下がってアリアの戦いざまを見守ることにした。



「おらあ!!」



 漁師がカットラスを振り上げる。


 しかし、そのカットラスがアリアに向かって振り下ろされることは無かった。


 目にも留まらぬスピードで接近したアリアが、剣の柄で漁師の鳩尾みぞおちを殴ったのだ。



「ごふっ――ッ!!」



 口から泡を吹いて漁師が倒れた。


 漁師たちも倒れた漁師が一番強いことを理解していたのだろう。


 全員がアリアの速さを前に絶句してしまった。


 いや、今のは俺もビックリ。

 まだ帝国と友好条約を結ぶ前に戦った時より更に速くなっている。


 今の俺だと少し危ないな。



「クラウディアも連れて来れば良かったかも」



 クラウディアは現在、働かない魔王二人のことで一度ダンジョンに戻っている。


 アルテナティアがレルゲンおじいちゃんに何も言わずに来てしまったらしく、今回のことを伝えに行っているのだ。



「次は誰だ?」



 アリアが漁師たちを威圧する。


 それだけで弱い漁師は震え上がり、逃げ出した。残った数少ない腕に覚えがある漁師は、アリアに秒殺された。


 あ、いや、殺されてはいないか。


 一方的にボコボコにされただけである。



「ふぅ、終わったか」


「つまらんな。妾は血沸き肉踊る戦いが見たいというのに」


「いや、世界トップクラスの実力がある勇者が血沸き肉踊る戦いって、それ魔王クラスの相手にしかできないからな?」



 アルテナティアの求める戦いのレベルが高すぎる。



「では、この後どうしマス?」


「取り敢えず、旅に必要な物資を買いに行こうかと。長い道のりになりそうなので」


「長い道のりかぁ。軍艦に軍用車があったよな? 借りに行かないか?」


「いや、見たところヤムートは道路が整っていない。下手に車で移動するのは危険かも知れない。戦車があれば良かったのだが」


「戦争しに来たわけじゃないからなあ」



 そういうわけで、俺とアリアで食料を買いに行くことになった。


 グルムンドとアルテナティアは何をしてるのかだって?


 あいつらが何もするわけないだろ。適当なところで時間を潰している。


 しかし、買い出し先でもトラブルが発生した。



「ガハハハ、この店で買い物がしたいならオレを倒してみろ!!」


「蛮族国家め……」


「これ、私が強盗のようにならないか?」



 あろうことか、入った店の全てで店主が勝負を仕掛けてきたのだ。


 アリアも俺が言っていた蛮族の意味を理解し始めたらしく、物凄く嫌そうに剣を振るっている。



「ま、参りました!! す、好きなだけ品物は持ってって良いので勘弁してください!!」


「やっぱり私が強盗みたいになっていないか!?」


「なってるなあ。まあ、気にしてたらこの先やっていけないし、慣れろ」


「無茶を言うな!! 私は勇者だぞ!?」



 ……ふむ。



「でも勇者って昔から人ん家のタンスや戸棚を開けたり、壺とか樽とか壊したりするじゃん? 似たようなものだろ」


「そんな勇者聞いたこともないのだが!? というか勇者なのかそいつは!? 完全に強盗ではないか!!」



 勇者は強盗。


 俺の前の世界では割と当たり前の認識だったからな。


 ゲームの中の話だけど。


 なんて会話をしながら俺とアリアが店を出ると。



「やい、てめぇら!! 道具屋のが世話になったらしいな!! オレとも勝負しろ!!」


「……はあ」


「ヤムートの人間と一回戦ったら百回は戦う覚悟をしろってことわざ、どう?」


「いいのではないか? 帝国に帰ったら学園の教科書に加えてもらえないか私から頼んでみよう」



 ヤムートの人間はGと同じ扱いで良いと思うの、俺は。


 その後も襲いかかってくる町の人間を撃退しながら、勇者パーティーは街を出るのであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

打ち切りです。


「面白い!!」「ヤムートが蛮族すぎる」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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ラストダンジョンの大魔王、世界中へ配信されていると気付かずに戦いたくない宣言で大炎上してしまう。〜え? 勇者ちゃん? 菓子折り持ってどうしたの?〜 ナガワ ヒイロ @igana0510

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