第49話 大魔王、勇者パーティーに入る






「お久しぶりデスネ!! 帝国のお城で会った時以来でしょうカ!!」


「世話になるぞ、帝国の皇女よ」


「お前ら、態度がデカイぞ。まじでごめん、アリア」


「……」



 俺は甲板に戻り、アリアにグルムンドとアルテナティアのことを話して謝罪した。



「い、いや、それは構わん。少し驚いただけだ。ただグルムンド殿はローブか何かを纏ってもらえないだろうか? 海兵たちが怯えている」


「おや、そうデスカ?」



 まあ、パッと見は人骨だからな。


 人の骨が船内を闊歩してたら普通に亡霊の類と思われるだろうし、怖い。


 アリアの指摘は実に尤もなものだった。



「ふーむ、ではこうしましょうカ。――変身魔法・トランスボディー」



 グルムンドが魔法を発動する。


 淡い光が一瞬にしてグルムンドを包み込み、その光が晴れると。



「ワタクシ、こんなこともできマスヨ!!」



 衝撃だった。


 グルムンドが雪のように真っ白な髪と真紅色の瞳の美女になってしまった。


 ともすれば、美少女モードの俺より綺麗かも知れない。

 アルテナティアにも匹敵するだろう。



「どうデス?」


「ビビった。お前ってそんなんだったのか」



 魔王に性別という概念は存在しない。


 しかし、容姿は男性か女性のどちらかに寄ることが多い。

 俺もデフォルトだと男だし、アルテナティアも女だからな。


 俺が驚いていると、意外にもアルテナティアが頷いた。



「まあ、骨格は美女のものであったしな」


「骨格ってお前、そんなんで分かるのか?」


「くふふ、知りたいか? 一時、妾は美しい女を喰うことに固執しておった時期が――」


「聞きたくない聞きたくない」



 そうなんだよな。


 自分や配下が違うから忘れがちだけど、魔物とか魔族って本当は人食いの化け物なんだよな。


 怖いわー。



「む。言っておくが、妾とて嫌がる女を無理には喰っておらんぞ?」


「じゃあどうやって?」


「決まっておろう。妾の血肉となり、永遠に生きたい者を募ったまでのこと。くふふ、妾を崇める者は喜んで――」


「やっぱ聞きたくねーよ」



 こいつ、やっぱロクでもないわ。


 ほら、アリアだって少し、いや、かなりドン引きしてるぞ。



「皇女殿下!! アリア皇女殿下!!」



 そんな雑談をしていると、何やら慌てた様子で伝令兵がやって来た。


 アリアが応じる。



「何事だ!!」


「ヤムートの国主から書簡が届きました!!」


「む、随分と早いな。ヤムートには遠距離での連絡手段が確立しているのか? 書簡を見せろ」



 兵士から紙が入った筒を受け取り、アリアがその中を確かめる。


 しかし、アリアの顔色がどんどん悪くなった。



「……シュトラール殿。貴殿の言った通りだな」


「ん?」


「国主、ヤムートの言葉でみかどだったか。から返信が来た。フレイベルと友誼を結ぶのも吝かではないらしい」


「ほーん、良かったじゃん。なんで顔色が悪いんだ?」



 同盟を結べるのは今の帝国にとってありがたいことのはずだ。


 暗い顔をする理由が分からない。



「同盟を結びたくば力を示せ、とのことらしい」


「ん?」


「待ち構えるヤムートの都市や街を徹底的に潰して、首都まで来いとのことだ。弱者には従わぬ、弱者とは友誼を結ばぬ。まさしく修羅の国だな」


「う、うわあ」



 ヤムートの国民性は昔から何万年も変わってないのか。


 正直、かなり怖い。



「ほう!! シンプルで分かりやすいではないか」


「死の気配がしますネェ。ワタクシ、少し楽しくなってきまシタ!!」



 そして、何故かウキウキワクワクしているアルテナティアとグルムンド。



「アリア、こいつら海に突き落とそうぜ」


「出来るならやっている」



 だよな。


 今の俺じゃあ、グルムンドを正面から倒せるだけの魔力も耐性も無いのだ。


 アルテナティアに至っては言わずもがな。



「で、どうする? 本当に進軍するか?」


「同盟を結ぶかも知れない相手の土地を侵略しろと? 私には無理だ。戦うにしたって、物資は最低限しか持ってきていない。砲弾の数も食料も足りなくなるだろう」



 ま、そりゃそうだよな。



「なんだ、つまらん。その程度では帝国が再び大陸の覇者となる日は遠いぞ」


「そうデスそうデス!!」


「……仕方ない」



 グルムンドとアルテナティアが野次を飛ばすと、アリアは何かを決断して頷いた。



「何をする気だ?」


「要は実力を示せばいいのだ。最近、忘れられているような気がするが、私とて勇者の一人。六人の魔王を葬った実績がある」


「まさか、単身乗り込む気か?」


「それが合理的であろう。書簡によると、ヤムートの軍が所々で待ち構えているらしい。それらを単騎で打ち破れば、こちらに有利な条件で同盟を結べるやも知れん」



 うわあ、勇気あるなあ。流石は勇者だ。


 俺がアリアに感嘆していると、その勇気が魔王二人の琴線に触れたらしい。



「くふふふ。気に入ったぞ、帝国の皇女よ!! 敵軍が待ち構える中、一人で挑もうとは!!」


「良いデスネ!! そういうのは好きデスヨ!!」


「は? お前ら、何を――」


「「妾(ワタクシ)も行こう(行きまショウ)!!」」



 ちょ、はあ!?



「くふふ。考えてみれば、勇者と共に国を落とす試みは初めてだ。勇者アリアよ、妾を退屈させるでないぞ?」


「ヒーラーはワタクシにお任せヲ!! 死んでもすぐにあの世から引きずり戻して差し上げマス!!」


「む、そ、そうか。その申し出はありがたいが――」


「ならば決定だな」


「デスネ!! 早速殴り込みの準備デス!!」



 断ろうとするアリアを無視して、グルムンドとアルテナティアがストレッチを始める。


 ああ、これは何を言っても止まらんな。



「シュトラール殿、ど、どうすれば……?」


「無理無理。まあ、俺も付いて行くから、気楽に頑張ろう」


「さ、先行きが不安すぎる!!」



 こうして、魔王三人と勇者一人という、前代未聞の勇者パーティーが誕生するのであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

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