第48話 大魔王、密航者を捕まえる
フレイベル帝国の軍艦で航海を続けること二週間。
アリアを中心とした使節団は大陸から離れた島国の港に到着した。
「……ふむ、流石に大陸ほど発展はしていないな」
港町の様子を見てアリアが呟く。
見たところ、ヤムートの港町にある船は木造ばかりで、帝国の軍艦のようにエンジンを搭載しているものは無さそうだった。
「そりゃ、フレイベル帝国は世界の中心だったからな。島国で今まで諸外国との交流が少なかったヤムートは何十年か技術が遅れてるだろ」
「この国が帝国と同盟を組んだところで、我が国の助けになるのだろうか……」
「……ん、そだな」
多分、ヴェインにとっては同盟はどっちでも良いのかも知れない。
肝心なのはアリアを危険から遠ざけることだろう。
親の心子知らず、とはこのことだろうか。
「よし。まずは小舟で降りて、ヤムートの王に謁見できるよう頼もう。さて、謁見まで何日かかるかな」
「ん?」
アリアが仕事の算段を立てていると、不意に妙な気配を感じ取った。
……これは、不味いな。
「すまん、少し食料庫の方に行ってくる」
「む? どうしたのだ?」
「鼠がいる。それもクッソデカイ奴」
俺は早歩きで食料庫へ向かった。
魔力が著しく低下しているせいで気付かなかったが……。
「これか」
俺は食料庫に置いてある大きな木箱の前で足を止めた。
そして、木箱を開ける。
「……ふむ、見つかったか」
「何やってんだ、アルテナティア」
「くふふ、何をやっているのだろうな?」
木箱の中にはアルテナティアがいた。俺はゆっくりと蓋を閉じる。
「待て待て。閉じるな、シュトラール!!」
「じゃあなんでここにいるのか言え」
「くふふ。なに、お主が
こいつ、誰が不貞を働くか。そもそもお前に操を立てた覚えは無い。
「はあ、早く出ろよ。アリアに事情を説明しないと」
「出してくれ」
「は?」
「ハマって出られん。……出して」
「……まじで何やってんだ。転移魔法で出りゃいいだろ」
「む、その手があったか」
アルテナティアが転移魔法を使って、木箱の外に出る。
その発想に思い至らないとか、アルテナティアって意外とポンコツなのだろうか。
「しかし、この大きさの木箱にハマるって何だよ」
なんて言いながら木箱を覗き込むと。
頭蓋骨と目が合った。
食料庫は薄暗く、どことなく怖い雰囲気がある。
だから余計にその人骨が怖かった。
「うお!?」
「どーも、お久しぶりデス」
「ってお前かよ、グルムンド!!」
「その反応は酷いデスネ」
どうやらバラバラになったグルムンドが木箱に入っていたせいでアルテナティアがハマってしまったらしい。
人骨が勝手に動いて組み上がり、グルムンドが元の形を取り戻す。
「なんだお前らがいるんだよ」
「なんで、と訊かれましテモ……」
「うむ」
グルムンドとアルテナティアが互いに顔を合わせながら、堂々と言い放つ。
「することが」
「無かったノデ」
「この暇人密航者共め……」
俺は二人に対して命令することができない。
だからダンジョン、アビスゲイト国のために働けと言っても、本人たちが拒否したらそれまでなのだ。
「っていうかお前ら!! 俺が留守にしてる間はダンジョンを守るって約束だっただろ!!」
「さて」
「何のことダカ」
こいつら……ッ!!
「……はあ。怒っても仕方がない、か」
この二人は今の俺と違って、転移魔法でどこへでも移動できる。
一応、ダンジョンに緊急事態が迫った場合は俺のところに連絡が来るようになっているので、そうなった時は二人に働いてもらおう。
うちにニートの穀潰しを二人も置いておく余裕は無いからな。
精々キリキリと働かせてやる。
「ひとまず、アリアに今回のことを説明しに行くぞ」
流石に無断で魔王二人を連れてきたことは謝罪しなくちゃいけないしな。
俺たちは食料庫から出て、アリアがいるであろう甲板に向かった。
その道中、帝国海兵たちとすれ違う。
ある者は異形の姿をしたグルムンドに驚いて腰を抜かし、またある者はアルテナティアの美貌に見惚れて気絶する。
なんだろう、ニートの穀潰し二人の方が俺を見た時のリアクションより良い気がする。
こう、俺を見た時の帝国海兵たちって、近所の子供を見ているような目だった。
この扱いの差は俺の見た目が十歳前後の子供だからか?
実に納得できない。
俺は若干の不満を抱きながらも、アリアに会いに行くのであった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
「面白い!!」「魔王が密航とか草」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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