第5話 そして未来は……?
神社の敷地を出てから、私は訊いてみた。前を歩く鳴海ちゃんに。鳴海ちゃんはさくさく歩く。
「鳴海ちゃん……。願い事の内容、はじめからわかってた?」
「だって。そんなに必死になるのなんてそれ以外ないなーって。先輩の周りには死とかもなさそうだし」
と思ったし、と付け足す。肩越しの視線で、私の顔をじっと見た。『そういうの』を見ているのか。そういえばこの子は何者なんだっけ? 霽月も不思議だけどあちらは神様で、だけどこちらはヒトで、うちの学校の後輩らしく――
「女ですもの、私たち」
あぁ……はい。
じゃあそれで、と考えるのを止めた。まぁいいか、と。女同士、鳴海ちゃんの恋の話を聞くこともあるかもしれない。私の方は叶ったら教えようとか決めてみた。
そんな事情で私は神社の使いっぱになった。
もの珍しく面白く可笑しいこともあるけれど、時に汗、時には涙の場合もあったり。人が神様に願うこと、想像したらだいたいわかる。いろんな種類のテレビ番組を観ているようだ。ニュースとかドキュメンタリーだけじゃなくて、バラエティも。だからあれがヒトの縮図ってやつなのかもしれない。
私からみたらくだらない願いも、誰が聞いても重たい願いも、霽月は淡々とこなしていく。仕事的な冷たさはないけど、神様的な超越は時に見える。だけどヒトっぽい悲しそうな表情を見せることもあった。顔がウサギだからわかりにくいけど、だんだんわかるようになってきた。髭の様子で。あと耳で。それと目とか。つまり全体。ヒトと一緒。
しょんぼりと垂れている髭を見ると、私もとても悲しいのだ。他人の願いでそんなに悲しむなんて、神様も大変だと思ったりする。
三ヶ月が過ぎる頃、私は思い立って訊いてみた。
「ねぇ、霽月」
もう敬語も止めてる。神様だって忘れたわけじゃないし、とても茶碗と同じに思えていないけど。いやむしろ茶碗を今までになく大切にしているくらいなんだけれど、今では友だち風でいいと言ってくれたことに、乗っかってみたいと思っていた。
「なんだ?」
霽月は筆を止めて振り向いた。私は半紙を切ってる鋏を止めない。私たちはお社の中で、なんちゃらに使うお札を作っているところだった。現場に付き合うこともあるけれど、私はあんまりいろいろわかっていない。難しいから。できることをやるのだ。
「私の願いって何番目?」
「知りたいか」
「うん」
少し沈黙。やがて背を向けて。
「知らない方がいいぞぉ」
気の毒そうなため息を思い出すと、知る気も失せるというものだ。
霽月はどうぞご覧あれとばかりに、ときどき名簿を置き忘れてくれるんだけど。
開けてみたなら次かもしれない。背中を向けた霽月は笑っていたのかもしれない。あるいはため息は演技ではなく、心の底から気の毒に思って出たものかもしれないし……。すると、一万単位で後かもしれない。
明日かもしれないし十年後かも。これはなるほど神様っぽい。もはや自力でがんばろうかと思ったり、いやいやも少し待ってみようと思ったり。お願い事をする前と大して状況は変わってなくはなくないか?
時々、鳴海ちゃんが訪ねてくる。とうとうこの間、気付かれてしまった。いつかはバレると思っていたけど、
「先輩の恋の矛先ってもしかしてヤツ?」
さすがに霊感少女は早かった。
これで未来は変わるかも @yutuki2022
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