番外編 家族っていいものですわね
「ごめんね、マーゴット。僕はずるい手を使ってあなたを手に入れたんだ······!」
「いいえ、お兄様は悪くありませんわ! 初めにマリオンに協力してもらおうと思って彼女に声をかけたのはわたくしですもの!」
オルグレン家のご兄妹が先程からしきりにわたくしに謝っております。
ここはオルグレン家の第二応接室。可愛らしい彼らの幼い頃からの肖像画が飾ってあるあのお部屋です。
本当に美麗なお二人は幼少時から可愛らしいのですね······!
素敵な作品をまたじっくり見てしまっていますと、まだお二人は謝っているのです。
何故かと言いますと。
マリオンとチャールズ様を結びつけたのはお二人なのだそうです。それが本当でしたら彼らは妹の恋の天使様なのに、わたくしに悪いことをしたと何だかとても蒼白なお顔をして頭を下げに来られるのです。
婚約者交代のことでしたら、わたくしもう気にしていないのですけど。
「あの、わたくし本当にもうなんとも思っていませんわ。
お二人が噂を上書きして下さったおかげでマリオンもチャールズ様も悪く言われることもなくなりましたし、何よりそう気にされますとわたくしが嫌ですわ」
「······僕が嫌になったのか、マーゴット!」
「ああ、わたくしのせいで!」
「違います! 元に戻ってしまったら、わたくしとジェレミー様は婚約することはありませんでしたし、パトリス様とも親しく出来ていなかったと思いますわ。
······わたくしが、それは嫌なのです。なのでこのことは神のお導きだったのだと思っておりますわ」
ようやくお顔を上げましたね。同じところで心を痛め、同じところで涙目になるところもよく似た御兄妹ですこと。
「マーゴット!!」
「お義姉様!!!」
それにしても、このように罪の意識に苛まれる状態は良くありませんわね。
何かいい方法はないかしら?
「あの、ところでお二人に相談があるのですが······」
◇ ◇ ◇
「お姉様、どうなさったの? 今日は何だか張り切ってらっしゃるのね?」
「そうかしら? うふふ」
「ジェレミー様にお会いするのが楽しみですの? あの方、あんなに頻繁に会いに来ていらっしゃるのに······」
「違わなくはないですけど、違いますわ。おほほ」
「変なお姉様ね」
わたくしはマリオンと共に馬車でとあるレストランに向っております。これから親戚となるのですから親睦を深めましょう、とオルグレン家の御兄妹からお誘いいただいたのです。
オルグレン家が懇意にしているお店ということで、なんと本日は貸し切りです。
王都から少しだけ奥まった高台に建てられた豪華な建物は遠くから見ても素敵ですね。
日が暮れ始めて、街の灯がちらほらと煌めくようになりますと、その素敵な建物の前で馬車が止まります。
「すごいわ! 年代物の建築物でありながら、この外壁の白さは石灰を厚塗りして補強されているのね! 海岸沿いの住宅にも有効なのかしら? 後はどのくらい耐久性があるか······」
レストランの外観を見ながら、ぶつぶつとマリオンが何か呟いています。昔からマリオンは何か気になるものが目に入るとこうなってしまうので気にせず中へ進みます。
「アドラム家のご令嬢方。お待ちしておりました、どうぞご案内いたします」
お店の支配人と思われる出で立ちの方に、お部屋まで誘導していただきました。
通されたのは二階の個室でした。落ち着いた、どちらかというと古めかしいような歴史ある調度品を収めた部屋は、外観と同じく明るい壁紙に変えられて、ただの現代風だけでは醸し出せない洗練さを表していて大変素晴らしい造りです。
町並みを見下ろして、遠くに森が見えるこの窓外の風景も素敵ですが、もう少し暗くなったらここからでも夜景が楽しめますわね。
「マーゴット! マリオン嬢もよく来てくれたね」
ジェレミー様、パトリス様ご兄妹が迎えに来て下さいました。
「ジェレミー様、パトリス様も本日はお招きありがとうございます」
「姉と共にわたくしまでお声がけ下さり、本日はどうもありがとうございます」
「マリオン! 少しお久しぶりね。マーゴット様もようこそ!」
「パトリス様、素敵な場所に呼んでいただき嬉しいですわ」
ジェレミー様もパトリス様も、いつもより一段と華やかな装いで本当に美麗な方々ですわ。
マリオンはご友人のパトリス様とお会い出来て喜んでいるようです。
わたくしも嬉しくなってしまい、ついつい話に花が咲きそうになってしまいました。
「ここでは何なので、中に入ろう」
ジェレミー様が席までエスコートして下さいます。すると、すぐ後ろからチャールズ様と彼の二人のお兄様もいらっしゃいました。
「あら、チャールズ様? ······お義兄様方も?」
うふふ、マリオンが驚いておりますね。
実はこれ、わたくしがジェレミー様方にお願いしたことですの。
今回の婚約者の交代に際して、当人のわたくしとマリオン、チャールズ様はそれぞれ納得をしているのです。もちろんサックウィル家、アドラム家もです。
それなのに、自分達のせいで両家の婚約を潰してそれぞれの人と家の名誉を傷つけてしまった、とジェレミー様とパトリス様いつまでもいつまでも気にされています。
ですので、わたくし考えました!
それならマリオン達と、ついでに二人のことを誤解したままのチャールズ様のお兄様方を一堂に介してしまえば、誤解も気遣いもみんななくなるのでは? とわたくしは思ったわけなのです。
チャールズ様はサックウィル子爵家の三男で、長兄で嫡男のアドルフ様、次兄のバーニー様が上におられます。
御両親ともにご健在ですが、この度のことでご当主のサックウィル子爵は少しお疲れになったので、一段落した今は夫人と共に休息に向かわれたそう。
そのため領地のことは、次期後継者のアドルフ様が陣頭指揮を執っておられるそうですが、バーニー様を補佐に付けて生き生きと復興を進めていると聞きますわ。
わたくしが言うのもおこがましいですが、サックウィル家の次代も安泰でしょうね。
今回の塩害を改善するため、マリオンとチャールズ様が協力をしている内に恋に落ちてしまい、そしてその塩害対策に役立つ石灰がマリオンのご友人パトリス様経由でオルグレン家から融通してもらえることになった、と至極単純なお話なのですが······、皆様難しく考え過ぎなのかもしれません。
いくら事情が事情で気が引けても、すでに二組の婚約は調い、塩で縁は繋がっているのですから!
「あ、あー、マーゴット嬢。久しぶり。この度のことはおめでとうなのか申し訳ないことなのか······」
「この度は我らもオルグレン家に招待いただいて」
チャールズ様のお兄様お二方がご挨拶に来て下さいました。これはチャンスです!
「まあ、アドルフ様、バーニー様。ご無沙汰しております。お二方ともご息災でいらっしゃいましたこと何よりでございます。わたくしも妹マリオンもこの通り元気に過ごしておりますの。
領地のこと、少しずつ復興に向かわれてると聞きまして大変喜ばしいですわ! ね、マリオン?」
「ええ。改良目覚ましく本当にようございました。
またこの度はわたくしがチャールズ様をお慕いしてしまったことで、皆様を余計な醜聞に晒しまして申し訳なく思いますが、いつかお認めいただければと」
わたくしはにこやかに、マリオンは心得ているのか淑やかに、お二人に気持ちを伝えます。
ですが、何でしょう? マリオンが何だか職業婦人のような話し方をしています。
わたくし向けではない話し方は実はこうなのかしら? 非我儘版のマリオンも、いつもと同じで少し早口な気がしますがかっこいいこと!
「このことは私ども兄妹も良くなかったのです。サックウィル殿」
ジェレミー様とパトリス様もいらっしゃいました。兄妹でサックウィル家のお二人に頭を下げようとしています。
「ジェレミー様、そんなことありません! あの苦しい時に石灰岩のことを教えて下さったばかりか、融通までしてくれて。感謝こそすれ謝罪なんて」
チャールズ様が慌てて止めに入ります。チャールズ様のご様子を見てお兄様方も首を振ります。
「そうです。我々はこの度のご配慮、手を差し伸べて下さったことは大変感謝しております。
······マーゴット嬢のお心が安寧でいらっしゃるのなら」
あら、揉めているのはわたくしのせいでしたの?
「アドルフ様、お心遣い誠にありがとう存じます。チャールズ様は近々義弟になります御方。わたくしの可愛い妹と電撃的に恋に落ちて! その様を見ておりますと、わたくしとても嬉しくなりますのよ」
可愛らしくなるのですよねえ、あのマリオンもチャールズ様も。恋ってすごいですわ!
わたくしが力説していますと、ジェレミー様が吹き出しました。
「マーゴット、あなたは本当に妹が大好きなんだね」
「ええ、もちろんですわ。家族っていいものですわよね」
「お姉様!」
マリオンが人前ですのにベッタリして来まして、それから何故かパトリス様まで腕にしがみついて来られました。
あらあら二人とも幼い子のようになりましたね。
ニコニコしていると、ジェレミー様からお声がけがありました。
「さあ、まずはお席へ。おいしい料理を待たせておりますのでね」
◇ ◇ ◇
素晴らしく美味なお食事を楽しんだ後。
お茶やお酒でめいめいが話を弾ませているところに、店の方がジェレミー様に何事か耳打ちをされました。
「皆様、少しよろしいですか?」
手と口にを止めて、皆様ジェレミー様に注目いたします。
これ以上のことはわたくし考えていませんけれど、もしかして大きなケーキでも出てくるのかしら?
「実は、三家を繋ぐ石灰岩有効利用の事業及び研究に最もご尽力いただいた方がお見えになりましたので、皆様にご紹介いたします」
ジェレミー様のご発声で扉が開き、中に入ってこられたのは······
「ニールさん!?」
「そうだよ、マリオンさん。僕、王弟殿下だったの知ってた?」
「えっ! 知識欲お化けの最強司書さんなのでは?」
「あはは、面白いから他の者達には気付くまで内緒にしておこうと言っていたんだけど、マリオンさんは本にしか興味なかったからなあ」
屈託なく笑顔をお見せになるニール王弟殿下。
わたくしたち男爵家は普段ほとんど王城には参りません。それでもデビュタントの時にちらりと拝見した王弟殿下はきらきらしいお姿でしたが······。
今目の前にいらっしゃるニール王弟殿下は、地味なお色味の装いで眼鏡をかけ、御髪もあまり整っておられません。
たしかに王族というより『司書さん』という感じですわ! 不敬かしら?
「······申し訳ございません。ではニール王弟殿下がわたくしの論文を評価して推薦状を下さったのですね。その節はありがとうございます。······ん、あら?」
パトリス様もこの御姿の王弟殿下をご存知なかったようで目を見開いています。
突然のお越しに周りが驚く中、いち早く我に返ったマリオンが、何かに気付いたのか小首を傾げております。
「あれ、もう分かっちゃったかな?」
ニール王弟殿下は御髪を掻き上げて、眼鏡を外して微笑んでいます。
「そう、隣国との共同研究の件は、国主導ではなく君達の方から自発的に動いて欲しかったのだ」
いたずらがうまく行ったというお顔で笑うニール王弟殿下と、少しムッとするマリオン。
きょとんとするわたくし達にジェレミー様か解説して下さいました。
我が国では前々から度重なる塩害対策に有効な隣国の知識を得たかったけれど、我が国から下手に出ると交換条件で足元見られては癪に障るのでやきもきしていた、と。
それなので、石灰岩の可能性について両国の研究者が自発的に交流する形に持って行き、対等な関係を築かせてから国が介入したかったようなのです。
手始めに、マリオンにサックウィル家の報告書を読ませ、隣国の石灰岩活用に目を付けるように誘導し、その流れで大学院で土壌改良を研究している者達と親しくなるように裏で色々動かれたのだとか。
この辺りでニール王弟殿下からジェレミー様にお声がけがあり、オルグレン家としても採掘した石灰岩――石灰石の一部を二国間の研究に役立てて貰うために提供することを求められたのですって。
そこまで進んでから国も介入し、ニール王弟殿下の思惑通り二国間で対等な立場で共同研究を行うことになった、ということだそうです。
マリオンの姉であるわたくしがサックウィル家と縁付く予定であるのは知っていたけれど、婚約者変更だとかは想定外。それはそうですわよね? 誰かに命じられて恋に落ちるなんて難しいですもの。
「まったく騙されましたわ。謝って欲しいくらいです」
「マ、マリオン、王弟殿下に対してそれは······」
チャールズ様が慌てて止めようとしますが、マリオンは意に介しません。
「だって! 『ニールさん』が策略したから、わたくしはまんまとサックウィル家のことを調べて、結果的にチャールズ様のことを好きになりましたけど! あの方きっとわざとチャールズ様と一緒に居る時に親しげに話しかけに来ていらしたんだわ!
チャールズ様を観察するようなことをして、悪趣味ですわ!」
あっ、いつものマリオンに戻ったわ!
そして······不敬なことを言ってしまいましたわね。怒られるかしら?
「ふはは。そうなんだ。我らの可愛いマリオンさんが選んだ相手がどんな人なのか、図書室の皆が気にしていたんだよ? だから代表して私が確かめていたのさ」
「王弟殿下、あの、私は······」
「チャールズ・サックウィル子爵令息、気にしなくていい。
マリオンさんは大学院図書室のアイドルでね、学院の一年生でありながら書くものは面白いし、気になることはどんどん調べて質問して······と、とても可愛らしいのだよ。
院図書室の司書連中や研究者達も彼女のファンになっていってね、皆が妹のように思っていたものだから、『妹』を射止めた男はどんな奴だと騒ぐ者もいたんだよ。······今彼らはこの共同研究に集中してるから、君は認められたのだと思うよ」
「あ、······はい。王弟殿下、お約束します。私はこれからずっと彼女を大切に守ります」
マリオンは顔を赤くして、チャールズ様と見つめ合っています。
その姿を見て、王弟殿下のいきなりの登場におろおろしていたアドルフ様、バーニー様も穏やかな表情に変わっていきました。
なんて素敵なんでしょう!
わたくしが感動にうち震えておりますと、ニール王弟殿下がこちらに向き直りました。
「それからマーゴット嬢、あなたはジェレミーのような執着男に好かれて大変だろうが、いや······うん、とてもお似合いのようだね。良かったよ」
「はい、王弟殿下。わたくし、幸せですの」
「うん?」
「マリオンの我儘に流されると、いつもいいことが起こりますのよ!
初めは何でこれをするのかしらと思うんですが、言う通りにしますでしょ? そうしましたら今回もお互いに良いご縁に巡り合えました。
殿下のお導きもあってサックウィル家も落ち着いてきたようですし、マリオンもチャールズ様も相思相愛! わたくしも早くこの二人のようになれればと思っておりますわ」
「マーゴット! ありがとう、ありがとう······」
「お義姉様は天使だわ······!」
今度はジェレミー様がくっついて来ましたわ。
パトリス様も瞳を潤ませていらっしゃいます。
ようやくお二人にもわたくしの真意が伝わりましたかしら?
「いや、本当にあなた方姉妹はよく似ているのだな」
「······世間様からは義理の関係ではと噂される程ですの。マリオンのような華やかさもないですし、姉妹でも似ていないのだと思っておりましたわ」
「そもそも私が聞いたあなたは、浮気されて婚約者を取られたっていうのに、妹に頼まれて馬鹿正直に妹のために謝罪しに行く姉だとか」
「ニール殿下! 言い方!」
マリオンがまた怒り出しましたが、ニール王弟殿下はまったく気にされません。
「そんなおかしな令嬢方、本当にいるのかなと思ったら実在したね」
「わたくし、おかしいでしょうか?」
「おかしいんじゃない? 自分の悪事を姉に謝らせる妹もおかしいけど、まんまとその通りにしようとする姉も相当おかしいよね? 心をこめてなんて謝れなかったでしょう?
そして一見自分にいいように姉を動かしているようで、結果的に姉が一番いい形に向かうように苦労して裏で糸を引いてる妹もさ」
そう言われるとそうなのかもしれません。マリオンの我儘はいつものこととは言え、何だかおかしいなと気付いていましたが、自身のことは把握出来ていなかったようです。
「似た者同士とまでは言わないけどさ、ベクトルが違うだけで突飛だというところは同じかも」
「そうですか······!」
わたくしとマリオンには似ているところなどないと思っていましたが、似ていたのですね。ほこほこと胸が温まって来て嬉しくなります。
そしてあの時。マリオンに命じられてただ謝ろうとしてしまいました。心がこもっていなくて当然です。わたくしが間違っていたのです。
「あの! わたくし分かりました! これからは自分の言葉で謝りますわ!」
「え、ちょっと待って! 何を謝るの? 悪い事したの?」
ニール王弟殿下が驚いたように声を上げましたが、わたくしは心の求めるままに謝らなくてはと、逸る気持ちでいっぱいでした。
「マリオン、ごめんなさいね。わたくしがぼんやりしているから、いつもマリオンが我儘の振りしてわたくしのために動いてくれていたことに気付かなくて。いつもありがとう」
「え? ええ······」
わたくしはマリオンに頭を下げます。
「チャールズ様、マリオンはちょっぴり我儘なところもありますが、本当に明るくてチャーミングな子なのです。これからも家族としてよろしくお願いいたしますわ」
「ああ、もちろんだ······?」
チャールズ様にも頭を下げます。
「ジェレミー様、子どもの頃は嘘をついてごめんなさい。今日はお詫びと感謝の気持ちを込めてハンカチをたくさん作ってきましたの。
皆様の分もありますから、こちらでお好きなのを選んで下さいな」
ジェレミー様にも頭を下げてから、すっきりした心持ちで用意していた多様な色で刺した刺繍入りハンカチをテーブルに並べました。
今日の記念に準備したものなのです。
どれも好きな色で刺した自信作ですの。うふふ。
あら、何故か皆様呆気に取られたお顔になっていますが、何かおかしかったでしょうか?
いち早く我に返ったニール王弟殿下が、ハンカチに興味を示して下さいました。
「あなた方姉妹はすごいねえ。······おや、この刺繍はどこから図案を取ったの? 素敵な出来だね」
「はい。昔の宗教画を見ていましたら、ある時期の絵に同じようなモチーフがあるのに興味を持ちまして。学院の図書室で古いモチーフ集があり、同じものを見つけましたの。
これは『心からの安寧をあなたに』という名の付いた昔の人の祈りを込めた定番の文様らしいのです。今日の日にちょうど合いますので、この図案を選びましたの」
「やっぱり姉妹似ているね。それを聞いたら誰もあなたを地味だとか魅力のない人だなんて思わないよ」
そうおっしゃって、ニール王弟殿下が一枚手に取ろうとしたところで、ジェレミー様が差し止めました。
「殿下、マーゴットのハンカチを私より先に選ぼうとしないで下さいね!」
◇ ◇ ◇
その日のことはどういう訳だかどこかから伝播したようで、瞬く間に社交界に広がりました。
アドラム男爵家の姉妹は個性的。
姉はとにかく妹愛が強くて、妹に似てると言われると喜ぶらしい。
妹は妹で王弟殿下に認められる程の才女。
同じく姉が大好きで、婚約者変更も双方で望んだことで、今は姉も最愛の婚約者と仲良くやっているらしい。
そして、姉の作る古代文様刺繍は素晴らしく、その出来栄えに王太后陛下も興味を示しているらしい。
などなど、到底わたくし達のこととは思えませんが、良い噂なのでそのままにしておくことにしました。
わたくしがのんびりと刺繍の続きを刺しておりますと、マリオンが部屋に入ってきました。
「お姉様、わたくしのために結婚式用のヴェールに刺繍をして下さらない?」
マリオンがまた可愛らしい我儘を言ってきます。
「もちろんよ! どんな柄がいいの?」
「お姉様にはお任せしますわ!」
今度、また学院の図書室に行ってモチーフ集を借りてきましょう。『花嫁の刺繍図案』というものがあればそれでもいいわね。
「お嬢様方、奥様お茶をしないかとおっしゃっていますよ。いかがですか?」
侍女のアニーがお母様の嬉しいお誘いを伝えに来てくれました。
「はあい、行きますわ! ね、お姉様?」
「ええ、参りましょう。ヴェールのデザインはお母様にも相談してみたら?」
「そうね、そうするわ」
賑やかにヴェールの話をしながら、わたくし達はお母様の待つお部屋へ向かいました。
今日もとてもいい天気ですこと。
お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました 来住野つかさ @kishino_tsukasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます