第5話 訪れ5

「勇者に会いたい?ですか、ですが彼らは300年も前の人間。すでに亡くなっていると思いますが…」

「そうだよ、ただユール様は人間の寿命を理解はしていたが、体感することができなかったのだと思う。彼にとって300年ほどの時間はそこまで長くもない。おそらく少し距離をとっていたくらいの感覚なのだろうと思う。だから、すでに彼らはこの世の人間ではないことを伝えたんだ」


 大きな机の後ろにある、人の倍くらいの大きさの窓の外を見ながら言った。窓からさんさんとした日差しが入ってくる。話の内容とは真逆をいくような晴天だ。今日のような晴れの日は城下の市場は大変な混雑具合だろう。


「では、それと私の婚姻についてはなんのつながりが?」


 エルデは疑問に満ちた表情でいっぱいだ。彼女は大体1回伝えたことはすぐに理解するし、あまり聞き返すようなこともしない。真面目で、剣が強く、正直で、まっすぐな性格のエルデ。それが彼女の評価だ。

 そんな彼女が滅多にないような顔をしている。彼女とダンテとの間に立っていたラグランも同じような顔をして心配している。


「その前に聞いてほしいことがある。君の家であるバナーズ家は相当古い。この領地を私の祖先が治めるとき、その右腕として側にて支えていた頃からと聞いている」

「はい」

「これはバナーズの当主にしか伝わらない話だが、君たちの祖先は勇者にあたる人物なんだよ」

「なっ」


 目を大きく開き、バナーズの当主であるラグランをエルデが勢いよく見ると、彼はふとその目を優しく捉え、深くうなづいたのだった。


「ダンテ様がおっしゃった通り、我々バナーズは勇者の血筋にあたる。ユール様や他の英雄たちが魔王と戦った時、祖先は共に戦いそして共に滅ぼしたと伝わっている。これは当主のみに伝わる機密事項なんだが、今回は緊急事態だ。エルデも知っておく必要がある」

「そう、そうして、時間の経過を改めて感じたユール様が”勇者たちの末裔に会いたい”と願ったのだ」

「それだけであれば、結婚という話は出てこないのでは?」


 当たり前すぎる疑問をエルデは口に出した。別に会いたいだけであれば、ダンテと共にラグランも王宮に行ったのだから、それで問題はないのではないか。勇者の末裔として会い、再び復讐の機会を狙っている魔族と戦う話し合いをすれば良いのでは、と。


「まあね、ただここから問題があってね、当初そう言った話は出てこなかったのだ。だが、ユール様が警告し現れた後、彼は言った。


勇者たちと交流は持ちたいが、再び戦うつもりはない、


とね」

「それはなぜでしょうか」

「まあ、おそらくすでに守るべき魔法族がこの地にはおらず、人間にはそこまで興味がない。そのような状況下で戦うという選択肢は出てこなかったのだろうと私は考えている」


 無責任だと思うかい?とダンテは再びエルデに目線を投げかけた。


「いえ、確かにそのようにも思えます。ですが、協力くらいはしてもらっても…とも思います」

「君はそう思うと思った。それは助けてもらう立場の人間であり、君がとても正義感が強い人間だからだ。ただ、魔法使いが一人他の種族のために戦うというのは、相当な思い入れがないとできないよ」

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エルデと魔法使い 栗本燈火 @mihohoi0322

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