第12話 うさぎとかめ
カメを置き去りにしたウサギ、いよいよゴールの手前で立ち止まっています。
そこへ現れる『
「おや、ゴールしないのですか?」
少年の問いに首を横に振るウサギ。
「それでは、お昼寝でもされませんか?」
少年の言葉に思案しているウサギ。
「ここは、穏やかな風も吹けば、日差しも暖かく、花々の香りに心和むところですから…。」
少年が周りを見渡しながら言葉を続けていると…。
不意にもと来た道を駆け戻り始めるウサギ。
その姿に目を細める少年。
「ご武運を。」
◇ ◇ ◇
さて、ウサギが駆け戻ると、カメはスタート地点から十数メートル進んだ所を、ノコノコと歩いています。
カメの側まで駆け寄るウサギ。
「やあ、ウサギさん。
無事にゴール出来たのかい?」
黙々と歩くカメに問いかけられ、首を横に振るウサギ。
ふと、その視界に黒い雲が迷い込んできます。
慌ててカメを背中に乗せて走り出すウサギ。
そんなウサギの背中から見える風景に感動してしまうカメ。
「ウサギさん、世界はこんなにきれいな世界なんですか?」
カメの視界に見えるのは、青々として何処まででも広がる草原。
所々に、花の
そんな中、ウサギは必死に走ります。
雨音が彼らの背後に迫って来ています。
頭に水滴が落ちて来たことで、雨の到来を知ったカメ。
「ウサギさん、雨に濡れてしまいます。
私を置いて先に進んで下さい。」
そう言って背中を降りようとするカメを乗せながら、横に首を振るウサギ。
しかし、ウサギの足が徐々に遅くなり始めます。
「ウサギさん、早く私を置いて…。」
足が遅くなっても、必死にカメを背負って走ろうとするウサギ。
不意に彼らの周りの雨が上がる。
急激な変化に立ち止まるウサギ、彼らの隣には傘をさした
「ウサギさん、これを使うと良いですよ。」
そう言って、香梅の蕾が三つ付いた杖のような枝を差し出す少年。
有無を言えず、杖を受け取ってしまうウサギ。
「ウサギさん、無理しないで下さい。
私はゆっくり歩いて行けます。」
カメが背中からウサギに語りかけます。
「いいえ、一緒に行きましょう!」
ウサギは笑顔でカメに答えます。
すると、香梅の蕾が一つ花開きます。
黄色い花が開くとき、鈴の鳴るような音がすると、それまで疲れていたウサギに元気がみなぎってきます!
元の速さで雨中を駆け抜け、乾いた道へ戻っていくウサギとカメ。
「お気をつけて。」
少年は笑顔で手を振り、二人を見送るのでした。
◇ ◇ ◇
「ウサギさん、もう大丈夫ですよ。
ここからは歩けますから…。」
カメの言葉に耳を貸さず、黙々とゴールに向かっているウサギ。
疲労は和らぎ、羽のように軽やかな自分の足取りに気を良くしているウサギ。
カメは仕方なく、ウサギの背に身を任せていますが、ふと掠めた影に警戒を始めます。
カメの視線の端っこに微かに映ったのは黒いカラス。
カラスはウサギに向かって襲いかかってきます。
その羽音に気づいたのか、ウサギも蛇行を始めます。
執拗に襲ってくるカラス。
その爪やクチバシがウサギの首や背中に迫ると、カメがその甲羅で弾き返します。
「カメさんっ!」
ウサギは立ち止まろうとします。
「ウサギさん走って下さい。
いざとなったら、私を捨ててでも走って下さい!」
カラスの攻撃をひたすら防ぐカメ。
「これ以上、カメさんが傷つくのは耐えられません!」
そう言って立ち止まり、カラスと正対する覚悟を決めたウサギ。
今まさにカラスが二人を襲おうと滑空してきた瞬間…香梅の蕾がまた一つ花開きます。
黄色い花が開くとき、鈴の鳴るような音がすると、カラスと二人の間につむじ風が吹き荒れます!
カラスは風に飛ばされて…姿を消しました。
「一緒に行きましょう。」
「はい。」
ウサギに促され、カメもウサギの背中に身を任せます。
今度はウサギも走ること無く、カメと一緒に風景を楽しみながらゴールを目指して歩き始めます。
◇ ◇ ◇
さて、ゴールへの直線コースが見えてくるのですが…立ちはだかるのは、毒々しい沼が出来上がっています。
戸惑っているウサギ。
「一緒に行きましょう。」
そう言って、ウサギの背中から降りて来るカメ。
「一緒にゴールを目指しましょう。」
カメが微笑めば
「はい…」
ウサギも笑顔になっています。
そして二人が沼に第一歩を踏み込もうとした刹那…香梅の最期の蕾が花開きます。
黄色い花が開くとき、鈴の鳴るような音がすると、毒々しい沼が土肌に変化します!
びっくりして踏み留まる二人。
その二人を迎え入れるが如く、土肌からは新芽が現れ、瞬く間に成長し芝桜の絨毯が現れます。
絨毯が整った所で、ウサギとカメは頷き合い、お互いの歩幅でゴールへ歩き始めます。
そして、最期のゴールテープの手前でカメを待つウサギ。
カメも頑張って登りきり、二人は一緒にゴールを果たしました。
二人の眼前に広がる新しい世界。
二人は手を取り合って、新しい世界へ一歩を踏み出します。
そんな二人を見送る
そして、二人が歩いてきた道を少年が振り返れば、全てはモノクロの蜃気楼となって消えていくのでした。
doüdyMonogatary たんぜべ なた。 @nabedon2022
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