もしも夢が叶うなら

七四六明

 もしも夢が叶うなら?


 それはあれか。万能の願望器を手に入れたり、十二人の戦士の殺し合いで生き残ったり、猫型ロボットが未来からやってきて不思議なポケットから色々と道具を出してくれたりしたらという話?


 あり得ない。


 万能の願望器に選ばれる事もなければ、殺し合いで生き残れる実力もない。ましてや、未来から耳を齧られた猫型ロボットが来る確率など皆無だろう。


 が、そういう現実味を無視してでの話なら、自分も非現実的願いで応えるべきか。


 自分は、無名作家はそう、支えが欲しい。


 より詳細に言えばパートナー。もっと言うなら、恋人が欲しい。恋がしたい。


 もうアラサーになる自分だが、自分は恋人がいた事がない。そも、恋をした事がない。

 自分は学生時代に異性から集団でいじめに遭い、幼稚園生から中学生までの間、異性に対して恐怖を抱くようになった。

 高校、大学でも恐怖は拭えず、自分は絶えず恐怖と戦いながら毎日を過ごした。


 学生時代を終え、社会人として日々を過ごしていく中でも、自分は薄れゆく恐怖と、思い起こされる恐怖の両者と共存し、戦いながら生きて来た。


 だが今日まで生きて来て、自分は自身の限界を悟った。

 肉体労働と執筆活動、祖父母の世話を両立させる難しさ。

 仕事がある故に家族は頼れず、きょうだいは祖父母に関して無関心。従姉妹、叔母、叔父等親戚も、自分と比べれば世話に参加出来ず、結果、自分ばかりが世話役を務める事になる。


 今までは体力があった。

 気力があった。

 限界を感じられなかった。


 だが休みなき活動の中で、自分は限界を感じてしまった。

 痛む体。癒されぬ心。やせ細っていく心に比例して、ストレスからの暴飲暴食で太る体。


 そうして自分が蝕まれていく中で、ふと思ったのだ。

 様々なマスメディア――アニメ、漫画、小説等で、恋をした人、恋する人は強く在れる。強くなれる。

 恋心を知らない自分はメカニズムこそ理解出来ていないものの、恋する人間が強くなる事は知っていた。

 恋する女性は美しく、恋する男は強くなる。恋した青年は時に、大人をも凌駕する。

 この歳になって、今頃になって、今更になって憧れた。恋をしてみたくなった。


 だけど、出来るだろうか。

 今まで異性を避けて来た。異性に虐められた経験から、異性に恐怖を抱き、生きて来た。

 今更、誰かに恋して、愛して、強くなれるだろうか。自分の中の疑問符は、浮かんでは積るばかりだ。


 恋をした事がある人よ。

 憶えていて欲しい。


 恋とは簡単に出来はしない。

 自分のケースは稀で、特殊で、異常なのかもしれないけれど、誰かに恋する事も、成就させる事も、そう簡単に出来る事ではないんだと、自分は恋をしたいがために言いたい。


 そしていつか、出来るかもしれない自分の恋人よ。どうか疾く、疾く自分に姿を見せておくれ。

 夢の中でもいい。夢でも良いから来て欲しい。その姿を見せて欲しい。

 そしてどうか教えて欲しい。自分が恋する貴女という人は、一体どんな人なのかを。

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