第28話 宿までついて来たサマンサ
適性試験を終え、メンバーカードを発行してもらった俺は『花鳥の集会所』へ戻ってきていた。
「へぇ、なかなかいい宿に泊まってるじゃないの」
「……なんでお前までついて来る?」
ちゃっかりサマンサまで俺と同行していた。高い宿だから、早くも目を輝かせている。
「何よ! あなたとパーティーを組んだのよ、同行するに決まってるでしょ!」
「だからって、なにも宿までついて来ることはないだろ? それよりお前の仲間の場所に戻れよ」
「いいのよ。ローガンはかなりタフなの、しばらく寝かせても大丈夫。それにさっきも言ったけど、優秀な治癒魔法師がいないと全快は難しいって……」
「あぁ、もうわかった。それじゃセリナを呼んで来るから、待ってろ」
「レディーを外で待たせるつもり? それにさ……」
サマンサはきつい口調で言った。そしてかすかに腹の虫が泣くのが聞こえた。
「……わかった。中で何か食べていけ」
「そう来なくっちゃ。新メンバー加入はちゃんと祝わないとね」
誰が新メンバーだ。俺は心の中でののしった。
「おぉ! 森田様、お帰りなさいませ」
「ただいま。ヤドゥークリ草、これで足りるかな?」
「おぉ、これは! やはりあなたは頼りになります。これでセリナ様、そしてサリア様もお喜びになられるでしょう……」
「森田様って、何?」
そうか。サマンサには俺の苗字のことを言っていなかった。
「俺の苗字さ」
「みょ、苗字……?」
「家名みたいなものさ」
「家名!? あなた貴族の出身だったの?」
「まぁ、そう思ってもらって構わん」
「おや、そちらの方は?」
ビッグスがサマンサの顔を見た。サマンサは深々と頭を下げお辞儀した。
「初めまして。この度こちらのゴーイチさんとパーティーを組ませてもらうことになりました、サマンサと申します。以後お見知りおきを」
「おぉ! まさか森田様がパーティーを組まれるとは。一体どういう風の吹き回しでしょうか?」
やっぱりビッグスも驚いているな。無理もない、俺の性格をよく知っているから。
「実は……かくかくしかじかで……」
「メンバーカードをなくされたのですか!? 大事なものですぞ」
「ふふ、この人意外とおっちょこちょいみたい」
「……いちいち横から茶々入れないでくれるか?」
「あら、いいじゃないの。あなたといるのって凄く楽しいわ」
「俺は楽しくないが」
「いえいえ、私にとっても嬉しく思います。なんだかんだで、お似合いでございますよ」
「おい、ビッグスまで! ふざけるのもいい加減に……」
「ゴーイチ、帰って来たの!?」
廊下の奥から女性の声が聞こえてきた。奥から出てきたのは、長女のフィオナだ。エプロンを着ていて、何やら懐かしい香りまで漂ってきた。
「あぁ、ただいまフィオナ」
「お帰りなさい! 今ちょうど料理が出来たところよ、お腹空いてるでしょ!?」
「そうだな、じゃあ有難くいただこう。それよりセリナはどこにいるんだ?」
「セリナ様は先ほど出ていかれましたよ。なんでもお姉さまお気に入りの香水が足りなくなったとかで……」
そういえば思い出した。サリアは大の香水好きだったな。
この町の東の一角にある香水屋に、サリアお気に入りの香水が売ってあったから、そこに行ったんだろう。
「じゃあ、すぐに戻ってくるな。それまでは待つか」
「うぅ……なにこのうまそうな匂い?」
後ろからサマンサの声が聞こえた。そういえば俺達以外で、この料理の臭いを嗅いだ奴はいなかったな。
「これはカレーの匂いさ」
「か、カレー!? なにそれ? 料理なの?」
「俺の国に伝わる郷土料理のようなものさ。うまいぞ。なぁ、ビッグス?」
「え? 郷土料理……ですか?」
俺はビッグスの耳元に口を当てた。
「……俺はこの世界の人間、異国から来た。彼女にはそう説明してある」
「あ! そうでしたな、大事なことでした」
ビッグスも納得してくれた。俺は地球という異世界から来た、このことだけはさすがにサマンサに言えない。言っても信じてもらえないだろうが。
「うぅ……もう我慢できない……」
「おい、まさか……」
「あら、あなたはもしかして新しいお仲間さん?」
「彼とパーティーを組むことになったの。それよりさ、お願いがあるんだけど……」
史上最強のメジャーリーガーは現役引退後の第2の人生を異世界でひっそりと楽しみたい 葵彗星 @hideo100
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