第27話 Sランク魔物撃破で合格!

 エンリケに言われて、俺達も執務室を出た。そのまま次の試験が行われる広い部屋へ移った。

 直方体の広い空間で、中央の床には白い線で囲まれた長方形の枠がある。ここは決闘場だ。


 ここは決闘場だ。縦横二十メートルくらいあって、天井も十メートルくらいの高さはある。

 そして広間の奥の壁は鉄格子がはめられている。中は暗くて見えない。だが何が入っているかは想像がついた。


「ここで次の試験を行う。見て分かる通り、あそこの檻の中にいる魔物と模擬戦闘を行ってもらうんだ」


「魔物と言っても本物ではないのでご安心ください。特殊な魔法で生成された疑似魔物です」


 ファティマが淡々と説明してくれた。二十年前にも同じ説明は受けたから、何も感動することはない。


「因みに君の適性試験は、ここの魔物との模擬戦闘で終了だ。保証人がいるからな」


「それはありがとう。で、何と戦うんだ?」


「……ファティマ、アレを」


「はい。でも……本当にいいんですか?」


 ファティマが凄く神妙な顔つきになった。


「いいんだ。何かあったら、俺が責任を取るから」


「ちょっと、マスター……」


 サマンサまで不安がった。一体何をそんなに怖がっている。


「どうしたんだ? 早くどいつと戦うか、話してくれよ」


「ゴーイチ、さっきの魔力測定の結果だが、君の場合魔力無という結果で問題ないな」


「あぁ、それは大丈夫だ。だって何色にも光ってないからな」


「よし、本人の言質はとれた。ファティマ」


「わかりました」


 ファティマが満を持したかのように、鉄格子がある壁まで走って行った。そして鉄格子の鍵を開け、中に入る。


「言っておくが、これから戦う相手はまだ誰も倒したことはない強敵だ。心の準備はいいな?」


「へぇ、そんな奴が相手とはね。これはただの試験じゃないのか」


「もちろんそうだ。だが魔力ゼロということになると、話が変わってくる」


「何がどう変わるんだ?」


 ガタン!


 地面が大きく揺れ、何かがぶつかるような音が聞こえた。嫌でも凄い気配を感じた。


「この気は?」


「ちょっと……何あれ!?」


「出てきたな。Sランク魔物のフレイムザウルスだ」


 ドシン、ドシン、ドシンと床を大きく揺らしながら、鉄格子の前まで歩いて来た。


「ぎぎゃあああああああああ!!」


 鉄格子は魔物の巨体の衝突に呆気なく吹き飛ばされた。俺達の目の前に、高さ十メートルは下らない、巨大な竜の化け物が現れる。

 竜というか、こいつはどっちかというと恐竜だな。恐竜の中でも、もっとも有名なティラノサウルスに見た目は近い。


「嘘でしょ!? Sランク魔物でも超やばい奴じゃない!? マスター、あなた正気なの!?」


「安心しろ。さっきも言ったがこいつは疑似魔物でな。死にはしないし、そこまで強くはないはず……」


「そういう問題じゃなくて、これは適性試験でしょうが! あんな強敵出さなくても」


「サマンサ、普通の魔物じゃ駄目だ。魔力ゼロでも冒険者の資格として認められるためには、こいつを倒さないといけない」


「そ、そんな……どういう理屈よ?」


「要するに、魔力がないから俺はハンデを背負っているという解釈でいいんだな?」


「そう思ってもらって構わん」


「……ゴーイチ」


「おいおい、彼の強さを疑うのか? お前が一番よく知ってるんだろ?」


 サマンサは少し不安そうな目で俺を見た。


「大丈夫だ。あっさり倒してやるよ」


「ごわああああああああ!!」


「マスター、これ以上は抑えられません!」


「ファティマ、そうかすまん! ゴーイチ、準備はいいな!?」


「あぁ、いつでもいいさ!」


 恐らく何らかの仕掛けであの魔物の動きを封じていたんだろうが、血走ったフレイムザウルスは今にも暴れ出しそうな雰囲気だ。

 やはり相手が相手なだけにファティマも辛そうだな。これは速攻で倒す必要がある。


「来るわ!」


 サマンサが大声で呼びかけた。フレイムザウルスの口が大きく開いて、何やら大きな赤い球体が形成された。


「火炎玉!?」


 巨大な火の玉が口から発射され俺に向かってきた。


「ゴーイチ、避けて!」


 サマンサはいちいちうるさいな。俺のことを心配してくれているんだろうが、全くお節介もいいところだ。

 今になって思い出したが、俺はこいつと二十年前にも戦ったことがある。あれは確か火山地帯だったが、偶然こいつを起こして戦うことになったっけ。


 あの時の俺からしたら強敵だった。倒せたけど、かなり苦戦した。でももうあの時の俺と歯違う。


「ど真ん中だぜ!」


 持っていた銅製の棒に力を込め、向かってきた火炎玉を棒の芯にぶつけた。火炎玉はそのまま向きを180度変え、一直線にフレイムザウルスの胴体へ飛んで行った。


 バァアアアアアアアン!!


 大爆発が起きた。我ながら凄まじい破壊力だ。弾き返された火炎玉が直撃したフレイムザウルスは跡形もなくなっていた。


「またピッチャーライナーか」


「こ、これは……!?」


「おい、倒したぞ。これでいいんだな?」


 振り返るとエンリケとサマンサは口を開けたまま固まっていた。ファティマに至っては腰をぬかしている。このリアクション、何度見たらいいんだろうか。


「……嘘でしょ、あのフレイムザウルスが一撃で!?」


「いや、あの鎧の魔物よりかは弱いぞ」


「そ、そうなの……」


「信じられない。魔力無なのに、この力は……」


「……驚いたな。今の今まで、奴の火炎玉を弾き返して倒すだなんて芸当をした奴は、見たこともない」


「なぁ、これでいいんだろ? 試験は……」


 エンリケが俺に詰め寄って肩を叩いた。


「正直、こいつについては一撃でもダメージを与えられれば、それで合格にするつもりだったのさ」


「そうですよ。まさか倒すだなんて……」


「それを早く言ってくれよ。もしかしてまずかったのか?」


「安心しろ。もちろん合格だよ」


「おい! なんだ今の音は!?」


 変な男達の大声が響き渡った。振り向いたら、俺達が入ってきたドアを開けて数名の男達がなだれ込んできた。


「マスター! さっき爆発音が聞こえたんですけど、一体何が起きたんです!?」


「お、おい! あれを見ろ!」


 男達が広間の中央の床を指差した。そこにはさっきまで立っていたフレイムザウルスの肉片が散らばっていた。


「ありゃあ、一体何なんですか!?」


「……気づかれたか。まいったな」


「あの爆発じゃ気づかない方がおかしいわよ。諦めなさい」


 サマンサが冷ややかな目を向けながら言った。メンバーカードの発行はできたが、俺は早くもギルドで注目の的となった。

 二度目の異世界生活、目立たないように暮らすのがこんなに難しいなんてな。

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