第26話 魔力がゼロ!?

 すっかりその気になっているな。これから誰かとパーティーを組んで冒険者稼業をしないといけないと思うと、想像するだけで疲れがたまる。

 でも俺に打開策がないわけじゃない。サリア、そしてセリナ、彼女達エルフの魔法の力を借りれば、この問題を解決できる。


「どうしたのよ? 考え事?」


「いや、なんでもない。それより今から適性試験だろ? 案内してくれ」


「では、こちらへどうぞ」


 ファティマとエンリケが案内する部屋へ俺達は入って行った。中はソファもある簡素な作りの執務室のような構造だ。


「こんな狭い場所で適性試験を?」


「勘違いするな。最初は魔力測定だよ」


「魔力測定……」


「準備できました。ゴーイチさん、このオーブに両手を翳してください」


 懐かしいオーブが机の上に置かれていた。確かに二十年前も、俺は魔力測定を行ったんだっけ。


「一応説明するが、このオーブに出現した色によってその人間の魔力が測定される。紫が最大の魔力、これがSランク以上といったところか。次が赤色で……」


 エンリケが親切にオーブの色と魔力の強さを説明してくれた。でも、どの色も俺には関係ないんだ。


「ふふ、あなたのことだから。きっと紫色に輝くわ」


「そうなると、お前の立場がなくなるぞ」


「いいのよ。あなただけは特別」


 サマンサが期待の笑みを浮かべながら話しかける。俺も最初に受けた時は一瞬だけそれを期待したっけ。

 でもそうはならない。二十年前の時の記憶が蘇る。俺の魔力測定の結果は極めて異常だった。


「……どうした? 早くオーブに」


「あぁ、わかってる」


 俺はオーブに両手を翳した。オーブは一瞬だけ強い光を放った。


「こ、これは!?」


「え? あれ……光が?」


 一瞬だけ光ったオーブは、すぐに元も無色透明なオーブに戻った。


「どうなってるの? 変わってないじゃない」


「これは……おかしいですね」


「何がおかしいんだ?」


「いや、どれだけ魔力が弱かろうと、色は変化するはずだ」


 因みに最弱が薄い黄色、Eランクらしい。この世界の人間の魔力の強さは千差万別だが、どれだけ魔力が低い人間でも薄い黄色は呈するという。


「もう一度やってみてくれ」


「あぁ、わかった」


 何度やっても同じなんだ。やはりさっきと変わらない、一瞬だけ光ったと思ったらまた無色透明に戻った。


「……おい、ファティマ!」


「いえ、不具合ではありません。昨日も正常に反応していましたよ」


「なら、この測定結果はどう説明がつく?」


「そんなこと言われましても……」


 思わずサマンサの顔を見た。目を見開いて俺の顔を見ていた。


「信じられないわ。じゃあ、あなたの魔力は……?」


「どうやら、俺の魔力は全くのゼロ、“無”らしい」


「無……!?」


 ゼロ、という表現はこの異世界の人間にはなじまないから、あえて“無”と表現してみた。


「いや、ゴーイチ。そんなことはない、魔力が低い人間はたくさんいるが、いくらなんでも無ということは……」


「でもそうじゃないと、何色にも光らないという結果は説明がつかないだろ?」


 俺は冷静に話してみた。ファティマもエンリケも何も反論できない。

 魔力ゼロ、やっぱり二十年前と同じ結果だ。だけどあとからレオナから聞いた話じゃ、俺の場合はこうなるらしい。


「これで魔力測定は終わったから、次の試験に移らせてくれよ」


「……残念だが、それは難しいかも」


「は? 何言い出すんだよ!?」


「こんな事例は、私がギルドマスターになってから初めてなんだ。魔力測定をしても、何色にも光らないなんてな」


「それじゃ……まさか不合格?」


「少なくとも、魔力が何らかの形で測定されない以上、通すわけには」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 サマンサが大声を出してきた。


「いくらなんでも、それはあんまりでしょ!? 私は見たのよ。彼が鎧の魔物とキングオークをいとも簡単に倒したのを」


「……第三者の発言だけでは不十分だ」


「そんな……じゃあ本当に!?」


「わかった。それじゃあ、こうしよう!」


 エンリケが右手を上げた。ファティマに歩み寄り、何やら耳元で囁く。ファティマは目を見開いてしばらく動揺したかと思うと、そのまま執務室を出ていった。何を話したんだ。


「本来なら、これは異例中の異例だが、君の場合仕方ないな」


「何を考えてる? 試験は続けるのか?」


「試験は続行だ。安心したまえ……」


 一先ず安堵した。なんだかんだで話がわかるやつで助かった。


「ただし……試験の内容を少し変える」


「内容を変える? どういうことだ?」


「マスター。アレの準備、大丈夫です」


 さっき執務室を出たファティマが戻ってきていた。アレの準備ってなんのことだ。


「あぁ、なんか……嫌な予感がするわ」


「サマンサ、お前何か知ってるのか?」


「……私も知らない。でも、かなりヤバい感じ」


「お前は勘が鋭いな。二人ともついて来い」

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