第25話 サマンサが保証人に!?
エンリケが入口の右手にあるドアを指差した。俺はトイレに駆け込み、すぐに彼女に呼びかけた。
「おい、レオナ。聞こえてるんだろ、出てこいよ?」
「聞こえてるわよ。それより、あなたの方から呼びかけるだなんて珍しいわね」
「ちょっと、面倒なことになってな」
予想通りレオナが個室の中から姿を現した。いつの間にここに入り込んだのかはわからない。
だけどそんなことはどうでもいい。俺は二十年前の記憶を思い起こして、レオナに聞いてみた。
「……メンバーカード? なんのことかしら?」
「とぼけるなよ。二十年前に渡しただろ? この世界に戻ってくるから、その時までカードを大事に持ってくれって……」
「あぁ、そういえば……そんなこと言ってたわね」
女神のくせに大事なことは覚えてないんだな。だけど俺は本当に覚えている。
「わざわざ新規発行とかしたくないんだ。だから俺に返してくれ」
女神に手を差し出した。でも視線を逸らしながら、申し訳なさそうな顔をしている。嫌な予感がした。
「……おい、まさか」
「だってぇ、まさかルールが改定されるだなんて、思わなかったからさ」
「ふざけるなよ! 女神ともあろう者が、大事な物なくすだなんて」
なんで肝心な時に役に立たないんだ、この女は。
「また新規発行してもらえればいいだけじゃない。あなたなら簡単に合格できるわ」
「時間がかかるんだ。これ以上、セリナ達に迷惑かけたくない」
「でも私だってメンバーカードを偽装なんてできないわ。いや、できなくないけど、それって立派な不正だから」
一応女神らしいことは言ってくれたが、何も嬉しくない。どうせこの世界に干渉しすぎるのはよくないとか、言い出すんだろう。
「……わかった。新規発行してもらうよ」
「ごめんなさいね。今度いいお店、紹介してあげるから」
俺はトイレを出て、またカウンターに向かった。エンリケとファティマに新規発行するよう依頼した。
「わかった。それじゃ適性試験の部屋まで案内しよう、こっちに来てくれ」
まさか紛失したことが事実になってしまうとは思わなかった。いや、そもそも俺がメンバーカードの存在を忘れていたことも原因だ。
「ちょっと待ってください!」
ここで女性の声が突然聞こえた。振り返ると、なんとサマンサが目の前まで来ていた。
「まだいたのか? 今度は何だよ」
「マスター、さっきの話聞かせてもらいました。ゴーイチさんがメンバーカードを紛失されたようで」
この女、盗み聞きしていたのか。いや、魔道士だから聴覚強化のスキル系を使ったのかもしれないな。
「その通りだ。これからこの男には適性試験を受けてもらおうと思ってな。またパーティー加入の申請の話か?」
「いえ、違います。そうじゃなくて、保証人になりたいんです」
「……保証人!?」
聞きなれない言葉が出てきた。と思ったら、サマンサは横目で俺を見て、ウインクした。この女、何を企んでいるんだ。
「保証人か。そうか、そうだったな。ゴーイチ、彼女で問題ないかな?」
「ちょっと待ってくれ! 保証人って言うのは何だ?」
「なんだと? まさか……保証人の制度も知らないとは」
「せ、制度……だと!?」
「ゴーイチさん。メンバーカードを新規発行してもらうには、ギルドで適性試験を受けて、合格しないといけないんです」
「そんなことは知っている。それと保証人っていうのは、どういう関係があるんだ?」
「適性試験を受ける。言葉だけ聞くとすぐに終わりそうだけど、ことはそう簡単にはいかないんだ」
「どういうことだ?」
「あなた、最初にギルドでメンバーカードを発行してもらった時のこと、覚えてる?」
サマンサが俺に聞いて来た。俺にとっては二十年も前になるが、確かにこのギルドで適性試験を受けたんだっけ。
だんだんその時の記憶が蘇る。そして俺も大事なことに気付いた。
「まず魔力測定をして、簡単な筆記試験を受ける。次に実力試験として、数体の魔物と模擬戦闘をして、それから……」
「最終試験として、この町の北東にある地下の古代遺跡から試練の証を入手して帰ってくる課題が課せられる。それで適性検査終了だ」
「おい、ちょっと待て。それじゃあ……」
「そうよ。一日がかりでやるの。長いでしょ」
「ふざけるな! 俺はさっさとメンバーカードが欲しいんだ」
「気持ちはわかるが、それもギルドのルールなんでね。悪いが従ってもらうしかない」
「ふふ、だからここで私の出番になるのよ。私があなたの保証人になれば問題ないわ」
「どういうことだ? 保証人になると何が変わるんだよ?」
「ゴーイチさん、保証人制度は便利なもので、これを利用すれば長い適性試験も、たった三十分ほどで終了するんです」
「そして保証人になれるのは、メンバーカードを持っているほかの冒険者だけ」
ファティマの説明を聞いて、俺はやっと納得した。思えば二十年前、俺は異世界に来て仲間もおらず一人だけの状態だった。
当時の俺はまだ子供だ。あまりよく理解もできずに、馬鹿正直に長い適性試験を受けたんだっけ。何の疑問も抱くことなく。
「もちろん、タダでとは言わないわ。私とパーティーを組んでくれるのが条件よ」
サマンサが耳元で囁いた。やはりそう来たか。ノーと言えば、一日という長い適性試験をだらだら受けないといけない羽目になる。俺にとっては合格するのは簡単だけど、さすがに省略だけはできない。
サマンサは勝ち誇ったような顔をしている。えもいえぬ悔しさを感じてしまった。
「わかったよ。仕方ないな」
「本当に!? 嘘じゃないわよね? 絶対よね!?」
「本当だ。パーティーを組んでやるから、俺の保証人になれ」
「もちろんよ! よぉーし、交渉成立ね!」
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