第24話 メンバーカードの再発行が無理!?

 ファティマがカウンターに戻って、何やら百科事典並みに分厚いケースを持って来た。ケースを開けると、そこにはまた分厚い冊子があり、ファティマはその冊子をパラパラめくった。


「この冊子は、世界中で登録されている全冒険者のデータが載っていてな。お前の登録データもここに載っているはずだ。その情報をもとに再発行してもらう」


 世界中の冒険者のデータが掲載されているのか。やはりこの世界のギルドには、巨大なネットワーク網があるようだ。


「お名前はゴーイチさんですよね? えぇと……」


「あぁ、ちょっと待て! ゴーイチじゃない!」


「え? 違うんですか!?」


 またも重要なことを思い出した。確かに俺はここのギルドでメンバーカードを作ってもらったことがある。もちろん十年前に。

 でもその時は確か別に考えた名前で登録したんだ。


「……レイ・ブルースだ」


「レイ……ブルース?」


「レイ・ブルースだと? それじゃゴーイチって名前は何だ?」


「いやぁ、なんというかニックネームかな……はは」


「……まぁいい。よくわからんが、レイ・ブルースなのは間違いないんだな」


 俺は黙って頷いた。そしてファティマはまた冊子をぱらぱらとめくり直した。

 レイ・ブルース、この名前は俺が十歳の頃に考えた偽名だ。といっても、由来は元メジャーリーガーから来ている。昔大活躍した二刀流のメジャーリーガーからとった。


「あ、ありました!」


「本当か?」


「はい! ここにちゃんとその名前が……」


 ファティマが発見してくれた。これでなんとか再発行できるから一安心だ。

 だけどすぐに二人とも顔色が曇った。嫌な予感がする。


「……えぇと、レイと呼んだらいいのかな? もう一度フルネームを聞いていいか?」


「レイ・ブルースだ。ちゃんとあっただろ?」


「あぁ、あったのは間違いない。表記も合っているようだ。しかし……!」


 エンリケが名前が表示されたページを俺に見せる。一目見て、あまりに情報量が少なすぎて驚いた。


「どうなってんだ!? 名前と表記だけで……それ以外の情報がないじゃないか!」


「こっちが聞きたいくらいだ。なくしたと言ったが、それはいつなんだ?」


「いつって……確かもう十年くらい経つかな」


 十年前の記憶を思い返す。地球に戻る際に異世界の物品は持ち帰れないから、俺は仕方なくレオナに預けたんだっけ。

 確かレオナは言っていた。十年経って戻ってきても、メンバーカードは再発行できるから安心してと。


「十年……それは本当か? その間何をしていたんだ?」


「いろいろあったのさ。はは……」


 笑ってごまかすしかない。間違っても地球にいたなんて、言えるわけないもんな。


「わかった。十年前というのは確かなんだな?」


「あぁ、間違いない。だいたいそれくらいだな」


「…………それじゃ再発行は無理だな」


「え? どういうことだよ?」


 エンリケがかぶりを振った。ファティマもエンリケの意見に頷いている。


「そんなはずはない! 十年くらい経っても、再発行はできるはずだろ」


「以前まではな。だけど、五年ほど前にルールが改定されてね」


「か、改定……だと?」


「新しいルールで、再発行は紛失してから、五年以内に申請しないといけないルールに変わりました。これを見てください」


 ファティマが何やら文章がずらずら書かれた一枚の厚紙を手渡した。一番上に『冒険者の心得~ギルドガイドブック~』と書かれている。

 中央付近にある文章にファティマが指差しが。確かに「紛失してから五年以内に申請しないと再発行不可」とあった。


「改定した部分も遡って適用される。君のメンバーカードも例外じゃない。これでわかっただろ?」


「……わかったよ。それじゃどうすればいい?」


 ここで変に揉めても面倒になるだけだ。目立ちすぎるのも良くないし、素直に従おう。


「再発行が無理なら、新規発行となりますね」


「再発行よりかは時間もかかる。あとは……適性試験も必要だ」


「て、適性試験だと?」


「おいおい、ギルドに登録するなら、冒険者としての素質があるかを見極める試験があるのは常識じゃないか」


「あぁ、そうだったな……」


 エンリケの言う通りだ。十年前も俺はこのギルドで登録してメンバーカードをもらったけど、その際に適性試験を受けたんだっけ。

 適性検査とは言ってみれば簡単な対人戦をすることになる。まさか大人になっても受けることになるなんて。


 さすがにそれは時間がかかる。こうなったら仕方ない。


「ちょっと、トイレに行きたくなったんだが」


「トイレか。あそこにある、早く行ってこい」

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