第23話 執念深いサマンサ

 サマンサは俺が渡したヤドゥークリ草をつき付けた。


「それとこれとは関係ないだろ!」


「関係あるわ。そもそも、ギルドの依頼で手に入れた報酬というのは、本来他人あるいはほかのパーティーに渡すなんて、ご法度なんだから!」


「そんな決まり知るかよ。少なくとも俺には関係ない」


「関係ないだなんて言わせないわ。それがこの世界のギルドの、いや冒険者の掟なのよ!」


 冒険者の掟とか何だよ。変な屁理屈をこねて説教されるのとか、一番勘弁してほしい。


「あなたは私にヤドゥークリ草を渡してくれた。これはすなわち、私達とあなたがパーティーだから可能なことなのよ」


「あぁ、全く! そんな屁理屈が通ると思うかよ!」


「おいおい、どうした。さっきから何揉めてる?」


 あまりに大声を出してしまって、ついにエンリケが戻って来た。


「マスター、いいところに来てくれたわ。私、今日からこのゴーイチさんとパーティーを組むことにしたの」


「ほう、それはそれは。強力な新メンバーなことだ」


「おい! 勝手に話を進めるな!」


「あなたは黙ってて! マスター、ということで彼を私達のパーティーへ加入するための申請を、正式に行いたいと思いまして……」


「ふむ、それはいいが……肝心の本人の意向は?」


「もちろんお断りだ」


 俺の答えは変わらない。だがサマンサは待ってましたと言わんばかりに、持っていたヤドゥークリ草を高く掲げた。


「このヤドゥークリ草、彼からもらったんですよ!」


「なに? それは本当かね?」


 サマンサの奴、ギルドマスターという権威のある第三者にその証拠を見せびらかすつもりか。まずいな。


「いや、その草は……俺のじゃない」


「はぁ? 今さら何とぼけるつもり? さっき君に与えるって言ってたじゃない!」


「……俺はそんなこと一言も」


「あぁ、わかった。もういい! ゴーイチと言ったか、君はサマンサとパーティーを組むつもりがないんだな?」


 エンリケが話の分かるやつみたいで助かった。俺は即座に頷いた。


「だそうだ、サマンサ。残念だが……パーティー加入の申請は本人の同意がないと……」


 サマンサは項垂れた。今度こそあきらめたかな。


「……このヤドゥークリ草は、本当に彼からもらったんです。信じてください」


「お前、まだそんなことを……」


「それに彼は、二度も私達を助けてくれました。一度目は昨日のキングオーク、二度目はさっき鍾乳洞で……」


「いい加減にしろ! ただ助けてやっただけじゃないか」


「サマンサ、気持ちはわかるが……本人の意向が優先だ。諦めろ」


 エンリケが諭して、遂にサマンサはそれ以上反論しなくなった。なんとかおさまったか。

 だけどこの女のことだ。もしかしたら、まだ俺に付きまとうかもしれない。油断はできないな。


「マスター、ちょっといいですか?」


 受付嬢のファティマがエンリケの後ろから声を掛けてきた。どうやら鑑定が終わったようだ。

 と思っていたら、なんとエンリケとコソコソ話を始めた。そして俺の方をじろじろ見ている。なにか悪いことでもしたか。


「……ゴーイチ、ちょっといいかな?」


「もうヤドゥークリ草の鑑定は終わったのか? それでいくらくらいになる?」


「いや、鑑定じゃなくてな……その前にまだ確認すべきことがあった」


「確認すべきこと? 一体何が言いたい?」


 エンリケは咳払いをした。


「ギルドのメンバーカードをまだ見せてもらっていない。出してもらおうか」


「……メンバーカード?」


「おいおい。君も冒険者なら、ギルドのメンバーカードは持っているだろ?」


「あなたがどこの出身かは知りませんが、どこの国のギルドでもメンバーカードは発行されるはずですよ」


 そうだった、完全に忘れていた。ギルドで依頼を達成した際には、受付でメンバーカードを見せないといけない決まりがあった。


「どうした? まさか持ってないとか言うんじゃないだろうな?」


 もちろん今の俺は持っていない。いや、正確には持っていたというべきか。

 俺が黙り込んでいると、エンリケとファティマも次第に不審の目をのぞかせるようになった。まずいぞこれは。


「あぁ、その……なんというか、なくしてしまってね。だいぶ前に」


「なくしただと!? そんな大事なこと、なぜもっと早く言わなかった?」


 忘れていたというのが正直な理由になる。だけどこれだと言い訳としては苦しいかな。俺はあくまで、この世界の人間として振舞わないといけないから。


「まぁいい。なくしたというなら再発行が必要になる。おい、ファティマ」


「はい、少しお待ちください」

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