第22話 ギルドマスター登場

 まずい。完全に注目の的になってしまった。俺は思わずサマンサを睨んだ。


「言っておくけど、あなたの噂は朝から広まってたのよ」


 サマンサは小声で俺に囁いた。


「朝から? まさかお前達が……」


「違うわよ。キングオークの死体が森で発見されて、誰が倒したんだってもっぱらの噂だったわ。この界隈じゃ、あんな強敵倒せる戦士なんてそうそういないから」


 サマンサが言うには、森で変な格好をした人間が石を投げて、岩壁を破壊したのを誰かが見たらしい。完全に俺のことだ。

 しまった。昨日は久しぶりにこの世界に来て、完全に気持ちが浮かれていたんだ。誰かが見ていても不思議じゃないが、そんなこと気にもとめなかったな。


 それよりこの騒ぎをなんとかしないと。目立ちすぎるのはよくない。俺は二度目の異世界は静かにひっそりと暮らしたいんだ。二日目で早くも雲行きが怪しくなってきたな。


「静かに! 一体何の騒ぎだ!?」


 ギルド内が一気に静まり返った。気づけば、カウンターの前に一人の屈強な外見をした男が立っていた。

 金髪でツーブロックの髪形、豪華な革製のコートまで羽織っている。ただならぬ風格だ。


「ギルドマスターのエンリケよ」


「おや、君は……?」


「マスター! 聞いてくださいよ。この男が西の鍾乳洞で、例の魔物を退治したって言うんですよ」


「あぁ、鎧の魔物のことか。まさか君が?」


「この男がどや顔で言ってましたぜ」


 どや顔とか言うなよ。するとエンリケは俺の目の前まで近づいた。

 近づいてみたら俺より背が高い。さすがギルドマスターとだけあって、底知れぬ気の持ち主のようだ。俺の顔をじろじろと見出した。


「……君は新人かね? 見ない顔だな」


「新人じゃない。異国から来たんだ。これを鑑定してもらいたいんだが」


 俺は適当に誤魔化した。さすがに異世界から来たとは言えない。もちろんどこの国とも明確には言わない、ぼろを出さないためにも。


「まぁいい。ヤドゥークリ草の採取を達成したんだな。ご苦労だった、さっさとカウンターに持っていけ」


「ありがとう。それよりこのギャラリーを」


「あぁ、そうだな。お前達も他人の功績ばかり気にしてないで、さっさと依頼を受けろ。なくなってしまうぞ」


 エンリケが両手をパンと叩くと、集まっていたギャラリーも散った。なんだかんだでギルドマスターの影響力は凄いな。


「すまなかったな。西の鍾乳洞に出た新種の魔物のことは、俺の耳にも入っている。奴の強さは噂以上らしい」


「それにキングオークの件もね」


「なに? まさかそいつも君が……?」


 俺は黙って頷いた。


「なんということだ。道理でやたら注目されるはずだ。腕は確かなようだな」


「お褒めの言葉ありがとう。それよりこれを……」


「あぁ、すまなかった。おいファティマ!」


「はい! 今行きます!」


 エンリケが女性の名前を叫ぶと、カウンターから一人の女性が来た。ギルドの受付嬢、名前はファティマ。背が高くスタイルがよくて、黒い髪が特徴だ。でもその姿を見て、俺はある女性と被った。


「川田?」


「え? なんでしょうか?」


「あぁ……いや、なんでもない」


「ヤドゥークリ草ですね。ありがとうございます、それでは今から鑑定いたしますね。少々お待ちください」


「どうしたの?」


「ちょっとな……知人に似てたもので」


 つい見とれてしまった。似ているというか、そっくりだ。俺の元マネージャー川田に。違いと言ったら、眼鏡をかけていない点ぐらいか。

 このファティマという女性は二十年前には会っていない。いやこっちの世界では十年前か。


 思えばギルド内のスタッフのメンバー構成もかなり変わっているようだ。俺が知っている受付嬢もいたけど、このファティマという女性は一番若く見える。多分新人かな。


「ねぇ、ちょっと……」


 しばらく見とれていたが、肩を叩かれてハッとした。


「あぁ、サマンサか。どうしたんだ?」


「どうしたんだ、じゃないでしょ。さっきの話の続きよ」


「さっきの話……なんだっけ?」


「だから! あなたとパーティーを組んでほしいって言ったじゃない!」


「……え?」


 俺は思わず聞き返した。


「パーティーを組めって、まさかさっきあいつらに言ったのは」


「私が冗談で言うと思った? 本気なんだから!」


「おい、勘弁してくれよ。なんでお前達とパーティーなんか」


「もう、今更断らせないわ。あなたのその強さ、間違いなく本物よ。あなたとパーティーを組めば、どんな強敵だろうが、どんな難関なダンジョンだろうが踏破できる」


「ふざけないでくれ! 俺はそんなこと、まっぴら御免だ」


「あらそう? 嫌でも拒否するつもりね。じゃあ、このヤドゥークリ草はいらない。あなたに返すわ」

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