第21話 サマンサの無茶ぶり
時刻はちょうど昼過ぎと言ったところか。俺とサマンサは『キースラーの町』のギルドまで戻ってきた。
セリナが今朝用意してくれた服装のおかげで、俺もすっかりこの異世界人に溶け込んでいた。サイズもピッタリだ。
「お前の仲間達はどうしている?」
「宿で静養中よ。ローガンの傷が思ったより深くて、スネイルがつきっきりで看病している……」
「お前がそばにいてやらなくていいのか?」
「私も治癒魔法は使えるけど、専門じゃないの。だから、もっといい治癒魔法使いが欲しくてね」
サマンサが何かを訴えたいような目つきで言ってきた。まさかと思い、俺は聞いてみた。
「セリナのことか?」
「彼女はかなり優れた治癒魔法使いよ。エルフっていうこともあるけど、今彼女の力が欲しい……あぁ、誰に頼めばいいんだろ。困ったわ……」
「……最初からそう言え。あとで頼んでみる」
「本当!? ありがとう、ゴーイチはやっぱり頼りになるわね! あ、でも……」
サマンサがショルダーバッグの中をごそごそと手探った。そして銀貨を数枚ほど取り出した。
「……これで足りる?」
「よせよ。俺じゃなくて、セリナにあげろ」
「そ、そうね……わかったわ。それじゃ頼んだわよ」
サマンサがギルドをあとにしようとしたが、俺は彼女を呼び止めてアレを渡すことにした。
「ちょっと待てよ。ほら、これ」
「これって……ヤドゥークリ草じゃない? これを私に?」
「言っただろ。お前達にも分けてやるって」
鍾乳洞内で、俺は確かにスネイル達にそう言い残した。覚えているが、サマンサはかなり呆気にとられているようだ。
「あなたってお人好しすぎよ。馬鹿正直に守ることないでしょ」
「いいから受け取れって。元はと言えば、あんたらも採取しようとしてたんだろ?」
「それはそうだけど……」
かなりためらっているな。でも彼女の言う通りかもしれない、確かにお人好しすぎだ。
「わかった。そこまで言うなら、いい」
「あぁ、ちょっと待って!」
ヤドゥークリ草をアイテムバッグに入れると、サマンサが手で制した。
「おいおい、なんだよ? 欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだ?」
「悪かったわ。欲しいわよ」
スッキリしない気持ちだが、ヤドゥークリ草を少しだけサマンサに手渡した。
「ありがとう。代わりに、私からのお願いを聞いてくれる?」
「お願いだと?」
「結論から言うと……私と……その…………」
かなり言いづらそうな顔をしている。まさかと思うが、俺は嫌な予感がした。
「おい、アレはヤドゥークリ草じゃないか!」
突然別の男の声が聞こえた。ギルド内にいた冒険者の一人が、俺の持っているヤドゥークリ草を発見した。
「おぉ、本当だ。ヤドゥークリ草だ!」
「まさか……あんた西の鍾乳洞の奥で見つけたのか!?」
「なんだよお前ら。言っておくが、あげないぞ」
気づけば俺は注目の的になっていた。
「なぁ、西の鍾乳洞にずっと鎮座していた変な鎧の魔物がいただろ?」
「あぁ、いたけど、もう俺が倒したから心配ないぞ」
「た、倒しただって!?」
全員が一気に俺に注目しだした。この冒険者達もスネイル達と同様、あの魔物に挑んだのか。
それにしてもこの反応だと、ますます目立ってしまうな。確かに歯ごたえのある魔物だったが、まさかここまで注目されるとは。
「あんたが……まさか一人で倒したって言うのか?」
「嘘だろ!? 俺達の攻撃なんか、まるで通用しなかったんだぜ!?」
「ありゃ新種の魔物だ。あんな化け物今まで見たことないのに、お前さんは一体?」
「いや……俺はその……」
「あのね、この人は私の新しいパートナーなの!」
「ぱ、パートナー!?」
突然サマンサが変なことを言い出した。まずいぞ、なんだかややこしいことになってきた。
「異国の地から来られた人なのよ。私達の常識では考えられない、凄いスキルや能力を持っているわ」
「おい、勝手なことを……」
確かに半分言っていることは正解だけど、ここで俺の素性についてあれこれ詮索されたくない。なんとか切り上げないと。
「悪いが、俺は忙しいんでな。このヤドゥークリ草を持ってカウンターに……」
「確かにこの辺じゃ見ない顔だ。名前は何というんだ?」
「異国って一体どこから来たんだ!? それにあんたの戦闘職は!?」
「剣士というか、斧使いにも見えねぇ。まさかその棒か!?」
「冒険者ランクはAか? それともS?」
「なぁ、サマンサ。もっとこの男について、詳しく教えてくれよ!」
「おい、お前ら……」
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