第20話 消えた鎧

 サマンサが壁を指差した。下手したらここが崩落しかねない、手加減しないとな。


「わかった。衝撃音が凄いから、耳を塞げよ」


 サマンサが両耳を手で塞いだのを確認して、俺は壁目掛けて小石を棒で打った。

 軽い感じで打ったが、それでも凄い衝撃音が響いた。広間全体が揺れ、凄い量の岩石の破片が飛び散る。

 壁にはどでかいクレーターが出来上がった。隣で見ていたサマンサは、思わず腰をぬかしている。


「これが俺のスキル、〈フルスイング〉だ」


「こ、こんな! なんて威力なのよ!?」


「驚くことじゃない。これでもかなり手加減した方さ」


「手加減って……じゃあ全力で打ったらどうなるのよ?」


「生き埋めになるな」


 あっさり言い放ったが、普通なら冗談として受け止めれる言葉だ。でもサマンサは真顔で受け止めている。


「……わかったわ。私のわがままに付き合ってくれてありがとう」


「満足かい? じゃあ戻ろ……」


 その時、俺は強烈な殺気を感じた。思わず周囲を見回す。


「一体どうしたの?」


「……いや、なんでもない」


 すぐに殺気が消えた。でも確かに感じた。これまでに感じたことのない、異様な気配だ。

 嫌な予感がした。すると今度はサマンサが目を見開いた。


「見て! これは……」


 広間の床に散らばっていた鎧の魔物の破片を見下ろすと、何やら黒い煙が発生しだした。

 異様な臭いまで漂って、思わず鼻を塞いだ。


「何が起きてるの?」


「見ろ! 鎧が……」


 跡形もなく消えた。広間の床は、まるで何事もなかったかのように静まり返った。


「……なんだったの? 今のは……」


「まるで痕跡を消したかったかのようだ」


「痕跡を消す? 誰かが仕組んだって言うの?」


「……そうかもな」


 心当たりがあるとしたら、さっき感じた異様な殺気。恐らく関係しているだろうな。かなり遠くから魔法を唱え、鎧の魔物を跡形もなく消した。

 何が目的なのか。そいつらの正体も気になる。だけど今考えても答えはわからない。俺達はそのまま鍾乳洞をあとにすることにした。



「……はぁ、はぁ……急がなくては」


 剛一が入った鍾乳洞の出入り口から、北へ数百メートル進んだ場所にある切り立った深い渓谷がある。

 赤紫色のローブを身にまとった男は、馬に乗ってその渓谷の奥深くまで進み、自分のアジトへ戻った。

 アジトの前まで来て、同じく赤紫色のローブを身にまとった男が数名、入口の前で彼を出迎えた。


「ハドラよ。そんなに慌ててどうしたんだ?」


 ハドラと呼ばれた男は、馬から飛び降り大慌てで入口に駆け寄った。


「至急報告したいことがあります! どうかボラリス様への謁見を許可したい」


「なんだと!? お前ともあろう者が、ボラリス様への直接の謁見を請うというのか?」


 ハドラは膝まづいて頭を下げた。


「無礼な申し出であるとは承知しております! しかし緊急事態なのです、どうかボラリス様との謁見をぜひ!」


「今ボラリス様は休養中だ。悪いが日を改めてもらおう」


「そこをなんとか! 本当に緊急事態なのです!」


「ならばどういった緊急事態なのか、簡単に説明してもらおう」


「……わかりました」


 ハドラは自分が目撃した一部始終を報告した。出迎えた男達は思わず耳を疑った。


「そんな馬鹿な! ありえない、奴は最強の新ガーディアンだ」


「ボラリス様のお墨付きもある。この世界のどの戦士にも、破壊などされるはずがない」


「でも本当に見ました。しかもあり得ないほど粉々に破壊されたのです! 信じてください!」


「嘘ではないようだ」


 聞き覚えのある声が聞こえて男達は振り返った。入口の門の前にいつのまにか、白い法衣を身にまとった男が立っていた。


「ボラリス様! 休養中だったのでは!?」


「あのような事態が起きては、私も居てもたってもいられなくてね」


「まさか……ボラリス様も!?」


 ボラリスは両手に球体のオーブを持って、静かに歩き出した。


「私も全て見させてもらった。どうやら……ことは重大なようだな」


「はい。ですがご安心ください。痕跡は消しました」


「ご苦労だった。奴の破片を持ち帰られたら、厄介だったのでね」 


「ボラリス様、一体何をご覧になったというのですか!?」


「今から私の研究室に全員集めるんだ。そこで全て見てもらおう」


 ボラリスは振り返って部下の男達に指示を出した。部下達はアジトの門を開け中へ入っていった。


 ボラリスはオーブを光らせ、一人の人物を映し出した。


「……森田剛一、戻ってくるとはな。だがあの時とは違う。十年前の借り、返させてもらうぞ」

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