第19話 関心を示す女魔道士

 なんということか。まるで俺の心の動きに呼応するかのように、レオナの声が聞こえた。そしていつの間にか、後ろに立っていた。


「私と剛ちゃんとは一心同体よ。あなたの心の声は聞こえるんだから」


「気持ち悪いことを言うなよ。それより何の用だ?」


「何の用だ、じゃないわ。あなたの願いを叶えに来たのよ」


「願い……だと?」


「セリナにもお花を渡したいんでしょ?」


 レオナも黄色い花を掴みながら言った。


「いや、その花じゃなくてな」


「わかってるわよ。だからさ、地球にあるお花と交換するのよ」


「交換……だって?」


 予想外の言葉が飛び出した。


「私ならいつだって地球と交信したり、行き来できるわ。だからあなたに代わって地球に行って、ヘリクリサムのお花を取ってくるの」


「何を言うかと思ったら、まさか泥棒でもするつもりか?」


「確かにお金は持ってないわ。だからそっくりなお花を持って、それと交換してもらえればいい」


「なるほど。それでその花を使うわけか」


「これだけじゃ足りないから、もう少しだけ採取しておくわ。あなたは早くギルドに行ってきてね」


「わかった。それじゃヘリクリサムの花、期待しているよ」


「せっかくだから、宿の長女さんの分もあったほうがよくない?」


「あぁ、アイシャか。そうだな……じゃあ二本か」


「あと……もう一人……」


「も、もう一人……?」


 レオナは意味深なことを言い出した。あと一人って誰だ。俺の知っている女性と来たら、もうサリアとセリナとアイシャの三人くらいだが。


「あの魔道士さん、可愛いわよね」


 誰のことか、俺はすぐにわかった。


「変なこと言うな! サマンサとはほぼ他人だろ!?」


「ふふ、あなたは気づいていないの? 気配を消して、尾行していたみたいよ」


「なんだと!?」


 俺は咄嗟に後ろを振り向いて、気配探知の範囲と感度を高めた。かすかだが、人の気配を感じた。

 この気配、確かに覚えがある。遥か前方、鍾乳洞の入口付近に女性がいる。サマンサだ。


「史上最強のメジャーリーガーさんの意外な弱点発見!」


「……悪かったな。さっき変な奴と戦ったから、気が削がれていたんだ」


「あら、そう。それよりあの魔道士さん、あなたに気があるみたいよ」


「……勘弁してくれ」


「行ってあげたら? そしてちゃんと護衛してあげないと……」


「あぁ、全く世話がやける」


 気乗りしないが、仕方ない。サマンサは一体俺に何の用だ。いや、それより気になることがあるからそれを聞かないとな。


「さっきの鎧の魔物だが、あいつは何だ?」


「気になる? そうね……今私も調査中よ」


「女神でもわからないことがあるんだな」


「これだけは言えるわ。あんな魔物、十年前にはいなかった」


「じゃあ、やっぱり新種か?」


「それだけなら、別にいいんだけどね……」


「どういう意味だ?」


 レオナは少し考え込んでいる。気になるけど、今はここでのんびりしている暇はない。急いでギルドへ向かわないと。

 俺は鍾乳洞へ戻り出した。そして彼女を見つけた。


「出てこいよ、いるんだろ?」


 木陰に身を潜めていたサマンサに声を掛けた。彼女はあっさり姿を現した。


「さすがね。気配をちゃんと殺したはずなのに」


「あの程度じゃ、見つけてくれと言ってるようなものだぞ?」


「ふぅ、本当にまいったわ。あなたは凄すぎる。さっきの鎧の魔物もそうだけど、あんな倒し方初めて見たわ」


 さっきの戦いも見ていたようだな。この様子じゃ、ますます俺に関心を寄せているのかも。


「あいにくだけど、俺は急いでいるんでな。用があったら、ギルドに戻ってからにしろ」


「わかったわ。じゃあ、私も行く」


「同行なんか必要ないんだが……」


「気にしないで。あなたとは戻る場所がほぼ同じだから」


「そうか。邪魔だけはするなよ」


 サマンサは頷いて、俺のあとをついて来た。戻る途中で案の定、俺にあれこれ質問してきた。


「あなた、一体何者なの? さっきのは……スキル?」


「言っただろう? ただの狩人だ」


「嘘言わないで。さっきの戦い見てたわ、狩人にしては強すぎる。それに……」


 サマンサは地面に落ちていた石を掴んで、それを持っていた杖で弾き飛ばした。


「こんな風に、あなたは石をその棒で弾き飛ばした。そして鎧の魔物を倒した」


「よく見てたな。その通りだよ」


「……狩人にそんな攻撃スキルはないわ」


「俺が独自に生んだスキルさ。その名も〈フルスイング〉、石ころ程度でも棒で弾き飛ばせば、凄まじい速度で飛んで……」


 さっき鎧の魔物と戦った広間まで来て、俺は地面に散らばっていた破片を指差した。


「頑丈な鎧や盾だろうが、木っ端みじんさ」


「…………もう一回やってみせて」


「いいけど、どこに?」

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