7.成果のお披露目

翌朝、朝食を食べ終えて仕事の支度を済ませたデリックをいつものように玄関先でお見送りをする。その時、昨日作った疲労回復ポーションを差し出した。


「これ、疲労回復ポーション。行く前に飲んだほうがいいかなって思って」

「わざわざありがとう。早速飲んでみる」


 デリックはポーションの蓋を開けると一気に飲み干した。疲れが残った表情をしていたけど、だんだんと表情が明るくなっているのが分かる。ポーションが効いたんだ。


「今日一日疲れ知らずで働けそうだ」

「効いて良かったわ。実はねそのポーション、私が作ったの」

「えっ」


 自分が作ったと言ったら、とても驚いた顔をした。ふふふ、してやったり。


「市販のものと同じように効いて安心したわ」

「えっと、君が作ったって」

「詳しい話は帰ってきてからね。いってらっしゃい」

「えっ、ちょっと」


 凄く気になっている様子だけど、仕事に行かないと遅れちゃうよ。背中をグイグイ押して、家を出ていくように促した。


 聞きたそうな顔をしながらも、デリックは家を出ていった。驚かせるの成功したわ、あの顔面白かったなぁ。帰ってきたらいっぱい話をしようっと。



 デリックが帰ってくるまで家事をしたり、再度ポーション作りをして待つ。待っている間、とても楽しい時間だった。私が錬金術でポーションを作ったこと知ったら、なんて考えてくれるんだろうか? それを考えると楽しくなってくる。


 そうやって楽しい時間を過ごしていき、デリックがようやく仕事から帰ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま。それで」

「さぁさぁ、先に食事をいただきましょう」


 詳しい話は後よ、先に夕食を食べてからにしましょう。デリックは何かを言いたそうな顔をしていたけど、諦めたみたいで席についてきてくれた。


 それから用意した夕食を食べて、食器を片づけ終わる。そこでついにポーションのことを話題い出してみた。


「疲労回復ポーションの効き目はどうだった?」

「あぁ、良く効いたみたいで今日一日は元気に仕事をすることができた」

「良かった。あのポーションは私が初めて作ったポーションなんだ」


 自分が作ったことを伝えるとデリックは驚いた顔をして口を開く。


「君に錬金術の素質があったのか?」

「素質があるのかどうか分からないけれど、本を見ながら見様見真似で作ったわ。沢山失敗はしたけれど、成功することができたの」

「すごいな……元騎士の君が錬金術でポーションを作るなんて。錬金術は繊細な魔力操作ができなければ難しい職業なんだ」


 確かに繊細な魔力操作が必要な場面がいくつもあった。そっか錬金術って難しい技術だったんだね。知らずにやっていたけれど、出来なくはない感じだった。ということは、私にその素質があるっていうこと?


「でも、どうしてポーションなんて作ろうと思ったんだ?」

「ポーションが高くてビックリしたことが始まりなの。それで自作できれば安上がりで済むかなって思ったんだけどね」

「それを言うなら、本や道具だって安くはないと思う。もし、成功しなかったら逆にお金がかかっていた事態になっていたぞ」

「そ、そうだよね」


 そこを突かれると痛いな。ポーションが成功したからいいものの、もし失敗続きで成功しなかったら買ったものが無駄になっていたかもしれない。そのことを考えるとゾッとする。


 でも、よくよく考えてみればそこは重要じゃなかった。確かに動機はポーションが高かったっていうことだけど、もっと重要な動機がある。


「君はどうして錬金術を使おうと思ったんだ?」


 デリックから改めて言われて、気づいたことがある。ポーションが高かったからお得に自作しよう、っていうのは本当の理由じゃない。


 私がデリックのためにポーションを作ってあげたいと強く思ったのは、違う理由だ。


「私はデリックのために何かをしてあげたかった。この結婚が政略結婚だとしても、情は育てていけると思っていたの。努力をすれば本物の夫婦になれる、そう思った」

「その努力が錬金術?」


 自分に何ができるか考えた時、仕事が大変なデリックの疲労を軽減することを思いついた。家で待つことしかできない自分にできることは、精々錬金薬品を買いに行くことだ。


 確かにそれでデリックの疲労は回復するが、それはやりたいことじゃなかった。もっと、自分の手を使ってその疲労を取ってあげたいと思ったのが動機だ。


 その時に思いついたのが錬金術で薬品を作ること。結果として錬金術を使うことで、デリックのためになれたのは嬉しい出来事だった。


「自分の手で直接何かをしてあげたかったの。それで少しは仲が良くなったりしたら嬉しいし、交流のきっかけになるんじゃないかっていう思いもあった」

「結婚してから一か月経つのに、ろくな交流もしてこなかったからな」

「デリックが忙しいのは分かってる。私もそっとしておいた方がデリックのためになるんじゃないかって、交流は控えめにしてた」

「そうか。お互いに遠慮をしていた、ということか」


 お互いに遠慮? デリックも何かを遠慮していたの? 聞きたそうな顔をして見つめると、デリックは少し困ったように微笑みながら口を開く。


「この結婚があまり歓迎されていない、と思っていた。だから、積極的に交流を持とうと思ったりはしなかった」

「どうして、そんなことを感じたの?」

「君がつまらなそうな顔をしていたから、てっきり歓迎されていないものだと勘違いしていた。もしかしたら、騎士を続けたかったのかも……という考えも浮かんできた」


 確かに、騎士を辞めて手持無沙汰になって暇をしていたな。毎日、忙しく働いていたからこんな穏やかな時間を過ごすのが初めてだったから、何をしていいのか分からなかった。


 その態度がデリックに遠慮をさせていたんだ、そっか私の態度も悪かったんだね。お互いにまともな交流を持たないでいたことが悪かったんだ。


「じゃあさ、デリックも私と仲良くしたいって思ってくれていたってこと?」

「あぁ。そういうマリーは?」

「もちろん、仲良くなりたかった」


 結婚前からろくに交流を持たなかった弊害がこんな事態を起こしていたなんて。そのままにしておいていたら、酷いことになっていたかもしれない。良かった、酷いことになる前に話し合えて。


 二人で顔を見合わせて、困ったように笑った。


「同じだったな」

「同じだね」


 二人とも同じ気持ちだったなんて、案外気の合う仲だったんじゃない? ふふ、なんだか嬉しいな。


「これからは時間がある時は少しずつ交流していこう」

「そうね、遠慮しすぎるのも駄目ね」

「それにしても、マリーが錬金術を使うなんて驚いた。本当に素質があるのかもしれないな」

「そうだったら嬉しい。錬金術の素材採集するのも調合するのも楽しかった。これからもデリックのために何かを作ってあげたいな」

「それは楽しみだ」


 騎士の仕事は性に合っていたけど、錬金術の仕事も性に合っていたみたい。採集は騎士の頃を思い出して楽しかったし、調合は新しいことに挑戦する楽しみみたいなものがあった。


 デリックも私が錬金術をすることには反対じゃないし、このまま続けてもいいんだよね。良かった、家に一人でいてもやることがなくて暇だったんだよね。


 だから、これからはデリックのために錬金術を使って色んなものを作っていこう。次は何を作ろうか、今から楽しみだ。

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家庭円満の秘訣は錬金術です~元騎士の奥様は旦那様のために錬金術を始めました~ 鳥助 @torisuke0829

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