第5話

 皆が皆、なぜか負い目を持っている。

 あたしが何かを言ったの?あなたたちに何かをしてッて、言ったの?

 親切はありがたい、本当はとてもうれしい。

 あたしは、高校にあまり通っていない、いや、最初の方は通っていた、が、結局避けられているということが分かってしまったので、なにかの糸が切れてしまったのだろうか、あたしはそういう事のすべてを放棄した。

 放棄してみたら、あれだけあたしを拒絶していたさえとか、先生とか、お母さんも、なんかすごく心配って顔して、あたしの所へやってくる。

 何て無神経なんだって、罵ってやりたい。

 つまり、何だかすべてがどうでもよくなってしまって、気持のままに全てを捨ててしまいたいような気持に駆られていた。

 「はあ、疲れた。」

 ゴロリと、部屋のベッドに横になる。

 が、こういう生活も飽きてしまって、最近は取得したバイクの免許を生かして、何か将来払いな、とか言っていたけれど外に出るあたしに感動したのか、嬉しそうにこの一台を買ってくれた。

 たまに、あたしは思う。

 あたしに将来なんて、あるのかしらって、だってずっと家にこもっていて将来もくそもないじゃない。

 いい加減にしてよ、何なのよ。

 あたしはエンジンをかけ、走り出す。



 ぐったり、という言葉が似合うってよく言われる。

 だけどそれも仕方がないじゃないか、今日も忙しいのだ。最高に忙しいのだ。

 でもあたしは毎日が充実している。

 今それを実感している。

 昔、あまり人生が上手くいっていなくてどんよりとしたことがあったけれど、あたしそれでも良かった。

 あたし、だからしたいことだけをどんな痛みを耐えてでも、我慢してし続けた。

 その結果、あたしは一代で父の年収を抜く収入を得、家族も作った。

 「ママ、パパ帰って来たよ。」

 もう小学生になる息子は、あたしの顔を見ながらはにかんだ。はにかむなんて、どこで覚えてきたのだろう。

 「うん、あ、おかえり。」

 あたしはあたしらしくないバカみたいな素っ頓狂な声を上げ、夫を出迎える。夫も、息子もあたしも、とても幸せだ。

 なら、これでいいじゃないか。

 至ってこれでよかったじゃないか。

 あたしは間違ってなどいなかった、なぜか、それを何度も自分に言い聞かせている。


 「杏がさ、独り立ちしてくれてよかったよな。」

 「そうね。」

 二人で、そんなことを言い合っている。親の心子知らず、というか、でもそんなことは良いのだ。

 僕達は分かっている、そんなことどうでもいいんだって、本当に大切なのは、今しかない、と、震える手で僕の手を握り返す、弱った妻の顔を見ながら思う。

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モスグリーン @rabbit090

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