第4話
グラウンドから子供たちの矯正が聞こえる。
だが、彼らはもう高校生だ、高校生てこんなに幼かったっけって、そんなことを考えている。
例えば、私はその当時、毎日不眠に悩まされて寝付かれなかった。
私は、親友を失った。
そして、大人に為らざるを得なかった。
理不尽が、許される世界になど住んではいられなかったのだ。
私たちは、彼女を殺してしまったのだから。
「久子が?」
聞いた瞬間は、何があったのか把握することができなかった。
しかし、急いで制服に着替え、電話で担任から聞いた場所へ行き、久子の葬儀に参列した。
その時は、夏休みだった。
私は、久子とは高校からの知り合いだった。が、彼女は町では有名で、よく親から怒鳴られたり、すごく痩せていてロクなものを食べていないのだと分かったり、とにかく虐待されていることだけは誰しもが知っていた。
けれど、手を差し伸べるには、彼女の家庭はあまりにも複雑だった。
お父さんは地元の普通のサラリーマンで、しかし家にはあまり帰っていないらしい、そして、お母さんはとてもきれいな人だった。ハッと、目を引くくらい美しい。そして、久子とも、ずっと虐げる関係ではなく、たまにはにこやかにお茶をしたり、そういう普通の側面が多くあり、周りの人もそんな穏やかな彼等には普通に話しかけられたのだという。
が、家に帰ると、その家からは怒声が響き渡る。
久子はいつも、怯えていた。
彼女は、母には似ず、大人しく地味な顔立ちをしていた。
それも、もしかしたきれいすぎるお母さんには癪に障ったのだろうか、とか、いろんな原因を考えるけれど、やっぱり久子のお母さんが豹変する理由は未だに分からない。
そういう感じで、見て見ぬ振りがしばらく続いていた。
が、ある日。
「いじめを苦に、死んだって。」
え?
いじめ、久子が?
私はぼんやりとした頭で、自殺をしたという久子の顔を見た。
きれいに化粧がされていて、そんな大それたことがあったかのようには思えない。けれど、
「あんたたち?久子をいじめたのは。」
顔を真っ赤にした久子の母が私たち同級生に詰め寄った。
が、正直身に覚えがあるのは数人だった。ちょっとからかったことはあるけれど、それはいじめというより無視に近かった。
家庭環境が見るからに複雑で、関わり合いたくない存在、そんな感じでみんなが彼女を避けていた。
それが、いじめ、そして久子の死んだ原因。
私は、なぜか私たちを睨みつける久子の母親と目を合わさずに下を向いていたが、ある子が口にした。
「…でも、久子はお母さんにいじめられてたんじゃないの?お門違いよ、町の人もみんな知っている。」
それには、みんなが沈黙をしながら首肯した。
が、久子のお母さんは、何も言わずに立ち去った。
今でも、私には彼女が傷ついているのか、苦しんでいるのか、何を考えているのかが分からない。
そして、私達のいじめ、とだけ書き残して死んだ久子は、どういう気持ちだったのか、でもそれだけは少しわかってしまうようだった。
久子は、母を悪く言えなかった。
でも悔しかった。
自分が、こんなに若くして死ななければいけないという現実が。
悔しかったのだろう。
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