第3話
派手なワンピースに、年格好に似合わないツインテールで現れた女が杏の母親だった。
いや、語弊がある。
杏の母親は、本当は今の妻だ。が、この女は杏の育児を放棄し、自分の趣味、そして男に走って行った最低な人間だ。
「お待たたせ、行こうか。」
「うん。」
杏は、とてもうれしそうだった。
この子のことは、正直妻に任せきりになってしまっていて、申し訳が立たない。が、杏が不安定になってしまうのだって訳があるのだと、そしてそれがこの女のせいなのだということは重々承知していた。
だから、杏が望むのならば、僕はこの悪魔に杏を合わせ続けるのだろう。
いつか、もうあの女はいい、と杏が断言する日まで、僕は杏の望むようにしてあげるつもりだった。
車で杏を送ってから、僕は妻とお茶に出かける。
唯一、ご苦労様とお互いが息をつける貴重な時間でもあった。
「こんなとこ、いいの?」
「いいよ、君にはいつもお世話になってるし、最近杏、随分穏やかになったな。」
「そうよね、高校卒業を間近に控えて、考えるところでもあるのかしらね。」
「だな、でも何か、学校でももめごとがあったんだろ?」
「うん、だからちゃんと私、あの子の味方になったよ。」
「ありがとう、それにごめんな。」
「ううん、いいの。」
僕たちは、静かに茶を啜る。
ケーキセットを頼んだから、ちょっとお高いところでランチをするくらいの値段になってしまった。
「うふふ、すごくおいしい。久しぶりね、こんなところに来たの。」
「そうだね、今度は杏も連れて来たい。」
「そうね、でもあの子も、もう大人になるのね。高校の時までは色々なことがあったけど、でもその分立派になってくれるんじゃない?」
「うん、そうだといいな。」
何か、熟練した夫婦みたいな、そんな会話を交わしている。
僕たちはまあ知り合って、10年とかそんな程度の関係なのに、杏の母親含め、全てはこの人なのだと感じてしまっている。
けれど、たまに思うことがあった。
同級生ともめ事を起こしてしまうような娘を、善悪抜きで味方になってくれる、そんな彼女の強さはどこから来るのか、今でもよく分からない。
だから、僕は考えている。
この人のために、これからは尽くすのだ、と。
あの女は、あの女は杏を虐げた後、男の元へと去って行った。
本当は、弱い人だということを一番知っていたのは僕だったのに、すべてを任せて壊してしまった。
だから、僕は、本当は自分が一番悪いのだということをよく分かっている。
「じゃあそろそろ出る?」
「そうしようか。」
恥ずかしげもなく、妻の手を握った。
そして、そんな様子も関係なくニマリと笑って、彼女は僕の手を握り返した。
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