第十六話 ちくわドラゴン。

 呆然としている八生の前へ鏃は立ち、その体で盾になる。

 炎が吹き止むも、鏃の持っていた木の棒は焼き焦げ、その手中で崩れ落ちた。


「フゥーッハハハ! 服まで焼くのは勘弁してやろう、センシティブ判定を受けて仕舞えば、吾輩のことが周知されんからなあ!!! さあ、大人しく立ち去るがよい」


 八生がハッとした様子で鏃の背中を見る。


「や、鏃、おかげで助かった。しかし冷蔵保管庫が……」


 冷蔵庫の扉は開いており、中には扉側のドリンクスペースにちくわが引っ掛かっているだけであった。

 八生はそこからちくわを取り出し、震える手で鏃に渡す。


「これだけが残っていた……。とにかく今はドラゴンを倒すことが最優先だ、先ほどの焼き芋のように何か起こしてくれ!」


 鏃はちくわを受け取り、頭を突き出し目を細めるドラゴンへと向けた。


「なんだそれは。ちくわか? それで吾輩を餌付けし、手懐けるつもりだったのか? ……バカめ。吾輩たち魔族はその辺の下等生物とは違い生命活動を取る必要はないッ。まあいい、貴様ごと食い殺し、味の感想をりすなー共に伝えてやろう。さて、最後に言い残したいことがあれば聞いてやるぞ?」


 鏃の方へとカメラが近付いてゆく。


「えーどうも、今日はドラゴンをちくわで倒せるか挑戦してみます……」

「狂ったか冒険者ァ!」


 ドラゴンは体を起こし、鏃に噛み掛かる。


 しかし、鏃に迫るその牙は——ちくわの穴から放たれた緑色の光に弾け飛び。


 ドラゴンの体、翼に大穴を開けた。


「グヒッ……何だこれはああァ!!!」


 ドラゴンは赤いワンピースを着た白髪の少女へと姿を変え、口を抑えるようにして床の上に疼くまる。


「えー、どうにかちくわでドラゴンを倒せました。この動画を気に入って頂けましたら、チャンネル登録といいねをお願い致します」


 鏃は端末に向かってそう言い、お辞儀する。

 端末が鏃の手元へと戻った。


「……クッハハハ、このいたいけな姿の吾輩を殺せば、配信に規制が掛かるぞ。どうだ、止めを刺せまい!」


 鏃は顔に影を作りながら、ジリジリとドラゴンの方へと近付く。


「ヒッ……近寄るな! 幼龍だからと言って嘗めるなよ! 吾輩はヒト形態の方が強いんだからな!」


 鏃は少し離れたところで立ち止まった。


「君、モンスターでありながら喋れるのか」

「何を言う、お主ら人間が喋れて、我らが喋れぬワケがなかろう? もっとも、人間の使う俗な言葉などを使うのは、極めて稀であるが」

「うーむ」


 鏃がちくわを構えると、ドラゴンは内股で座り込んで身構えた。


「やめろ゛ー! そ、そこの子娘、吾輩を助けろ! 同年代のよしみで!」

「あなたを倒さないと国からの固定報酬が出ませんし、今生こんじょうは諦めてください」

「お、大男! やめてくれ! 何でもするッ、何でもするからッ。ウヴッ、吾輩はここで傷付いた体を休めていただけなのにッ。パパ、ママァ……」


 ドラゴンが欠けた歯を見せながら叫び、涙を流し始めた。

 鏃はちくわをポケットに仕舞い込む。


「どういった事情かは知らぬが……八生どの。ワタシはこの者を仲間にするのもよいと思う、どうだろう」

「んー、じゃあこうしましょう」


 八生は鏃に近付いて手をこまねく。

 鏃がしゃがむと、八生は耳打ちを始めた。


「この塔の下層には、まだモンスターがいます。収益可の条件を満たす為にも、入口まで降る様子を撮影しましょう。ドラゴンさんはまあ……この様子だと飛んで帰ることもできなさそうですし、入口まで連れて行ってあげましょうか。仲間にするかはそれからです」

「そうだな。そうしよう」


 2人がドラゴンに目を向けると、ドラゴンは泣きながらチラリとこちらの様子を見る。


「……ドラゴンどの。このままでは飛び立つこともできまい。一緒に塔を降らぬか?」

「……何だと。そんな条件で見逃してくれるというのか?」

「ああ。ドラゴンどのは同胞殺しに抵抗はないだろうか」


 ドラゴンが頷くと、鏃は端末を操作する。


「ではこの塔を降ろう」


 端末が浮かび上がり、撮影を始めた。

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弓精霊の伝説回 ~武器強化チートを持つ弟子、修行中に女の子を助けてバズり守破「離」でダンジョン配信始めました。でも貧乏なので武器がない~ 坡畳 @I15UUA3

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