第十五話 塔の頂上へ。

 転送装置で移動した先は、石の壁に燭台の炎が灯る室内広間であった。

 その広間から出ると、遠くに城の見える石造りの町が目の前に広がる。


「ここはナイトヘルムの町です。少し南西へ向かうと龍の塔があるみたいで……あっ、アレですね」


 遠くには、景色を縦に割くような黒い線が見える。

 それは雲を貫いており、異様な存在感を放っていた。


「アレがそうなのか」

「はいっ。ダンジョンまでは遠いですが……もう配信始めて、予告代わりにしましょう。鏃さん、端末の配信モードをオンにしてください」

「しかし、何を話せばよいものか」


 八生はニヤリと笑った。


「私にお任せください。それに今回は2人での配信なので、気負うことありませんよ。楽しくやりましょう」


(そういうものか? まあ、ダンジョン内では八生どのが言っていた通り……木の棒で戦うとしよう)


 鏃が端末を取り出して操作すると、端末は鏃と八生の頭上に浮かび、カメラを向ける。


「どうも、鏃です。今日は仲間である……え……」

究極暗黒弓アルティメットダークアロー、シューティーだ。鏃とは古くからの知り合いでな。よろしく頼むぞ」


 八生はカメラに向かってカッコつけたお辞儀のようなポーズを決めつつ、端末から少年っぽい声を出した。


「はい。よろしくお願いします」

「鏃よ、これから我々はあの塔へ向かう。その為に……この芋を食えッ……」


 八生は鏃の背にある冷蔵庫から焼き芋を取り出し、鏃に手渡す。

 鏃は受け取ると、頂きますといい食べ始めた。


「鏃は武器をとんでもない力へ変えることができる。あの塔にいるドラゴンなど、一撃で葬れることだろう」

「……シューティーどの。相手はそう簡単なものでしょうか」

「鏃なら、な。試しにその手にある芋を武器と思い、空にある雲を切って見せよ」


(八生どの、さっきまでと随分と性格が。……いいや、あの雌餓鬼猫さんと同じように、役を演じているのだろう)


 鏃は力を込めて、空へと握った芋を振った。


「まあ、何か起きる訳もないか。しかしだな、鏃の実力は本物だ。リスナー諸君、これから向かうダンジョンで起こることに期待していたまえ」


 そう言いながら八生は冷蔵庫の扉を閉じ、背負子を握る。

 すると突然、鏃と八生の体は轟音と共に空へと浮かび上がる——。

 下にあるナイトヘルムの町から、端末が鏃たちを追うように飛んでいく。


「いい匂い……」

「そういや腹が減ってきたな」


 ナイトヘルムの町の人々が、どこからか香る匂いに朗らかな顔をした。

 町の様子を見張っている鎧兵が、もう1人の鎧兵の肩を叩く。


「何だ? 焼き芋屋なんて出てたか?」

「さあ……」




 ——上空では、2人が塔へ向かって飛んでいた。


「さすがシューティーどの! 武器と思ったら何だか空を飛べたぞ!」

「や、鏃さんっ! まずいですこれ、どうやって着地……ウッ、離すと死んぢゃゔゔっ゛」


 叫ぶ八生を鏃は抱き抱え、塔の頂上へと足を付けた。

 どうにか勢いを殺して端に留まると、身を屈め眠っていた巨大な白の翼龍が目を覚ます。

 

「何だお前ら……。俺を倒しに来たのか?」


 黄金の瞳に鏃と八生の姿が反射する。

 鏃は八生を降ろし、木の棒をドラゴンに向かって構えた。

 端末が鏃たちに追い付き、ドラゴンはその端末を睨む。


「鍛冶屋の手先が、調子に乗りおって……」


 ドラゴンは2人に向かって、口から炎を吐き出した。

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