宝石の涙
「「本当ですか!?」」
息ぴったりに言い、喜ぶ二人。私はゆっくり目を伏せて「あぁ」と、静かに頷いた。
「やったー! 先生にはダメって言われるかと思ったよぉ」
「私も、戦場に行かれる方と聞いて、厳しい方だとばかり思っていました」
「え! 式はいつにする!?」
「き、気が早いですよ! まずは……」
仲良く結婚式の相談をする二人に、昨日の自分を思い返して笑ってしまう。なんて愚かな考えを抱き締めていたことか。もっと早くに認めてしまえば、リリーと、その旦那になる男の幸せそうな笑顔を、愛らしい姿を、こんなにも見ることができたというのに。
思えば、お似合いではないか。戦場が似合わない優しいリリーと、血が似合わなそうな優しそうな男。自分とは正反対の、光の世界にいる二人。私が、彼に勝てるはずもなかった。幸せそうな、温かい、平和が似合う、この二人の仲を引き裂いて良い理由なんてなかったのだ。
__これでいい。
そう自分に言い聞かせながら、私は、自分の気持ちをただ誤魔化した。
「先生」
リリーが軽い足取りでこちらに近づいてくる。何かと思えば、ふと頬に軽くキスをしてきた。一瞬の柔らかい感触。何が何だかわからず、私はピタリとフリーズする。
「ありがとうございます、認めてくれて」
呆然とリリーを見つめていると、彼女は、私の大好きなその笑顔で、照れながら、そう伝えてくれた。
「あ! でもでも! 弟子はやめませんよ! そこはお世話になり続けるので! 今後とも、よろしくお願いします」
イタズラに笑うリリーに、再び愛おしさが込み上げてくる。私の気も知らず、軽率に、私の心に触れてきては、かき乱してくるリリー。私は、思わず吹き出してしまった。そんな私を見て、二人も笑い出した。
本当に、温かい、良い家族だ。私には、眩しすぎる。
__数ヶ月後。
ついに結婚式前日となった愛弟子を、私は、新郎と共に呼び出した。
「これを」
私が二人に渡したのは、自分の涙で作ったあの耳飾りだった。
「お守りにでも持っておきな。小さいけど、私からの祝いの品」
「えっ!? これ、すごく高そうだけど……」
「本当に良いのですか? こんな高価なもの」
「あぁ、もちろんだ」
ほぼタダだしな、とは言えず。困惑しつつも喜ぶ二人を見つめながら、「やっぱり寂しいな」と噛み締める。この思いに、嫉妬が含まれていたことに目を背けながら。
__結婚式当日。
花嫁姿の愛弟子を見に行くと、すぐさま私を見つけ、手を振ってくれた。幸せそうな二人を見届けようと頑張ったが、いつから弱くなっただろうか、途中から耐えられずに、思わず退席してしまった。黒い煙に覆われた世界から来た私には、太陽の光は眩しすぎた。
帰る途中、新郎の友人だろうか、男性の声がいくつか聞こえてきた。
「あいつら二人の耳飾り、魔女の涙が使われているって噂だぜ」
「はぁ? 不吉だなぁ。捨てさせろよ」
「それがさぁ。その噂を聞いてもなお、新婦の女、『魔女の涙は恋愛成就の効果があるから』みたいなこと言っていたらしいぜ?」
「あっはっはっ! 逆だろ! 魔女の呪いで、案外すぐにこの婚約はパァかもな!」
「だよなー!」
「おい、やめろよ。祝いの席で」
「でも、あれが縁起悪いのは確かじゃね?」
「先生先生ーって、魔女の家に住み着いていることも、不気味だしな。あー、やだやだ。洗脳って怖いわ」
なんだ、バレていたのか。流石だな、と感心しながら、ふと、自分の頬に触れる。
破局の効果、か。
もし、そんなことがあったなら、それもいいかもしれない。むしろ、その方が良いかもしれない。上手くいったらおめでとう、上手くいかなかったら戻っておいで。それでいい。それがいい。
私はきっといつまでもあなたを待ち続ける。唯一私が焦がれたあなた。唯一、私を泣かせたあなた。かけがえのないあなたと結ばれたい。他でもないあなたと、本当の家族になりたい。
わかっている、この願いは叶わない。そんなこと、わかっている。
それでも私は愛し続けるのだろう。叶わないと知りながら、愚かにも、いつまでもあなたを待ち続ける。この想いを捨てられず、永遠に。
その後、案の定と言うべきか、私の恋が叶うことはなかった。
何年も、何年も、叶う気配すらなかった。
皮肉にも、私が彼女を想えば想うほど、二人の仲は深まっていった。
魔女の涙は、今でも二人の愛を照らし続けている。
宝石の涙 葉月 陸公 @hazuki_riku
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