第7話 スキル持ち
「うん、はい・・・。分かるけど、やっぱり真結の事は放って置けないから・・・、うん。」
小萌は無事裏山を抜け、となり町にたどり着いていた。
そこでは町で起きた軍事侵攻について何も伝わっておらず、小萌はようやく叔母に電話連絡を取る事が出来たのだった。
「御神刀は貸金庫に預けたから、鎮守様にお礼を言ってお返しして下さい。うん。これまでお心遣い頂いて有り難うございました。って」
すぐ近隣でヘリが飛び交い、国道がバリケードで封鎖される状況下にあるのに、この街からはそんな気配は何も感じ取る事は出来なかった。
ソーシャルメディアは書き込んでも公開される事はなく、ひょっとしたらネットメディアを抱き込んだ情報封鎖が行われているのかも知れなかった。
「それじゃ叔母さん。これ迄色々お世話になりました」
小萌は叔母に今生の別れを告げると返事も聞かずに電話を切った。
敵に自分の居場所を特定される怖れがあったし、何より湿っぽいのが大嫌いだったからだ。
けれど、電話ボックスの扉を開こうとする小萌の前に、鈍色に光るジュラルミンのアタッシュケースが出現する。
同時に、切ったばかりの公衆電話から着信のベルが鳴り響いていた。
◇◇◇
「カウント-49,-50,-51,-52,タッチダウン!」
八輪の大型タイヤが大地を噛み、独立懸架のサスペンションが着地の衝撃を吸収する。
「6時に向かって全力後退!」
着地と同時に美帆の指示が飛ぶ。
昔取った杵柄で、美帆の指示は絶対と身体が覚えている。
エイスンは半ば条件反射の様に装甲車を後進ダッシュさせていた。
同時に車体をリフトアップさせてオフロードモードに移行させる。
着陸地点との間に木々を挟み込むようにジグザグ走行させながら鮮やかにスピンターン決め、前進走行に移行する。
「出来るだけ森は迂回して、速度優先で撤退して!」
「なんだ!どうしやがった!」
急ハンドルを切りながらエイスンが尋ねる。
「悪い知らせと、良くない知らせが有るわ」
その言葉にエイスンが苦い顔をする。
「悪い方から頼む」
「ヘリから離脱したのは“スキル”持ちよ。防御不能の空間切断系の斬撃を飛ばして来るわ」
後方監視モニタの中で、見上げるような大木がゆっくりと倒れて行く。
まるで、ハリウッドムービーの様な画像を眺めながらエイスンが溜息をつく。
確かにこいつとガチのケンカはヤバそうだった。
「それで、良くない方は?」
「ルイスの腕は思っていた以上に長かったみたい。あたしの地元が大隊規模の軍隊から攻撃を受けているわ」
それを聞いてエイスンのハンドルを握る手に力が籠もる。
「おまけに、太陽黒点の活動が急激に活発化して超空間チューブからのエネルギー転送率がダウンしてるの。継続して助言はするけど、追加の物資は送れないし、これ以上の人手も出せない。此処に有る物だけで何とかしなくちゃいけないわ」
「そいつは確かに良くない知らせだ」
そして、エイスンが話を促すように間を取ると目の前のダッシュボードが開いた。
「軍事用のナノマシンが4単位、これを使えば身体機能に限っては5分に引き上げられる」
「デメリットは?」
「実家の方の法規制で使用者は
「使い方は?」
「目の前のブレスト・アーマーを着用して胸ポケットにナノマシンのインゴットを装填。ヘッドセットに表示された契約に了承すればっ・・・て、何いきなり着ようとしてるのよ!良く考えなさいさいよ!」
ハンドルから両手を離し、ブレスト・アーマーを着用しようとするエイスンを美帆の声が叱る。
「ばぁか。そんなヒマ有るか。それと獲物は? 身内になるんだから、ちったぁマシな武器をよこせ」
そんなエイスンの言葉に反応するように、運転座席の右手にウエポンハンガーがポップアップする。そこにはエイスンにとって使い慣れた大きさの盾が3枚格納されていた。
「おいおい、この期に及んで格上の相手に盾かよ、なんかもっと・・・」
「飛び道具でなんとかなる相手じゃないの。マニュアルはナノマシンにインスツールして有るけど、その盾にはレプリションフィールドとイナーシャル・コントロールが仕込んで有る。空間切断には分が悪いけど、使いこなせるとしたら、あなたしかいないわ」
ひゅう。
エイスンは無意識に口笛を吹いていた。
レプリションフィールドは空間拡張、イナーシャル・コントロールは慣性制御、どちらも穂積の虎の子の秘密技術である。
どちらの技術も人類の手が届きそうになっているとはいえ、実用はもう何段階かのブレイクスルーの後だ。それに、2つの機能を片手に乗せるには数百年単位の技術研鑽が必要となるだろう。
つまり、エイスンの目の前にあるのは、この時代にそぐわない加工品、言うなれば「 OPARTS《オーパーツ》」なのである。
「武器としての優位性は2対8だけど、あなたの“いなし”の技術があれば、対抗できるってマルティエは言ってる」
「格上に、獲物の技で挑めって事か。へへっ、燃えるじゃねえか」
「あのっ、小萌は? 小萌がどうなったか分かりませんか?」
それまでただ話を聞いているだけだった真結が口を挟む。
「だれにも跡を付けられない無いようにして逃がしたわ。今はセーフティーハウスの一つに向かってるはずよ」
美帆の言葉に真結が胸をなで下ろす。
ビリビリビリ。
その時、装甲車両の内部に衝撃が走った。窓の無い車両内部の明かりが明滅する。
「レプリションフィールド7%減耗。慣性衝撃は無し。本当に空間だけ削り取られてるわ」
急ハンドルを切るエイスンの手が、そして顔が、露出した肌の全てが金属光沢で覆われ、そして元の肌色に戻って行く。
それは彼がナノマシンを使用した証だった。
「迎撃武器は?」
「8mmφのエキシマレーザーが有るわ」
「照明灯で照らしてから、パルスでばらまけ。真結はもう一度敵の取り込みを」
夕暮れの薄闇を照明灯の明かりが切り裂く。目を眩ませ、敵の影が一瞬足を止めたところに高出力レーザーが放たれた。
パパッ、パパパッ!
「・・・やったか?」
エイスンの言葉に反応するように車体が揺れる。
「レプリションフィールド14%減耗。21,28%減耗、・・・敵の反応速度に遅延無し。どうやら怒らせただけだったみたい」
「掌握は再びレジストされました。敵側の位階は力天使級、でも座天使の守護を受けてるので改宗は不可能」
真結がそう告げる。
「打つ手無し。レプリションフィールドが30%を切ったら車両を捨てましょう」
美帆がそう決断する。
「私は自身の気配を絶って、身代わりの気配を置く事が出来ます」
「なら、射出座席があるからデコイにしましょう。エイスンは距離を稼いで」
「任せろ」
真結は今も自分に対する強い敵意を感じていた。
敵の狙いは真結で、それは彼女が掌握の力を示したからに他ならなかった。
高い位階があれば、群れを丸ごと自分の配下に出来る。
親の総取り。これはそう言うゲームなのだから。
ゴクリと飲み込む唾が苦く感じられる。
「助けて、小萌・・・」
右手に左手の爪を立てて震えと戦う。
ジリジリと対決の時が迫って来ていた。
鬼とJK 坂月つかさ @kibadrv
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