第41話 神の悪戯、真の最強と偽りの最強

―――その願いを叶えよう―――


 神崎たちの願いを神が悪戯で叶えた世界線、神崎は神を超越したわけではない。


 それに対抗することが選択できるだけだ。


「ここは………」


 過去の世界、日本がまともな人間しかいない世界線、この世界では氷川も上杉もベストコンディションだろう。


「俺の体も幼くなっている。しかし、この能力は残ったままか………」


 神のちからに通ずる◯◯◯◯◯◯は健在、神崎は今まで通り、優勝を飾り、参加資格を得る。


 しかし、この世界には、彼らは居ない。


 そう、氷川も上杉も桜井だって、バスケなんかしたくはなかった。


「馬鹿な!!? なんで彼らの名前が乗ってないんだ!!?」


 新聞で確認しても、決着をつけたい相手の名前は見当たらない。


 そんな時、神が現れた。


「そうだ。彼らはバスケなんてするべき人間ではなかった。」


 氷川は陸上選手となり、オリンピックを目指し、桜井は怪力で人々の力となり、腕力を振るう。


 上杉は数学者を目指していた。


「つまり、武力なんてものは不要な世界というわけだ。無論、貴様も氷川に憧れてバスケをするわけでもない。」


 神崎にとっては残酷な真実となってしまった。


 無能な人間がいる世界では、戦わなければならない。


 しかし、無能な人間がいなくなれば、戦う必要がない。


 アインシュタインのように、他人の研究を奪い取って名を上げるゴミもいなければ、増税で経済を貪るクズもいない。


 小役人な人間をむち打ちした劉備の行いを批難する腐れ儒者も存在しない。


 董卓がいいやつだったとほざくバカもいない。


「そうか………これが平和か………数学者か………やつと決着をつけるなら、その世界で戦えってことになるのか………」


 世の中、性能を潰さないと生きていけない賄賂だけのクズが多い。


 そのクズたちがわがままや好き嫌いを働き、我慢しないために、多くの天才たちが活かされなくなる。


 天才が活かされるのは、無能が死に直面し、初めて、有能に縋り付く、己の無能を認めることができないクズ共、不要な人種、それらがこの世界では有能に道を譲っているのだ。


 彼らは己をよく知っている。


 己を知り、他者を知るからこそ、豊かな世界が保たれる。


 そんな時、一人の選手を思い出す。


「そうだ………毛利は!!?」


 毛利の存在を思い出し、新聞を見回した。


「あ、あった!!?」


 毛利はバスケに生きていた。


 そう、彼はバスケの世界で最弱と評価された男、この世界では、神崎はバスケをしないはず、憧れる存在であった氷川がバスケをしていないからだ。


 しかし、今、存在する神崎はバスケに生きている。


 バスケット協会も評価を正確に発表してくれる。


「最強のレジェンズは前代未聞!! 一度もコートに立っていないこの男、毛利であると記載されているだと!!?」


 この情報に神崎は拳を握りつぶそうとした。


「この俺の◯◯◯◯◯◯よりも強いって言いたいのか………面白い!!」


 神崎は毛利のいる体育館に向かった。


 この神崎に叶うものなどいるはずがない。


 軽く挨拶するつもりだった。


 しかし、体育館を訪れると、驚愕させられてしまった。


「いらっしゃい………」


 なんと、歓迎会の準備をされていたのだ。


「あなたがここに来ることはわかっていました。神崎………あなたが別の人格であることも私は知っている。」


 神崎は驚く素振りを見せるもすぐに隠した。


 冷や汗をかいてしまうがすぐに笑った。


「あっはっはっはっは、なら、俺がここに来た理由もわかっているのか?」


 毛利は笑みを浮かべて返す。


「その理由はあなたに返ってしまう。なぜなら、私は全く『驚く』こともないのだからね………」


 そう、驚かせてやろうと思ったのだ。


 しかし、彼は神崎が来ることを知っていた。


 なぜ?


 環境があったから、神崎は毛利よりも評価が高かった。


 毛利と神崎の環境差は天と地ほどの差があった。


 しかし、この世界では環境差は平等、そして、環境を活かすも殺すも才能次第、無能が上に立てば経済破綻を招くだけのゴミ、毛利は違う。


 誰からも税を奪ったりしない。


 ジムとかで金を徴収するゴミ人間でもない。


 なら、どうやって収入を得ているのか?


 富とは、汗水流して手に入れるもの、利子とか会員費で稼いでいる無能とは天と地程も差がある。


「食文化や研究文化、金を稼ぐ? 馬鹿らしい。無能したい猿群がる世界こそ不要、そんな無能は無能していればいい。有能に実権を握らせておけば楽園は訪れる。私に関わった人間は全員、『君』よりも強い。『君』ごときに何を驚かなければならないのか?」


 毛利がボールを投げると一人の選手が神崎に挑む。


「はッ!! いいだろう!! ならば、小手調べだ!! この技で驚け!! インフィニティ・シャッフル!!」


 無限のシャッフルドリブルは無限の人材を用意して初めて防ぐことができる究極のドリブルテクニック、それをニトリの人間が止めることは不可能である。


 その選手はため息を付いて言う。


「くだらない。未来から来た癖に、そんな技で世界を取ったとは、余程、恥知らずの無能が王に君臨していたのですね。その噂はどうやら、本当だったみたいだ。」


 この言葉に、神崎は苛立った。


「何だと!!?」


 無限の『公式』を描き始める。


 仮定式であるが、人間の手は二本しか存在しない。


 一人の男が変数をいくつも書き始める。


 それらの『公式』が書き終わることは不可能なはず、しかし、この過去の世界では、『公式化』されているということだ。


「『所詮は人の技に過ぎない』………お望み通り、私ごときがあなたを『驚かせてあげましょう』………」


―――トン―――


 静かな音であった。


 神崎は取られたことにも気づけていないだろう。


 シュートモーションに入っった時、ボールがないことにようやく気がついた。


「な、なに!!?」


 手元からボールが消えていた。


「な、何をした!!?」


 毛利は笑っていう。


「はっはっは、あなたが驚くのはこれからです。そこの彼女、かくかく、しかじか………」


 その女性は、いかにも運動すらしたことがない女性であった。


「これはなんの真似だ?」


 神崎はブチギレる寸前である。


 感情が爆発しそうな相手に少女が怯えながら挑発した。


「わ、私は女バスの一番弱い選手ですが、よ、よろしくお願いします。でも、私はあなたに勝ちますので、お、お手柔らかに手加減します!!」


 この言葉に感情を爆発させる。


「ふざけるな~~~!!!」


 正真正銘、全力のインフィニティ・シャッフル。


 その業の鋭さは先程の比ではない。


 しかし、少女は全くボールを見ていないし、おじける様子もない。


 そんな時、毛利が声を挙げる。


「右です!!」


 ―――ドン―――


 神崎は次の瞬間、少女に止められていた。


 それも体ごとである。


 少女にチャージングを取られたのだ。


 つまり、完璧に止められてしまった。


 世界を取った男は最弱の女に止められてしまったのだ。


 崩れ落ちる神崎に毛利が説明する。


「インフィニティ・シャッフルは完成したと聞きましたが、まだまだ不完全のようですね………これなら、『過去の私』でなくても、『未来の私』ですら『少女』に『相手』をさせたでしょう………」


 そう、未来の毛利も気づいていた。


 それくらい簡単なものだったのだろう。


 そして、毛利はモニターから一つの映像を見せつける。


 それは、毛利の試合だった。


 毛利はベンチから指示を出し、相手選手の一人は信じられないことに、インフィニティ・シャッフルを使っている。


 そう、神崎と同じ選手など、この過去のまともな世界ではゴロゴロといるのである。


「あ、あの………大丈夫ですか!!?」


 神崎に勝った少女は手を差し伸べてきたのである。


「くッ………ちッ………俺の負けだ………だが、クリスタル大会では俺が勝つからな!!」


 感情を抑えて、負けを認めれば少女は満面な笑みを見せた。


「毛利さん!! わ、私、やりましたよ!!」


 これほどの屈辱を受けたのは久々だった。


 最強と祭り上げられて最弱に負けたあの時のように、腸が煮えくり返るような闘志を神崎は思い出してしまっていた。

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クリスタルバスケ・ワールド 飛翔鳳凰 @remon0602

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